2025年 第25回プログレス賞

第25回プログレス賞受賞作品 
  地球(テラ)の裏側  矢島由美子  30首
 
道端の桜の老木今生を必死に咲くから必死に眺める
朝七時地球の表面動き出し人等を皆運び始める
この秋も庭のどうだん色づいて季節はラセンをなして流れる
大海を渡り来しマグロ大海を知らぬ私の食卓に載る
シンメトリーのアジの干物の均衡を狂わせている背骨一本
スパイラルな高速道路を行く夜は都市の奈落へと引き込まれてゆく
紙コップにないしょの話つぶやきて誰に張ろうかこの糸電話
シャンプーを泡だて髪を洗いおれば空に入道雲高くわきたり
礼装のストッキングのでんせんし胸にのぼり来悲しみの黒
郵便受けに居座っていたカマキリが葉書を先に読んでしまった
寝ころびて抜ける青空見つめれば未来もあるかと思える秋の日
シャンパンをポンと開ければ遠き野にチューリップの花開いたような
風に揺れるコスモスの花とシンクロし児は畑中の道走り来
ソリストの演奏を目に焼き付けるまた明日からの日常のため
もろこしの整いたる列の中程の足並み乱す一粒より喰う
赤色がラッキーカラーと聞かされて家中の赤探してまわる
自転車の我を追い越し「若さ」とう二文字の乗ったバイク走りゆく
喪のバッグの黒の中より真っ赤なるサイフの見えて現(うつつ)のぞかす
大根を抜きたる穴のその奥の地球(テラ)の裏側・テロ・殺戮・暴挙
一粒のカボチャの種より七個の実 因数分解など解けなくて良い
まだハシもろくに使えぬ小さき手が我より器用にスマホを使う
おむつしたまんまるお尻も園服を着ればりっぱに社会の一員
努力とか忍耐とかは春の日のうたた寝のわれには縁なき言葉
雑草のつるは木の枝を登りゆく我の向上心は置き去りにして
うなぎ食べ短歌(うた)つくれたとう茂吉まね〆切前に食べる鰻重
花々が競い合って咲く五月 争う事など無くなりし我は
コロナ禍の自粛の日々の青空に一羽の描く大きな∞(無限大)
高枝の柿の実一つもぎ取りぬ秋の空気もわしづかみにして
初詣の長蛇の列に呑まれいるひき返せない事ここにもありて
過ぎた日を生き直したし 桜(はな)ぬらし心の虚(うつろ)に落ちる春雨