最新 2025年夏季号

2025年夏季号 NO.280号
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC
  短歌の多様性  宮澤 燁
〈15首詠〉 小原起久子・宮崎 弘
      藤巻みや子・堀江良子
〈山下和夫の歌〉 1997年『埴』4月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・牧口靜江
       江原幸子・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・石井恵美子
       赤石美穂・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 天田勝元・大場ヤス子
       菊池悦子・ほか
ONE MORE ROOM 小原起久子
   山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より
    44【ルビについて】
一首鑑賞   江原幸子・元井弘幸
〈まほろば集〉佐藤香林・今井洋一
〈作品Ⅱ〉  渡邊香子
〈会友〉   板垣志津子・井出堯之
       川西富佐子
短歌の作り方覚書 28
 異化表現について   堀江良子
ESSAY 石神井公園   石井恵美子
〈題詠〉宇宙
  石川ひろ・清水静子・今井五郎
  茂木惠二・佐藤真理子・板垣志津子 
  大場ヤス子
玉葉和歌集(抄)29  時緒翔子
ESSAY いまさらですがⅠ・Ⅱ 小原起久子
24年冬季号作品評 
作品Ⅰ評        堀江良子  
15首詠・まほろば集評 石井恵美子 
作品Ⅱ・題詠評    菊池悦子
ばうんど
編集後記

表紙絵 山下和夫

会員作品(抄)
 ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
橋脚を覆い草より湧き立てる河鹿の声の
凱歌のごとし      小原起久子 
はかなき命儚きままに鳴くかじか河鹿蛙は
まるはだかなり     同
雲海を破りてぐらり陽の昇る幻覚にいていのち
華やぐ         宮崎 弘 
来し方にむだの時間のありたるやボーと過ごせる
午後の陽だまり     同
夕さりて戦(そよ)ぎし欅しずまりぬ風に帰る
ところのありて     藤巻みや子
夕されば「かえる」と言いし父なりき未生以前を
人は求める       同 
藤房の露手のひらに束の間を身の紫に
染められてゆく     堀江良子      
草に伏し己が気配を消し去れば身は
銀漢の色に濡れいる   同
【山下和夫の歌】 1997年『埴』4月号より 
鮎の瀬に踏ん張っていし踝(くるぶし)のそれぞれは
ちちははに賜る     山下和夫  
あじさいの藍の花毬切る鋏撃ち落としたるは
他界の手なる      同
わが庭に伸びて一夏の青点(とも)すクレマチスも
風の中の蒼眠      同
【作品Ⅰ㋑】 
春が来れば咲く花のごと戦(せん)めぐりアキバ系
男子も出兵す      宮澤 燁 
満面の笑みなる人等は黄泉の人 この世のわれには
また新年が来る     牧口靜江 
大根は力を込めて切るものよ研げばなおさら
切れぬ包丁       江原幸子 
茶の友の喜寿を祝いて「あかとんぼ」オカリナの音色に
あわせて合唱      佐藤和子 
約束の時間を過ぎて来ぬ人を雨上がりの街に
待つも楽しき      石川ひろ 
流星群のピークに出かけふたつみつ数えること
無く帰る        元井弘幸 
【作品Ⅰ㋺】
地を削り太平洋へと利根源流萎えて久しき
我が脚たたく      相良 峻
新米に焚けるむかごのほろほろと晩秋の身を
ころがりてゆく     石井恵美子 
七十路のフィットネスマットの上(え)に「浜辺の女(おみな)」
ポーズ良好       赤石美穂 
手のひらを点すホタルの息づきに合せて
沢の涼を吸い込む    今井五郎  
脳トレとゲームにリセット繰り返しリセットできない
一日暮れゆく      佐藤真理子
【作品Ⅰ㋩】
春の日に ブロッコリー抜く親子見ゆ孫ははるかな
遠き地におり      天田勝元 
みこも刈る信濃の国の渋温泉霧わく山の
朝湯につかる      大場ヤス子 
「そうかもう」食器棚探し苦笑い愛用のマグカップ(マグ)
割ったのはわれ     菊池悦子 
初めての離乳食を食むひ孫双手挙げあげ
笑むはパパ似か     﨑田ユミ 
催促のつもりはなくてイチジクの美味をほめたり
朝の散歩に       清水静子 
河原(かわはら)の草木のみこみ葛の葉がつながりゆけり
巨大なアメーバ     反町光子 
老友は憮然としてかけてくるその強さを
たたえるなり      坪井 功 
認知症いや熱中症の気にかかる夏のセールの
葉書眺めて       萩原教子 
空が青筋雲が白の濃さ増した秋のスクランブル
交差点         茂木惠二
【まほろば集】 10首
義父の忌を幾たび迎へし歳月か三十四歳の
死の顔知らぬまま    佐藤香林 
戦地にてマラリア病みし義父なれば脳腫瘍にもなりて
死にしとふ       同 
愛しさを伝える言葉詰め込んで隠す心の
後朝(きぬざね)の文  今井洋一 
道長の詠みし望月見上げおり気がかり無きや
雲かかるとき      同
【作品Ⅱ】
色褪(あ)せし折鶴二羽が文箱に微睡(まどろ)むことも
許されぬまま      渡辺香子
【会友】
おのが身にあさかげあつめ蜜蜂の一つが残菊を
点検してゐる      板垣志津子
グラウンドも超高層ビルの中公立小の
授業始まる       井出堯之 
まだ霜の降りない朝の風を浴びて皇帝ダリアが
凛と咲きおり      川西富佐子 
早春に寒波到来氷点下梅の芽はまた
深く映る日々      土屋明美 
腎機能次第に強まる食べ方と新聞にのり
試しみる        中山幸枝 
白薔薇がハラハラ散りて軒のした母の最期は
六月の夜        牧野八重子 
【題詠】 宇宙 3首
ふんわりと箍(たが)の外れて宇宙に浮くヨガの
最後の無空のポーズ 石川ひろ 
宇宙よリ届きし光新たなる年の始まり
 川波揺るる    清水静子 
夕焼けのまだ残りゐる西空に輝きはじめる
宇宙のホタル    今井五郎 
人類の夢抱きつつ「コウノトリ」宇宙の駅に
飛び立ちゆきぬ   茂木惠二 
天秤座の鼾聞いてる水瓶座宇宙の中の
あなたとの距離   佐藤真理子 
下手なうたに慰解もとめて数十年 自分の居場所
自分の宇宙     板垣志津子 
イタリアに旅ゆく娘の乗っている飛行機見上げり
宇宙のつづく    大場ヤス子