バックナンバー 2017年7月号~2022年秋季

2022年秋季号 NO.269
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
  辞世の歌   森 たま江
〈30首詠〉  堀江良子
〈15首詠〉  牧口靜江・西村英子
山下和夫の歌 1988年『埴』2月号・4月号より 
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・
       森 たま江・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・石井恵美子・
       赤石美穂・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 茂木惠二・天田勝元・
       伊藤由美子・ほか
山下和夫の歌72     小原起久子
 歌集『耳』(1995年第5歌集)   武尊(その1)
〈まほろば集〉 矢島由美子・藤巻みや子
〈作品Ⅱ〉今井洋一・大川紀美枝・
     小曾根昌子・ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・
     髙橋眞砂江・ほか
〈題詠〉天・空  西村英子・反町光子・天田勝元
         菊池悦子・大場ヤス子・みたけもも
ONE MORE ROOM 小原起久子
 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より 32
    【数詞とくに「一」にかかわって】
一首鑑賞 江原幸子・藤巻みや子
     萩原教子・茂木惠二・板垣志津子・宮澤 燁
短歌の作り方覚書17  歌中の敬語・丁寧語  堀江良子
追悼 小澤嘉子さん 森 たま江・佐藤香林・
          清水静子・江原由美子・元井弘幸
歌会点描(12)      相良 峻
ESSAY サテュロスのしっぽ   小原起久子
    「宇宙短歌」に寄せて  石川ひろ
玉葉和歌集(抄)18        時緒翔子
『炎の女たち』古代編(42) 山下和夫著
春季号作品評 作品Ⅰ評     石井恵美子
15首詠・まほろば集評      佐藤和子 
作品Ⅱ・題詠評         佐藤香林
ばうんど
新刊紹介
編集後記
表紙絵 山下和夫


会員作品(抄)   
ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【30首詠】
高層のガラスの窓の囲む街いずれの窓の
奥にもまた街       堀江良子
【15首詠】
わが生に繋がるもののひとつにて
瞬を輝く掌の雪      牧口靜江
風呂の栓またもや忘れ警告の声は軽やか
霧のごと消ゆ       西村英子
山下和夫の歌 1988年『埴』2月・4月号より
カタバミの弾(は)ぜて落ちたるくさむらも
秋くれないのこの世であった    山下和夫
群れながらみな孤独なる眼をみはり水槽をめぐる
青きハマチら              同
【作品Ⅰ㋑】
ヘム鉄の不足している晩年を献血せよと
哀蚊(あわれが)が寄る  小原起久子
砲撃のテレビ画面の明るさの吾が目吾が耳
明るく曇らす       宮澤 燁
健やかに八十二歳となりたる日友逝きし報せ
老いの日はさびし     森 たま江
待ちわびた梅の開花を愛でる宵親しきひとの
また一人逝く       宮崎  弘
境内に二羽の雀が餌をつつく幼い頃の
時間の中に        江原幸子
昇る日に良き日を祈り感謝する背後(せな)にコロナ禍
吹き荒ぶなか       佐藤和子
りんどうの声を聞きおり手に掬う一粒の
露のため息        石川ひろ
都はるみの歌流れ来る遊覧船の渡し板の揺れ
ふと思い出しおり     元井弘幸
「モニョモニョでたのしかった」と田植えの園児
 ほっぺにズボンに泥跳ね上げて
              青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
街をゆく人らにまとわるウィルスよ蛍のように
発光してくれ       相良 峻
思ひがけず届いたはがきに春の光くり返し読み
光を浴びる        石井恵美子
コンパスの軌跡のように散り敷きて幹をてらせる
木犀の花         赤石美穂
シビビイを探して歩いた田圃道サイレン鳴るかと
気にかけながら      板垣志津子
晩酌の鯵の小骨をぬきおれば「はやぶさ二号」
今帰還する        今井五郎
【作品Ⅰ㋩】
にわとりのうぶ毛のような春の雪ふんわりふらり
さすらいゆけり      茂木惠二
参観日挙手せぬ我に苛立ちて𠮟りし母の
若き面影         天田勝元
カラオケに熱唱するなれの歌声が好き心の中で
アンコールする      伊藤由美子
実も落ちて木瓜の木死ぬるさまに立つ返り花二輪に
朝光の照る        大場ヤス子
遅く咲く古木の梅は香らせる弥生の空に昔日の白
             菊池悦子
大きなる額縁のごと眼鏡橋はふんばりて地球(てら)を
支えておりぬ       﨑田ユミ
川の辺に枝垂れて咲ける桜花水の精へと
身を捧ぐかに       佐藤香林
初花は八年を経て 自を燃やすオオヤマボクチの
黒きむらさき       佐藤真理子
どの花見てもみごとな花万朶幹は傷つき
老いてはゐても      清水静子
かさっこそっ落ち葉の下を啄める百舌見ぬふりに
ビオラに水やる      反町光子
久し振りの歌う広場はそちこちで言の葉飛び交い
笑顔溢れる        坪井 功
共に見る約束だった冬桜静かに谷へと
花びら散らす       萩原教子
【まほろば集】10首
コロナ禍にマスクの下に隠しおくまっ赤に塗られた
唇の饒舌         矢島由美子  
嘉(よみ)するとゆかしきみ名は相応(ふさ)う
声に笑み向けくれしよ初めて会いし日
             藤巻みや子
【作品Ⅱ】
空高くスノーボードを操りし平野歩夢は
夢歩む人           今井洋一 
青と黄の国旗の色を覚えたり青空のもと
咲けよひまわり        大川紀美枝
待ちいたる秋刀魚の水揚げ映る見て馳せ行きたれど
細きが並ぶ          小曾根昌子
【会友】
思い出の一つにもなる旅の道メロディラインの
分からぬ曲も         井出尭之
不条理と思える事が現実かウクライナの
「人道回廊」         川西富佐子 
この夏の庭に備えしハンモック静かに揺れる
我が夢をのせ         髙橋眞砂江
冷蔵庫のしなびた野菜捨てがたく功のレシピを
復活に使ふ          土屋明美 
連翹の黄の花ぐんと咲き始め朝日の庭の
輝き増せる           中山幸枝 
幾度めか息(こ)の連れ合いからSOS
急(せ)くわれ阻む三百㎞    牧野八重子 
この星の亡びゆく途次にあるならば桜花の
 はなびらやさしく散るべし   みたけもも
【題詠】天・空  3首
天空を滲みだすような春の雨ひと日降りつぐ
鬱重くする          西村英子 
末黒野の空を白鷺つらなりて夕日の中へ
消えてゆきたり        反町光子
幼くて逝きにし二人天国で知り合ひ仲良く
遊びにおるにや        天田勝元 
明け方のグラデーションの空見つめ心に探す
今日の「楽しい」       菊池悦子
そら豆の芽が出てみどりの庭畑の小春の日和
われがたたずむ        大場ヤス子 
かぎりなく深き空をみつめれば 天にまします
父の影もあらず        みたけもも


2022年夏季号 NO.268
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
リモート歌会 石井恵美子
〈15首詠〉  堀江良子・相良 峻
山下和夫の歌 1982年『埴』9月号・11月号より 
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・
       森たま江・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 石井恵美子・赤石美穂・
       西村英子・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 萩原教子・藤巻みや子・
       坪井 功・ほか
山下和夫の歌70     小原起久子
 歌集『耳』(1995年第5歌集)
  鮎の瀬(その6)
〈まほろば集〉 反町光子・菊池悦子
〈作品Ⅱ〉今井洋一・大川紀美枝・
     小曾根昌子・ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・
     土屋明美・ほか
ONE MORE ROOM
 小原起久子 山下和夫著
 『現代短歌作品解析Ⅲ』より 31
【しなやかな発想】
〈題詠〉冷・寒
  大場ヤス子・板垣志津子・今井五郎
  茂木惠二・坪井 功・みたけもも
一首鑑賞 石川ひろ・佐藤真理子
     宮崎 弘・天田勝元
短歌の作り方覚書16
  直接的に「言う」歌  堀江良子
追悼 若林節子さん    小原起久子
   宮崎 弘・牧口靜江・宮澤 燁
何人と別れこの世を終わるのか 小原起久子
歌会点描(11)
      相良 峻
第22回「HANI(埴)」プログレス賞授与式の報告
玉葉和歌集(抄)17    時緒翔子
『炎の女たち』古代編(41) 山下和夫著
冬季号作品評
 作品Ⅰ評       赤石美穂
  15首詠・まほろば集評 元井弘幸
 作品Ⅱ・題詠評     石川ひろ
ばうんど
ESSAY 鉄沓屋(かなぐつや)にて 板垣志津子
編集後記
表紙絵 山下和夫

会員作品(抄)
   ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
ゆっくりと時間を溜めて膨らめる沙羅の莟みは
白のぞかせる       堀江良子
京都路の卯月をさまよう老いらくの川田順の恋歌
思(も)いつつ      相良 峻
山下和夫の歌 1982年『埴』9月・11月号より
かかわりし悔かかわらぬ悔鮎の瀬をまたぐ
一すじの橋渡りいる    山下和夫
電工が腰にたらせる一本の綱より今日の月生まれいる
               同
【作品Ⅰ㋑】
梅雨明けのやまぶきの黄 七重八重みのらぬことは
ゆらゆら楽し       小原起久子
空青し 国籍持たぬ変異株増え国籍持てぬ
難民の増え        宮澤 燁
洞(ほら)ふやし老いてゆくらし大根のす入りのような
毎日である        森 たま江
風化せし思い出たどりアルバムの私の記憶が
また旅をする       牧口靜江
過疎の辻に建ちいる石の道しるべ鈍く光りて
冬の陽返す        宮崎  弘
水芭蕉光を集めて白白と純粋なりし吾(あ)
いまは枯色        佐藤和子
朝餉にはなにはなくともひと椀の温き味噌汁
 朝より晴天       江原幸子
ウィルスに立ち向かう日々 擦れ違う人皆マスクに
真深き帽子        石川ひろ 
冬の星座覚えぬ晩年さびしと思いつ日過ぎぬ
 炬燵の温し       元井弘幸
漂着のクジラの腹より取り出さる 漁網 ビニール
 マイクロプラスチック  青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
母さんに食はれていつた父さんかカマキリの子が
鎌持ちており       石井恵美子
聳え立つ谷川岳の神神しさに背を向けさせる
虹の引力         赤石美穂
小春日を歩む靴底にどんぐりの奏でる楽章
鳴りつづく路       西村英子
空腹の雀なのかな日没りちかく木枯らしの道を
啄む一羽         板垣志津子
コロナ禍に籠り居の日々翔平のビッグフライが
メディア乗っ取る     今井五郎
【作品Ⅰ㋩】
乾杯のグラス合わせる二年ぶりあふれる言の葉
きらめいて鳴る      萩原教子
さりさりと草生(くさふ)の霜を溶かしゆく
冬日のようなる人と会いたし 藤巻みや子
特養はオミクロン株がクラスターと弟はまほろば求め
黄泉へ向かいしか     坪井  功
降りやまぬ雨に打たれる水溜りぽたぽたぴしゃぴしゃと
ただ受け止める      茂木惠二
ババと孫そして犬とが寝転べる一つマットの
上の極楽         天田勝元
病むわれの生を一日(ひとひ)の糧として支えくれし
君揺らぐ一瞬       小澤嘉子
早く寝て夜中に覚める八十六歳私の「短歌」
十首ほどできる      大場ヤス子
萌黄なる稲穂の先に白き花ピンと立ちおり
老齢の吾に        﨑田ユミ
呉服屋は廃業告げる 亡き母を端切れ継ぐごと
共に語りし        佐藤真理子
障子張り一枚二千円ならば自分で張るか
迷う年末         清水静子
記念樹のアオダモの木の数本がバットとなるべく
冬日浴びをり       佐藤香林
改めて新年の挨拶を交わして後二人の今年が
始まりにけり       伊藤由美子
【まほろば集】10首
夕光(ゆうかげ)を追いて高速道(こうそく)走りゆき
左右に群れなす街の灯に入る  反町光子
旧友(ともだち)がおもわず笑ってくれそうなカードを送ろう
コロナ禍の聖夜(イヴ)  菊池悦子
【作品Ⅱ】
青空にくっきり浮かぶ馬蹄雲うらなってみよう
有馬記念を        今井洋一 
コスモスの自在の揺れを守るがに小泉稲荷の
赤き鳥居は        大川紀美枝
検温は疾(と)く終え座りたるわれにマスクしてくださいと
AIが言う         小曾根昌子 
【会友】
教習所に断られても七〇歳で普通免許取る人
 返す人          井出尭之
幾重にも山の端重なる国道の「一七号線」
われの青春         川西富佐子 
どくだみに占領される我が庭は武器はないのか
身構へるのみ        土屋明美 
卒園の孫の姿をシャメにとり我も昔に
タイムスリップ       髙橋眞砂江
ゴーヤの葉黄色に変わり落ちつくす一本の実が
ぶらさがりいる       中山幸枝 
「おんなのこ」産婆の声に父いずこ出生ドラマを
母まだ語る         牧野八重子 
さざんかのまだ咲き残る午後の陽の深き未練の
くれないの色        みたけもも
【題詠】冷・寒  3首
わら屋根の氷(つらら)の冷剣に戦いし
信濃正月兄らが四人     大場ヤス子
日暮るれば真っ赤に冷えし妹の掌をふところに
夕飯までを         板垣志津子
満天となりて冷え込む蓮池を地球の影映る
月が照らせり        今井五郎
かき氷の喉の襞刺す冷たさにキーンとしびれて
ぐっと水飲む        茂木惠二 
老友は寒波を恐れ挫けたか連絡跡絶え
気に掛かりけり       坪井  功
かき氷サリサリ回し夏祭り冷たき苺
月光の中          みたけもも

2022年春季号 NO.267
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
短歌における送り仮名  堀江良子
〈15首詠〉  宮澤 燁・石川ひろ・
        佐藤和子
山下和夫の歌 1982年『埴』5月号より 
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・森たま江・       
       牧口静江・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・石井恵美子・
       西村英子・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 伊藤由美子・萩原教子・
       藤巻みや子・ほか
山下和夫の歌70  小原起久子
  歌集『耳』(1994年第5歌集)
  鮎の瀬(その5)
第22回プログレス賞受賞作品 今井五郎 
  同作品評         赤石美穂
  同作品評         宮崎 弘
歌友の歌       小原起久子
〈まほろば集〉 赤石美穂・宮崎 弘
ONE MORE ROOM 小原起久子
 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より
 30【抽象語の持つ作用】
〈作品Ⅱ〉今井洋一・大川紀美枝・
     小曾根昌子・ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・
     土屋明美・ほか
短歌の作り方覚書
  歌中の重要語   堀江良子
〈題詠〉花・草
  板垣志津子・大川紀美枝・大場ヤス子
  小原起久子・﨑田ユミ・佐藤和子
  萩原教子・坪井 功・みたけもも
  宮澤 燁
〈30首詠〉
  86歳私の短歌 大場ヤス子
一首鑑賞 石井恵美子・清水静子
     菊池悦子・小原起久子
玉葉和歌集(抄)16    時緒翔子
『炎の女たち』古代編(40) 山下和夫著
歌会点描(10)     相良 峻
ESSAY カマキリ    矢島由美子
秋季号作品評
 作品Ⅰ評・30首詠   矢島由美子
 15首詠・まほろば集評 森 たま江
 作品Ⅱ・題詠評     江原幸子
ばうんど
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品(抄)
   ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
スープの冷めない距離にみどり児生まれ
画面に集い密を寿ぐ    宮澤 燁
スクランブル交差点の中につまずきぬ
夕闇の中におしよせる孤独 石川ひろ
ねむの木の花そよ風にほの揺れて
道行く人等仰ぎつつ往く  佐藤和子

山下和夫の歌 1982年『埴』5月号より
人間を轢きたる自動車(くるま)
人間の顔と等しき造作をもつ  山下和夫
背(せな)の毛を波うたせ車道を横切(よぎ)りいし
かの一匹の毛虫を思う      同

【作品Ⅰ㋑】
との曇る啓蟄の朝のびのびとペデストリアンデッキの
宙吊り          小原起久子
風なくて白萩の散る静けさよ生き切りたりし
命の清(すが)し     森 たま江
激しくは生きずともよし「ひとよ茸」
ガレのランプにほのかに灯る 牧口靜江
風葬の島でありしとう浜辺に骨片のごとき
貝殻満ちおり       元井弘幸
あとはもう散るばかりなり桜花こころ残りの
ものも抱えて       堀江良子
わが庭の一番大きな銀杏の樹太き幹より
小さき芽萌やす      江原幸子
わが庭の小さき客人アキアカネふるさとの風
まといてよぎる      青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
横窓より入り組む山脈(やまなみ)見下ろせば
これは日本国(にっぽんこく)の掌紋  相良 峻
お義母さんの新盆は無事に出来たのか電話をくるる
老い父がゐる       石井恵美子
人を呼び風を呼びいる風鈴の音色は時に
不協和音も        西村英子
川崎の軍需工場すき腹と眠気、空襲に
脅へすごしぬ       板垣志津子
夏空を乗っ取るばかりの柿枝をブランコの
思い出もろともに切る   今井五郎
【作品Ⅰ㋩】
缶ジュース半分ずつ分け乾盃すささやかな宴
君が誕生日        伊藤由美子
故郷の土の香著しき独活まるごと味わえば
母の忠告のごとし     萩原教子
朝明けに月桂樹の木は倒れたり鳩の古巣を
抱えたるまま       藤巻みや子
うつせみの難問解かんと苦慮しつつ点と点とに
補助線を引く       茂木惠二
「富士山」とふカーナンバーを前に見て
浅間の山に富士の重なる  天田勝元
「ひとりでも大丈夫だよね。」「おうっ。」としか
返さぬ君を置いてゆく秋  小澤嘉子
見たきものまだ数多あるか弟よ わが掌翳(かざ)せど
閉じざる眼        菊池悦子
兄は逝き無人の家へ電話するもしや魂の
帰りておらん       﨑田ユミ
ほほづきの網に灯れるうすあかり
 黄泉平坂(よもつひらさか)
照らし往くべし
             佐藤香林
俯きてひとり帰る児のランドセルはセルリアン・ブルー
 空を見ようよ      佐藤真理子
第一号牛舎の割れたガラス窓覗けば牛の目の
やわらかき        清水静子
夕立の去りたる鉢のラベンダー森の木のよう
生き生きと立つ      反町光子
レストランは右往左往とごった返し言の葉飛び交い
リバウンドかな      坪井 功

第22回プログレス賞受賞作品 全30首
長椅子に診察待つ間眠り込みいびきで守れた
ソーシャルディスタンス  今井五郎
GOTO券にさっそくあやかり宇奈月の
湯宿に吞むは僕だけじゃない  同
「コロナゆえ粗餐」と届きし兄嫁(あによめ)の
四十九日は村のうどん屋    同

【まほろば集】10首
敗戦の日の父母の思い聞かざりしを悔いつつ祈る
八月の墓          赤石美穂
空きボトル淀みを回るもがきつつ岸に戻れず
流れに乗れず        宮崎 弘

【作品Ⅱ】
コロナ災禍に受け入れ先が見つからぬ嬰児死亡に
土砂降りの雨        今井洋一 
命漂う漆黒のエーゲ海を 若き人は「アフガニスタン」
からと           大川紀美枝
引揚げの船出の場所はコロ島と聞きし記憶を
地図にて捜しぬ       小曾根昌子 

【会友】
パット決めてガッツポーズのタイガーウッズ
 歓喜歓声また蘇る     井出尭之
桃の実を収穫終えし甥の手はほっと汗拭き
夏雲かかやく        川西富佐子 
枯葉舞ふ峡の参道榛名山木漏れ日うけてる
烈火の紅葉(もみじ)    土屋明美 
つゆ明けを待っていたよう山吹が陽射しの色を
庭に揺らせる        中山幸枝 
初めての子は眼に障害抱えおり吾は息(こ)でなく
夫に詫びたり        牧野八重子 
滔々と心の中を流れゆく灯りゆくもの
わが手に受ける       みたけもも

【題詠】花・草  3首
わが庭の貧しき花を愛でくれし空さへ見へぬ
病室の姉は         板垣志津子
東雲の薄紫が移りしか時間(とき)ほどきつつ
咲ける朝顔         大川紀美枝
この道を中学生が通るから杜鵑草咲く鉢
花だんに出しおく      大場ヤス子
このあたり爆撃受けしと年々を赤い眼見開く
彼岸花           小原起久子
畔に咲くうす紅の花わが庭へ 強き根を持つ
野草の縄張り        﨑田ユミ
芝桜丘一面を敷きつめてこの世の芥
吸い取っている       佐藤和子
夕闇に花の名告げし声偲ぶジンジャーリリーの
香る晩夏は         萩原教子
陽に輝く元荒川の蝋梅より芳香漂い
暫時まどろむ        坪井 功
紅葉は空のアーティストさらさらと自在に
空を染めゆく        みたけもも
水仙の香はまっすぐにとどきくる声なきものの
さわがしき世に       宮澤 燁

【30首詠】
匿名の投稿を読む卑怯かそれとも謙虚か
私は解せない        大場ヤス子

2021年冬季号 NO.266
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
  言葉と韻   宮澤 燁
〈15首詠〉  小原起久子・佐藤真理子
山下和夫の歌 1982年『埴』1月号より 
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・森たま江・
       宮崎 弘・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・茂木タケ・
       石井恵美子・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 坪井 功・萩原教子・
       藤巻みや子・ほか
山下和夫の歌69    小原起久子
歌集『耳』(1994年第5歌集)鮎の瀬(その4)
〈まほろば集〉 天田勝元・佐藤香林
〈作品Ⅱ〉今井洋一・大川紀美枝・ 
     小曾根昌子・ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・
     髙橋眞砂江・ほか
一首鑑賞 板垣志津子・清水静子
ONE MORE ROOM 小原起久子
 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より
 29  【仮想空間の不思議】
特集 社会・文化について 
 社会詠と修辞     宮崎 弘
 変わってゆく文化   元井弘幸
〈題詠〉雪・雹  赤石美穂・板垣志津子 
         佐藤香林・ほか
歌友の歌
短歌の作り方覚書  
 親句(しんく)と疎句(そく)  
 について       堀江良子
歌会点描(9)     相良 峻
ESSAY    
 代用食の思い出    板垣志津子 
 爛漫         菊池悦子
玉葉和歌集(抄)15    時緒翔子
『炎の女たち』古代編(39) 山下和夫著
夏季号30首詠「石」 藤本朋世氏による評
秋季号作品評 
 作品Ⅰ評        石井恵美子
 15首詠・まほろば集評 石川ひろ
 作品Ⅱ・題詠評    矢島由美子
ばうんど
新刊紹介
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品(抄)   
ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
まわされてまわりはじめるこまつぶり
 どこへも行かず どこへも行けず    
               小原起久子
冬ざれの朽葉の下のクビキリギス
捕らえし我に真っ赤な口開く  佐藤真理子
山下和夫の歌 1982年『埴』1月号より
木あればなお訪(と)め行きし祖父の背(せな)
いつも斜めの陽が射している  山下和夫
不用意に近づきすぎたる青狐からめ獲られて
花終わりたり          同
【作品Ⅰ㋑】
炎立つ言の葉をまた呑めり人間は
水の器と言うが        宮澤 燁
コロナ禍に空(から)となりたる予定表
ワクチン打つ日のどっかり座れり
               森 たま江
土盛りした土竜に怒る暴君はその存在も
気にせざりしが        宮崎 弘
左遷という言葉も届かぬ果てに来た
 引き出しのごみ窓辺にたたく 元井弘幸
晩秋のコロナの街の夕暮れは着信の前の
かすかな喘(あえ)ぎ     堀江良子
京菓子の重(かさね)の淡き色あいに
季の移ろいが喉越しに浸む   佐藤和子
休耕田の畔は乱れいて隣りとの境うやむや
 春うらら          江原幸子
引き潮のように夏は遠のきてコスモス揺れる
墳丘に佇つ          石川ひろ
【作品Ⅰ㋺】
コンビニもセルフとなるかアクリル板が
天と地分つ厚みに垂れる    相良 峻
趣味多き住職が手を入れし寺枯山水の
石を踏みゆく         茂木タケ
エゴの木の白き小花が足元にこぼれ来て空に
顔を上げさす         石井恵美子
繋がらぬワクチン接種予約の電話狂想曲を
われも纏いぬ         赤石美穂
ぼうたんは呪文解くがに崩れ落ち一片の花
宙に舞いたり         西村英子
B29去りたる空を赤く染め校舎燃え落つ
八月十五日未明        板垣志津子
【作品Ⅰ㋩】
蝉しぐれ降り頻る森を駆け抜け遣り遂げねばと
白雲を仰ぐ          坪井 功
縁側に杖つきずっと見送りくれし
セーターの藍色母の色     萩原教子
青き実を多(たわ)に付けたる柿を見る
朱色さやけくよき秋は来よ   藤巻みや子
外灯が照らす玄関雨滲む硝子戸朝まで
来ぬひとを待つ        茂木惠二
何事も無く今日一日は終わりたり昨日と同じ
 多分明日も         伊藤由美子
老眼鏡掛けねばまたも溢れたり赤いきつねに
注(さ)すポットの湯     今井五郎
積みたての蕗を抱えて談笑の友は帰りに
父の死告げる         小澤嘉子
ホトトギスーオトハラツッキッターと鳴く頃の
小花寂しく花ほととぎす    大場ヤス子
隣人の訃報おもわず聞き返す おおらかな笑顔
だけしか思い出せずに     菊池悦子
コロナ禍に白梅のかおり仄かなり
マスク外して胸の奥まで    﨑田ユミ
今年またオープンガーデン開けずに
閉ざしたままの薔薇香る家   清水静子  
水仙の葉結びの葉の結び目がほどけかかれり
春の陽射しに         反町光子 
【まほろば集】10首
息子家族の海外赴任をするために飼はれゐしルネ
我が家にきたり        天田勝元
大地焦がす日照り続きに雨降れば畑の茄子も
みづみづとして        佐藤香林
【作品Ⅱ】
重ね着をそっと剥がせば別嬪さん食指動く
朝採りの筍          今井洋一 
茄子の実の僅かに揺れたる紫の風のささやき
聞こえしような        大川紀美枝 
五歳にて初めて見たる海原は黙すいき物
おののきたりし        小曾根昌子 
【会友】
四百年のビジネスピーク過ぎ勇気有る退却し
暖簾をおろす         井出尭之 
和菓子屋ののぼり彩る初夏となり「練り切り紫陽花」
買いに走れり         川西富佐子 
長谷川町子の「いじわるばあさん」読みつつ一人
笑みがこぼれる        髙橋眞砂江 
夜中でも大音響に鳴く蝉は世はうとましく
蝉時雨といふ         土屋明美 
三年ぶりに赤銅色のスーパームーンの月蝕は
新聞でみる          中山幸枝 
連れ合いに恵まれて息(こ)は大雪を背に少年の
顔をしており         牧野八重子 
川岸に佇みケータイ耳にあて空から落つる
声を聞きいる         みたけもも
【題詠】雪・雹  3首
鉢植えの胡瓜の並ぶ朝の卓降雹予報の
メールの届く         赤石美穂
下駄の歯に雪がつまってよろよろと学校へ着いた
一年の冬(ながぐつ無くて)  板垣志津子 
雹晴れての俳句詠みたる鬼城翁 類焼の家捨て
並榎村舎へと         佐藤香林 
野の果てに雲湧き立ちぬ雹ふらば傷もつ双手に
受けなんものを        藤巻みや子 
雪の朝の雪の登校雪に転び雪分け起きる
雪のふわふわ         大場ヤス子

2021年秋季号 NO.265
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉口語短歌の添削の難しさ 堀江良子
〈30首詠〉  小原起久子
〈15首詠〉  元井弘幸・赤石美穂・堀江良子
山下和夫の歌 1981年『埴』11月号より 
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・森たま江・
       牧口靜江・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・茂木タケ       
       石井恵美子・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 﨑田ユミ・佐藤香林
       佐藤真理子・ほか
山下和夫の歌68    小原起久子
 歌集『耳』(1995年第5歌集)鮎の瀬(その3)
〈まほろば集〉 菊池悦子・坪井 功
一首鑑賞 天田勝元・萩原教子
〈作品Ⅱ〉今井洋一・大川紀美枝・
     小曾根昌子・ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・
     髙橋眞砂江・ほか
短歌の作り方覚書  暗黙の中に意思を表す 堀江良子
ONE MORE ROOM 小原起久子
 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より 28
 【転体における一語の効用】特集 
生活詠について  生活詠にみる時代   森 たま江
         漣を         藤巻みや子
歌会点描(8)      相良 峻
〈題詠〉紅葉 江原幸子・佐藤真理子・佐藤和子・ほか
ESSAY    カラスウリ   石井恵美子
       認知症対策   今井洋一
玉葉和歌集(抄)14  時緒翔子
『炎の女たち』古代編(38) 山下和夫著
秋季号作品評
 作品Ⅰ評     相良 峻 
 15首詠・月集評 江原幸子 
 作品Ⅱ・題詠評 宮崎 弘
ばうんど
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品(抄)   
ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【30首詠】
ウィズコロナに原子炉背負いいる誰も誰も
吹き出る汗を拭えず   小原起久子
【15首詠】
仏壇を買いに行きしまま戻らざりし兄
骸となりて父に寄り添  元井弘幸
春山の七日の旅に送り出し帰り待ちいる
空蝉の洞        赤石美穂
過ぎゆきに見失いたるくれないか心透くまでの
秋のもみじ葉    堀江良子
山下和夫の歌 1981年『埴』11月号より
この市(まち)に人焼く窯の三(み)つありていずれの橋も
その丘に伸ぶ    山下和夫
まっすぐに街を見おろす男(お)の鼻梁なべて彼岸に
あるはその的       同
風の芯ふいにわかれて四散する夕べむらさきの
昏れ水の上        同
【作品Ⅰ㋑】
亡き人の時計の針が巣ごもりの春の時間を
まわしています      宮澤 燁
シビビィを鳴らして遊んだ野の道にマスクの老いが
思い出を摘む       森 たま江
逆光に背を向けて佇つ 是のの世にわが残像を
残しおくため       牧口静江
にんげんはあやまち冒す繰り返す闇の深みの
コロナ禍の波       宮崎 弘
ベランダの屋根打つ雨音虚ろなる吾が胸裡に
音なく溜まる       江原幸子
自粛時の愚痴は生ゴミと聞きしよりゴミ出す朝を
ゆったり歩く       佐藤和子
散り急ぐ桜花びら歩道に満ちて 私はひとり
三密避ける        青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
露草の透けたる青のやさしくてしののめ心裏(しんり)の
荒野(あれの)見つむる  相良 峻
病める息子(こ)の枕辺かすか花匂い白梅ろうばい
此処だけは春       茂木タケ
早春の風はうすき刃白鷺も直ぐなる音を
羽毛に包みぬ       石井恵美子
せわしなく働く職員 市役所は現代(いま)を生きゆく
人らに満てり       石川ひろ
あさなさな白きを広げる梅の花 見出しのコロナ
数詞ましゆく       西村英子
大判の印刷物を切り揃へ綴じた教科書
 敗戦の春        板垣志津子
【作品Ⅰ㋩】
ゆったりと流れる水面に尾鰭のみ突き出し泳ぐ
鯉の大晦日        﨑田ユミ
卯の花の白くそよげる向かひ家の主の逝きて
人住み変はる       佐藤香林 
夜半の地震(ない)は大震災の余震とぞこの十年に
幾人見送りしか      佐藤真理子  
検温と手洗いの表示鮮やかに路肩に立てり
もう何か月        清水静子  
高層のビルの谷間に人の輪が憂いを忘れる
ピエロの芸に       反町光子 
点検を終えて説明鮮やかに瞳輝く
女性整備士        萩原教子 
疵持つ手かたく握りて目覚めたり泣きて産まれし
日の形なる        藤巻みや子 
息すると意識に現わる生の証のSINѲの
グラフの波形       茂木惠二 
ピアニスト真似てひよいひよい肩揺らせ弾きゐし孫よ
今女子高生        天田勝元 
園児等の皆帰りたる園庭に桜の花びら
風と遊べる        伊藤由美子 
縁側に布団を干せば五歳児のおそそで描いた
クワガタ逃げる      今井五郎 
色褪せし鉄棒握る古社さか上がりする
児の目にさくら      小澤嘉子 
ははそばの母の愛思うわが母の八人の子への愛の
不思議思う        大場ヤス子
【まほろば集】10首
道の端に立つ楠の風香り包まれしわれ
いつしか学童       菊池悦子 
特養のテレビ電話の弟は懸命に手を
振り続けたり       坪井功
【作品Ⅱ】
福豆はあちらこちらに飛び散りぬ君の言い分
我の言い分        今井洋一 
清清しき白き山茶花コロナ禍を小春日和の
一日は暮れて       大川紀美枝 
受話器持つ手に力入れ耳にあて目閉じて応え
わが老いを知る      小曾根昌子 
【会友】
新しい年早々とオリガミ付きのスマホ決済を
勧めるセールス      井出尭之 
夕陽(せきよう)に光る多々良沼(たたら)に
白鳥の北へ帰らん羽音響けり 川西富佐子 
初雪草は真夏の緑の葉の上に初雪の積もるが
如く咲きいる       髙橋眞砂江 
大輪の蘂を開かす珍椿(ちんつばき)辞書調べても
名前わからず        土屋明美 
根元よりゆるりと効きし生ごみに乙女椿は
大木となる         中山幸枝 
なにもかも知らせず母となりし娘(こ)は今なごやかに
お産を語る         牧野八重子 
郵便受け開ければ束になりし文 うからの生が
煌めいている        みたけもも
【題詠】紅葉  3首
青々と繁りいし葉が赤や黄に色を変えゆく
 ふとわびしい       江原幸子  
「紅葉(もみ)つ・紅葉つ」と唱えれば思い出す
母の紅絹頬にやわらかかりし  佐藤真理子 
吾(あ)と撮りし最後の写真亡き父は紅葉
(もみじ)の世界になお生きている 佐藤和子 
遠足を終えて一口茶をすする ゆったり紅葉を
眺めもせずに         清水静子 
芽生えいるなごみのもみじに降りそそぐ朝の光は
妖精となり          﨑田ユミ 
八ヶ岳の紅葉のぼる小海線のひとりの座席
 ふるさとへの旅       大場ヤス子 
尾瀬へ行つて来たと紅き葉一枚入つた手紙が
形見となりぬ         板垣志津子 
紅葉の深き渓に一世を終える岩魚よ満ち足りた
死を死ぬるか        元井弘幸

2021年夏季号 NO.264
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
   父語らず   元井弘幸
〈30首詠〉  堀江良子
〈15首詠〉  宮崎弘・矢島由美子・宮澤 燁
山下和夫の歌 1981年『埴』より 
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・森たま江・牧口靜江・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・相良 峻・茂木タケ・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 天田勝元・伊藤由美子・今井五郎・ほか
山下和夫の歌67    小原起久子
 歌集『耳』(1995年第5歌集)鮎の瀬(その2)
〈まほろば集〉 小澤嘉子・茂木惠二
ONE MORE ROOM 小原起久子
追悼 関根さつきさん
一首鑑賞 藤巻みや子・相良 峻
〈作品Ⅱ〉石田春子・今井洋一・小曾根昌子・ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・髙橋眞砂江・ほか
特集 写実・写生の歌について
  写意と写生     相良 峻
  よく見るという基本 元井弘幸
  「写生・写生の歌」について  大場ヤス子
短歌の作り方覚書 助詞・助動詞の必要性 堀江良子
〈題詠〉夕映え 石井恵美子・板垣志津子・大川紀美枝・ほか
歌会点描(7) 相良 峻        
ESSAYたんか・はいくを友として  佐藤香林
玉葉和歌集(抄)13 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(37) 山下和夫著
秋季号作品評 作品Ⅰ評     森たま江 
15首詠・月集評 佐藤和子 
作品Ⅱ・題詠評  天田勝元
ばうんど
ESSAY 下宿生活 茂木惠二
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品(抄)   
ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【30首詠】
浅川の春水にゆれる小石らの呟くさまを
佇みて視る 堀江良子
【15首詠】
わが住むは町の端っこ一丁目いちにいにいさん
自転車を漕ぐ      宮崎 弘
寒空にほほほ・ほほほと春を呼びしだれしだれて
咲く梅の花       矢島由美子
明るすぎて見えない花火の暗さなどあなたと語る
八月六日         宮澤 燁
山下和夫の歌 1981年『埴』9月号より
われをつと嗅ぎたるのみに振りむかず行きたる若き
一頭の犬      山下和夫
海恋し山恋しついに人恋し真白きノートに
向かいておれば     同
作品Ⅰ㋑】
温む水に婚姻色のハヨの群 バカッパヨなどと
呼ばれたりして   小原起久子
隣町の学校にまで来たというコロナ包囲の
巣ごもりの日々   森 たま江
折り合いをつけたるごとく別れゆく川の流れの
先は見えざり    牧口靜江
夕映えにポインセチアが燃えている第九の合唱
響けるように    佐藤和子
侮りていし後期高齢たわいなき段差につまづく
 ぼうたん咲けり  江原幸子
早苗田の水面に映る榛名嶺の底より聴こえる
蛙の鳴き声     石川ひろ
ふきのとう刻む厨に春香るコロナ鬱など
ふきとばそうね   青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
夏山も源流行も遠い日のこと陽の落ちかけた
裏山に登る     元井弘幸
木枯らしに紅葉剥がされゆくなかをなおも消えざり
身の蛍火は     相良 峻
台風が来るぞと小暗き霧の中コロナウィルスが
小躍りをする    茂木タケ
しなやかな肢体がクイックターンする鮎のような男(お)
 その後を追ふ   石井恵美子
青年の奏でるホルンたおたおと夕顔の開花
促すように     赤石美穂
「寒いねえ」「お正月が来るからねえ」こんな会話も
無き年の暮れ    板垣志津子
【作品Ⅰ㋩】
長屋門に飾れる松に供えへたるうどんとご飯
落ちゐる四日    天田勝元
好物の柿を味わう事も無くコロナと共に
季は進みぬ     伊藤由美子
思い出が剥がされぬよう夏の尾瀬の四隅にしっかり
画鋲差したり    今井五郎
夕暮れの菜の花の黄色優しくて目に美しく
心に沁みる     大場ヤス子
走り寄り過ぎ行く列車に手を振れる幼と母の
無為が輝く     菊池悦子
象亀はとがった口も裂ける程大きなあくびに
万年の気を吐く   﨑田ユミ
立冬の路地に松葉の吹き溜まり剪定されぬ
松太りゆく     佐藤香林
タンポポの絮の飛ぶ原顔欠けし道祖神と
われと白月     佐藤真理子
ワクチンの接種待つ間を向き合える草間彌生の
ピンクのかぼちゃ  反町光子
帰宅した我の匂いをかぐ猫よ外に愛猫
なんていません   清水静子
城沼は数多(あまた)子供らでさんざめくが自死の覆って
どんよりとする   坪井 功
覚悟して十年日記買いしとう電話に
姉の声は弾みて   萩原教子
バイカル湖の夜を発ちたるか南天の星を直(ひた)めざし
尉鶲(じょうびたき)来る  藤巻みや子
【まほろば集】10首
山茶花の染みなき白のゆるゆると小さき蕾を
なでて散りゆく    小澤嘉子
月揺れて静寂湿(しめ)らす湖に泥の欠片
投げ入れてみる    茂木惠二
【追悼 関根さつきさん】  
1995年第8回 埴新人賞作品 30首
掲出見えそうでその先見えず元朝を化粧水の封
いっきに解きぬ     関根さつき
早暁の苑に崩るる霜柱孔雀の尾羽が
掃きたるならん       同
花びらの涙つけたる摩崖仏ぽっかりと黄昏
とどまりている       同
【作品Ⅱ】
令和二年書類の記入すこし慣れ昭和の吾を
少し忘れる       石田春子
赤錆をほったからしのトタン屋根切り貼りしたや
真青な空        今井洋一
会うことの久しくなかりコロナ禍のせいと言いつつ
小波のたつ       小曾根昌子
【会友】
話しかけ答える「シリ」に声変えるそれも認識
AI知能         井出尭之
霜枯れの風吹き渡る芒野(ススキノ)は一面シルバー
 ヒロイン気分     川西富佐子
最果ての宗谷岬は海青く船村徹の
歌の碑が立つ      髙橋眞砂江
炊き上げを知らせる音に目を覚まし始動の前に
手足の薬        土屋明美
住む人も無き庭に実れる柿・柚の人待つごとく
風にゆれいる      中山幸枝
広大な父の遺しし畑の空オニヤンマの群
キーンと飛び交う    牧野八重子
時雨れば時雨るるほど濡れてゆく無力なる
吾を叱りつつゆく    みたけもも
【題詠】夕映え  3首
校庭にサッカーする子供等と見上げし夕映え
今なほ鮮やか      石井恵美子
麦をまく人いくたりか夕映えに影絵となりて
せはしく動く      板垣志津子
夕映えの浅間の嶺を正面にペダルはげます
夜学への道       大川紀美枝
桑摘みの母と染まりしふるさとの夕映えの野に
帰りてゆかん      大場ヤス子
夕映えに閉じたき眼ハンドルの操作危うき
シルバーマーク     﨑田ユミ
終の日は夕映えの波眺めたい子の住む海辺の
街の窓から       萩原教子
夕映えに染まる父の背中の丸きを嘆きしわれも
いつしか老いたり    元井弘幸
責任を持たぬやさしさあふれさせ今日の夕映え
梅の香も連れ      牧口静江
いくばくの時差その先難民の頭上へ行くか
夕映えの雲       小原起久子

2021年春季号 NO.263
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
   歌が輝くとき  宮崎 弘
〈15首詠〉  森たま江・佐藤和子
創刊者 山下和夫の聲
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・
       牧口靜江  ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・相良 峻・
       茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 茂木惠二・天田勝元・伊藤由美子 ほか
山下和夫の歌66  小原起久子
 歌集『耳』(1995年第5歌集)錯誤3(その7)
ONE MORE ROOM 小原起久子 
 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より   26【真新しく言う】
第21回プログレス賞受賞作品 板垣志津子
 同作品評   宮澤 燁 
 同作品評   宮崎 弘
〈まほろば集〉 萩原教子・清水静子
一首鑑賞 小曾根昌子・佐藤香林
〈作品Ⅱ〉石田春子・今井洋一・大川紀美枝  ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・関根さつき ほか
特集 老いの歌について 
  自然体で     西村英子  
  明るく美しく   矢島由美子
〈題詠〉木・樹 元井弘幸・石川ひろ・﨑田ユミ ほか
一首鑑賞 佐藤真理子・板垣志津子
短歌の作り方覚書 擬人化の歌(2)堀江良子
歌会点描(6) 相良 峻
玉葉和歌集(抄)12 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(36) 山下和夫著
ESSAY  短歌(うた)はエール   青木晶子
     海ほおずき        板垣志津子
     出会い          天田勝元
     私の短歌         大場ヤス子
秋季号作品評 作品Ⅰ評     元井弘幸 
       15首詠・月集評 佐藤真理子 
       作品Ⅱ・題詠評  菊池悦子
ばうんど
新刊紹介
おしらせ
編集後記
表紙絵 若山節子
会員作品(抄)   ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
野の道に咲き残りいる野紺菊明日知れずとも今日生きて美(は)し     森たま江
師の古き随筆載せたる「ふだらく」が薫風にのり友より届く        佐藤和子
【作品Ⅰ㋑】
無辺より舞い来る雪片やわらかく「はあて はあて」と母子にとどく    小原起久子
光らざるひかりともして鎮もれる魔法瓶の中のあらたまの水        宮澤 燁
傷つける言葉も増えてそれぞれの痛みも増えた母と娘の秋
               牧口靜江
新型のコロナが揚げる狼煙かも夏の地平に赤い満月
               宮崎 弘
冬の精霊刺激したのかわが妬心 満開の桜隠して雪ふりつもる
               堀江良子
フラ踊る裸足の足裏に踏む土の柔く温ときわたくしの午後
               江原幸子
死にたいは生きたいということ 京都市の嘱託殺人の報におののく
               青木晶子
`深海の花`とう名のつくマスクつけコロナ禍の街へ買い物に行く       石川ひろ
【作品Ⅰ㋺】
あごに髭蓄え毎朝整えて マスクのなかに自己主張とどまる         元井弘幸
濡れそぼちてるてる坊主がうな垂れるコロナの恐怖に濡れそぼつ身も     相良 峻
川の木にさつと止まりしかかわせみの背なより輝く脚みかん色        茂木タケ
リモートの面会五分フレームに小さくなりたる義母がゐるなり        石井恵美子
そらにみつ大和の国の青空と花水木の実とソフトクリーム          赤石美穂
手作りのハンカチマスク心地良し手おんぶの母の背のあたたかき       西村英子
平成の大合併に町名は由緒も歴史も何処に行きし               板垣志津子 【作品Ⅰ㋩】
コロナ禍の画像崩して遠雷が汗ばむ肌に涼を届ける              茂木惠二
御代代わり令和になりて初めての正月迎ふる晴れたる朝            天田勝元
眉毛がキリッと上って居た男 叱責する厳しい声の              伊藤由美子母よりもらい幼が小さく千切りては投げ込むパンに鯉のひしめく        今井五郎
蝉声はフェルマータのごとこの夏は立ち話なきごみ収集所           小澤嘉子
ひまわりは日に向き咲くと冬の花風に向き咲く冬のひまわり          大場ヤス子
遠き日の海辺の思い出運ぶ風キラキラカラン貝殻風鈴             菊池悦子
桜花ゆらし啄みいる目白サーカス観るごとあかず見上げる           﨑田ユミ
ゐのこづち実になりてなほ打ち震へわが裾(すそ)にすがる愛欲るごとく   佐藤香林
墓地に立てば八つのわれが薬缶持ち桑畑の細き道ぬってくる         佐藤真理子
苗ゆらぐ田を低く飛ぶ糸とんぼ水面に写す青のきらめき           反町光子
小高きふれあいの森で園児らの歓声を聞き鰍韆を漕ぐ            坪井 功
ほとばしる母乳の色にひいらぎは莟もちたり冬の華なる           藤巻みや子
【第21回プログレス賞受賞作品】
   コロナの秋  板垣志津子  全30首
宮澤 燁選評分7首
静寂と暗雲こもり街ねむる ああ天牢受売よ出でよ       板垣志津子
満員の岩戸横目にゆっくりと雉鳩一羽横切るまひる        同
物資不足の頃の赤紙色淡く人の命は集められたり         同
十二単衣の少女はひとり誰を待つ紫式部を照らす明月       同
二十年のちの小さな書道塾 生徒六人実家の廊下         同
「大切な人だから」とて手もふれず逝きたる人の夢をまた見る   同
ハイネ詩集を読みし十五の春の日よ五月の空は高すぎました    同
【まほろば集】10首
洗たく物と共に写れる昭和の花嫁二十歳の叔母のふくよかな頬       萩原教子
ダム底の母の生家の脇にある川のせせらぎ我も聞きたし          清水静子
【作品Ⅱ】
忍冬の甘い香を一連の風が運びて庭を満たせる              石田春子
特養に入れたる母が笑み浮かべ手を振り続ける別れ間際に         今井洋一
補聴器にメガネにマスク加わりぬコロナ禍つづき耳は痛いよ        大川紀美枝
一瞬の啼く音降り来し空仰ぐ仰げど見えぬ蝉の初鳴き           小曾根昌子
【会友】
レンタルの和装華やぎ参道ではしゃぐ正月外国の人            井出尭之
リウマチを患う義姉(あね)が収穫し届けし新ジャガふわりと甘し     川西富佐子
山裾の夕べの霧がふれてゆく秋しろがねの蕎麦うつ(匠(たくみ))    関根さつき
小春日に自転車に行くいなか道東海桜のそそと咲きおり          髙橋眞砂江
杉玉を門にかかげる蔵元の聞けば牧水一献と言ふ             土屋明美
コオロギの大合唱に迎えられ宵の口の寝室に入る             中山幸枝
人参もほうれん草も玉ねぎもおいしかったよ ぜーんぶ 父さん      牧野八重子
【題詠】木・樹 3首
荒海に向かい燐寸に煙草を点けし日にはこの国を憂う言葉もありしが    元井弘幸
木の葉の舞い散るごとく風の中 日々の欠片がこぼれやまざり       石川ひろ
生い茂るゆりの木見上げさがしみる花はいずこに こぞの夏にも      﨑田ユミ
東京に秋見つけたりビル群の谷間に金毘羅神社の紅葉           川西富佐子
夏庭の木陰のひと息アボカドは天まで伸びる太陽おおう          大場ヤス子

2020年冬季号 NO.262

〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
コロナ禍の中の日常詠  森 たま江
〈15首詠〉  相良 峻・石川ひろ
山下和夫の歌 『埴』1981年7月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・
       森 たま江 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・茂木タケ・
       石井恵美子 ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 萩原教子・藤巻みや子
       茂木惠二  ほか
山下和夫の歌65    小原起久子
  歌集『耳』(1995年第5歌集)
  錯誤3(その6)
ONE MORE ROOM 小原起久子 
  山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより    
         25【感覚交差の効果】
〈まほろば集〉 板垣志津子・菊池悦子
一首鑑賞 赤石美穂・天田勝元
〈作品Ⅱ〉今井洋一・大川紀美枝・
     清水静子 ほか
〈会友〉 高橋眞砂江・土屋明美・
     中山幸枝 ほか
短歌の作り方覚書 擬人化の歌(1) 堀江良子
歌枕について 
 永い歴史を担って 堀江良子
  地名の効果    佐藤真理子
一首鑑賞 板垣志津子・﨑田ユミ
【歌友の歌】 小原起久子
〈題詠〉海 宮崎 弘・牧口靜江・
    板垣志津子 ほか
歌会点描(5) 相良 峻
玉葉和歌集(抄)11    時緒翔子
『炎の女たち』古代編(35) 山下和夫著
秋季号作品評 
 作品Ⅰ評     元井弘幸 
 15首詠・月集評 赤石美穂 
作品Ⅱ・題詠評  茂木惠二
ばうんど
新刊紹介
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品(抄)   
 ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
新雪にふかぶか埋(うず)もりゆかば身は真新(まさら)
にならんか いいや、むり、むり
                 相良 峻
赤信号の眼にじっと見つめられ進むべき道を
迷い始める            石川ひろ
【山下和夫の歌】 1981年『埴』7月号より
落瀑のとよみに向かい叫びいる雄のかぎりなる声のさみしさ    山下和夫
コスモスの花咲きたおす一連の風あかるかり生(いき)の魂の緒          同
【作品Ⅰ㋑】
コロナウィルス易く棲み継ぎ満ち満ちて黴の花咲く日本列島    小原起久子
ゴキブリはいま極上の安楽死「ピタ・コロリ」の法則にしたがい  宮澤 燁
五月晴れのコロナ支配下ベランダのシャツに
残れるかすかな湿り 森たま江
天敵はわれであったか天道虫農薬散布の
庭に散りたり      宮崎 弘
還らざる今日という日が暮れてゆく 
沙羅の点せる灯り華やぎ 牧口靜江
寒星の燃え尽きし処よりつまみ出す闇
 森閑と冬       堀江良子
雨降れば花びら閉じるカタクリの
体力まもる智恵もらいたり 佐藤和子
断捨離は元気なうちにと思いたつ 捨てられるものわずか二つ三つ    江原幸子
「ママと寝る」医療ベッドの脇に乗り
五分と経たぬに転げ落ちたり 青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
ミッキーマウスのシミも長靴もあり
久々に笑う梅磨くひる    元井弘幸
爽やかな春の日暮れてひんがしに
黄なる満月われと対峙す   茂木タケ
コロナ用マスクに作るハンカチに
遅咲き桜のこぼれてゆける  石井恵美子
地球(てら)統べるべく新型のコロナ
ウィルスが人を餌食に電波乗っとる                   赤石美穂
夏の陽を穂先にとどめる狗尾草手折りて
風を掌にあそばせる     西村英子 
【作品Ⅰ㋩】
おずおずと運転頼みし義母でした
日帰りの湯に今ひとりだけ  萩原教子
一瞬のわが独占と思い見る西陽のつくる
二重の虹を         藤巻みや子
山の峰(ね)に繁れるみどり押し開く
なごりの春の桐のむらさき  茂木惠二
だるま市の喧騒の中抱かれゐる犬は
賢者のごとき顔する     天田勝元
目に見えて大きくなりゆく柿若葉
昨日より今日と緑広げて   伊藤由美子
ハーフタイムに取り落としたる満月をさみどりの〈ピッチ〉に転がしてみる 今井五郎
戦時下にもんぺの刺繍流行(はや)りしとう
手作りマスクに私を縫い込む 小澤嘉子
アナベルの白の花鞠咲く径を
夫に付き添ふ通院の朝    佐藤香林
生まれし子のただ元気にと願いしを
思いだしおりコロナウィルスに                     佐藤真理子
歩きいる太股に陽射しきたり寒き
弥生の朝の路地裏      﨑田ユミ
青空に白線描くブルーインパルス
地上に祈る妻もあらむか   反町光子
郊外のふれあいの森の蝉しぐれに
全身打たれ行く末想う    坪井 功
【まほろば集】
ふるさとは赤城南面
 風荒く義経伝説、湧水の里  板垣志津子
連なれる棺の十字架 夢だった
イタリアの旅をコロナが砕く  菊池悦子
【作品Ⅱ】
エプロン掛けザック背負い山菜採り
入りきれない高き青空    今井洋一
啓蟄に新芽に蟻のむらがりて 
 コロナ禍のもと巣籠りつづく                     大川紀美枝
自粛後の交差点にはマスクした
高校生の声がはじける     清水静子
きさらぎの月は短しと不満顔する
雛なり早春の春に      小曾根昌子
【会友】
沖縄の首里城出火あのときに
訪えばよかった      髙橋眞砂江
薄暗ひ部屋に別れを告げながら
窓に呼びたり外の明るさ  土屋明美
戸を開けると太ったゴキブリが
待ってましたとばかり入り込む 中山幸枝
母施設 父は入院 わが思考回路が
迷路となりてしまいぬ   牧野八重子
胸を割り放たれし矢は的を射ぬ
馬場駆け抜ける流鏑馬神事 井出尭之
マスク顔見慣れて今日は誰彼(たれかれ)が
善き人に見えてしまうおかしさ 川西冨佐子
【題詠 海】
極まりて海へ放つか汚染水粛々
タンクを満たしゆく夜   宮崎  弘
人影もまばらな浜に打ち寄せる
波のようなる悲しみは来  牧口靜江
駄菓子屋のメインは碧くなぎなたの
形をしてゐる海ほほづきぞ(戦時中)                  板垣志津子
海なりのかたちに風紋つづく丘のぼる
ラクダの〈息〉高まりてゆく 今井五郎
青き足キリンのごとく踏ん張りて今日も  
クレーンは海に対ひつ   天田勝元2020

年秋季号 NO.261
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉同調圧力   相良 峻 
〈15首詠〉  森たま江・堀江良子
山下和夫の歌 『埴』1981年5月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・牧口靜江 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・相良 峻・茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 坪井 功・萩原教子・藤巻みや子 ほか
山下和夫の歌64    小原起久子 歌集『耳』(1995年第5歌集)
           錯誤3(その5)
ONE MORE ROOM 小原起久子 山下和夫著 
『現代短歌作品解析Ⅲより 24【「場面」の効果的設定】
〈まほろば集〉 茂木惠二・佐藤和子
一首鑑賞 清水静子・西村英子
〈作品Ⅱ〉東 好一・石田春子・今井洋一・大川紀美枝・小曾根昌子・清水静子 ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・関根さつき ほか
挽歌について 究極の恋歌  小原起久子 
       挽歌の哀愁  江原幸子
〈題詠〉旅行 佐藤和子・板垣志津子・藤巻みや子 ほか
短歌の作り方覚書  空白の作用 堀江良子
「春季短歌大会」の報告  小原起久子
プログレス賞受賞作品評 佐藤和子・牧口靜江
春季短歌大会投稿歌寸評 森 たま江・江原幸子・矢島由美子          
プログレス賞の表彰 小原起久子
ESSAY 3メートルの恋 宮崎 弘
玉葉和歌集(抄)10     時緒翔子
『炎の女たち』古代編(34) 山下和夫著春季号
作品評 作品Ⅰ評 牧口靜江 
15首詠・月集評 宮澤 燁 
作品Ⅱ・題詠評  佐藤香林
ばうんど
ESSAY 思い出のうた 板垣志津子
編集後記
表紙絵 若山節子
会員作品(抄)   ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
硝子越しに四月の空を磨きおり翳(かげり)の消えぬ世に閉ざされて 森 たま江
若きらのスマホの森に迷い入り残暑の中に木枯らしを聴く      堀江良子
【山下和夫の歌】 1981年『埴』5月号より
うしろよりつづきゆきつつ背ごしに見ていたる峠(たお)いま独り超ゆ  山下和夫
死ぬまねをして死ににける老い狐峠超えしこの村にても聴く        同
【作品Ⅰ㋑】
人は往き人は来たれり見えざりて新しきものいそいそ運び  小原起久子
国境なき医師団 ポエム 見えない敵みな透明なつばさを広げ  宮澤 燁
雪解けの川の流れに逆らいて淀みをめぐるわれの晩年      牧口靜江
山麓の自動化された豚舎には狼知らぬ子ぶたが遊ぶ       宮崎 弘
庭のまん中はさきがけてもどる寒気に一点灯す         江原幸子
真紅・黄・茶・ほの紅 冬空へそれぞれの色に樹々は燃え散る  石川ひろ 
車椅子ぼくが押すよと小さな手 押されるママに笑みがこぼれる 青木晶子
【作品Ⅰ㋺】
川漁師になれずに老いて書斎に埋もれ毛ばり巻きおり窓に新緑 元井弘幸
ウィルスが花粉が疲労が沖つ藻となりて病む身にからみつきたる 相良 峻
朝なさな磨きいる息子のリーガルも人支えきて皺増えきたる  茂木タケ
見はるかす北関東の山々は青み帯びたり 友を訪ねむ     石井恵美子
列島を覆うコロナウィルスに桜が充たす静謐な春       赤石美穂
夏の陽を穂先にとどめる狗尾草手折りて風を掌にあそばせる  西村英子 
【作品Ⅰ㋩】黙々と黒浜貝塚に白鷺がひとつ一心に啄んでいる 坪井 功
鳴きかわす蜩の声のデクレッシェンド森は小暗くなりてゆく  佐藤真理子
夏陽さす前方後円墳にスマホから異国の言葉呼び出しており  反町光子
挨拶の絶えし古団地ひもすがら鳥が囀り話しかけてくる    坪井 功
朝八時コーヒーショップの窓辺から通りをみつめる紳士と目が合う 萩原教子
牡丹桜濡れておりぬ 仮借なく人を圧するその色をもて      藤巻みや子
吾妻郡嬬恋村と先人の付けし名前の耳に優しき          天田勝元
男爵は五月の女王の執事かと戯言めぐるスーパーの棚       板垣志津子
誘われて花を見に行き雪渓を登る夢見し車椅子の我        伊藤由美子
両の鎌振り上げてわれを威嚇する垣根の忍者は幼カマキリ     今井五郎
コレラ(コレラ)セキ(赤痢)チパ(パラチフス)ペ(ペスト)リュウ(流行性感冒)
ジ(ジフテリア)ショウ(猩紅熱)ハッ(ハシカ)トウ(天然痘) コロナ加わる法定伝染病 
                               大場ヤス子
相づちも否定も弛き二人居に八朔を食む音高き朝         小澤嘉子
「お元気でこれが最後」と彼のひとの賀状に初めて生の文字ある  菊池悦子
クリスタルボウルの音色わたくしを通り抜け秋の空を響かす    佐藤真理子
木香薔薇の溢るる五月 つばくらはウィルス騒ぎの世と関はらず  佐藤香林
昇りくる朝日に思わず手を合わす病苦も言わず逝きし娘の命日   﨑田ユミ
坂の上の教会まひるを誰おらず十字架背負うイエスを見入る    反町光子
【まほろば集】
南天のすらりと伸びてゆれる葉にまばゆきひかり寄り添いてくる  茂木惠二
青春を燃やして卒寿なる背すじ伸びゆく幸綱の『群黎(ぐんれい)』を読み 佐藤和子
【作品Ⅱ】
夢剥がれ渚の夜をさまよひて暗い喪船の舳先認(とら)へる    東 好一
雪の宿に米寿と卒寿の夫とわれ 子と孫集い笑顔で写る      石田春子
窓を開け大声上げて鬼は外周りの静寂に寒く響ける        今井洋一
芳香の時は過ぎ去り堅い実の花梨も褐色を隠しきれない      大川紀美枝
聞きなれし名をなつかしと見るあした白寿にて逝くとおくやみの欄 小曾根昌子
たんぽぽの綿毛はすくと伸びてのち好きな風だけ選び旅立つ    清水静子
【会友】
紅梅の一枝(いっし)を択び仏壇に命日のみの一輪挿しで     井出尭之
盤上に駒が動けば人生の縮図のようなり桂馬を好む        川西冨佐子
白妙の千切り大根さみどりの大葉和えれば雪解け聞こゆ      関根さつき
延長十三回裏ついに迎えた攻撃に渾身のホームラン        髙橋眞砂江
古民家の庭を狭きと咲く薔薇に静かな時間(とき)を我は楽しむ  土屋明美
大過なき日の夕焼けの色惜しみつつ明日に向けてカーテン閉める   中山幸枝
我儘を七十年耐えおむつする壊れた母に父は会わない          牧野八重子
【題詠「旅行」】
札幌の伯父の葬儀を終え亡父(ちち)と晩秋の山や湖(うみ)を旅する 佐藤和子
妹と父とみたりの旅なりし清水トンネル終はることなく        板垣志津子
春日より新薬師寺への道なりき連翹の黄を一生抱く          藤巻みや子
母に隠れ「サガン」の世界に夢をみたわが偏読の旅の始まり      菊池悦子
若かりし母と笑みいる一枚も旅の想いもセピア色となる        﨑田ユミ
三月の家族旅行の島旅行とりやめて金残る使うあてなし        大場ヤス子
風の盆 渡れる風のうらおもてかがまり結ぶ赤き鼻緒に        宮澤 燁
コロナ禍にたわむ列島しずしずと桜は北へ向けて発ち行く       小原起久子

2020年夏季号 NO.260
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉歌人AIの歌を読んで  堀江良子 
〈30首詠〉  小原起久子
〈15首詠〉  西村英子・今井五郎・大場ヤス子・宮澤 燁
山下和夫の歌 『埴』1981年3月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 若山節子・森たま江・宮崎 弘 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・相良 峻・茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 佐藤真理子・反町光子・坪井 功 ほか
ONE MORE ROOM   山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより        
  23【「描く歌」から「言う歌」まで】
山下和夫の歌63  小原起久子
〈まほろば集〉 﨑田ユミ・佐藤香林
〈作品Ⅱ〉石田春子・今井洋一・大川紀美枝・小曾根昌子・清水静子 ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・高橋眞佐江・中山幸枝 ほか
男歌について 男の気概   石川ひろ 
オトコノウタ 佐藤和子
〈題詠〉雛一首鑑賞 萩原教子・茂木惠二
短歌の作り方覚書  転体の歌への挑戦 堀江良子          
玉葉和歌集(抄)9  時緒翔子
『炎の女たち』古代編(33) 山下和夫著
11月号作品評 作品Ⅰ評     相良 峻 
15首詠・月集評 矢島由美子 
作品Ⅱ・題詠評  藤巻みや子
ばうんど
歌会点描 相良 峻
交流のある「結社誌」の紹介
編集後記表紙絵 若山節子

会員作品(抄)   ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【30首詠】
梅雨あけの誰かと誰かをつなぐためまあるいボートになった白鳥   小原起久子
【15首詠】
雨音をひとり聞きいる暗闇に被災者の顔記憶のかおが        西村英子
大根の葉よりこぼるる朝つゆのどれにも初夏の佳き光あり      今井五郎
十歳の聞きし玉音放送の天皇の声終戦告げる            大場ヤス子
西瓜西瓜 球体の中の夕焼けにとうさんかあさん照らされている   宮澤 燁
【山下和夫の歌】 1981年『埴』3月号より
真上より日の射さぬゆえ常ゆがむ樹の投影もわれの思いも      山下和夫
ささやかれいる風聞や形変え窓より窓へ雲崩れゆく           同 
【作品Ⅰ㋑】
庭隅にうつむき咲ける秋海棠月影にゆれ偲ぶ亡友          若山節子
ぼんやりと滲んだような晩年に秋明菊の白の目に染む         森 たま江
台風のいよいよ近し雨戸閉め二階へ運ぶ防災グッズ          宮崎 弘
百日目の夜明けが静かに始まりて虚空に咲ける百日草散る      牧口靜江
せわしなき朝の時間が地下道を人間の足に運ばれている        堀江良子
朝日うけもみじ真赤に空燃やし恋の端(つま)にとスマホに写す   佐藤和子
「ばあちゃんはい」あめ玉ひとつ掌にのせてくれたる孫にわれも幼  江原幸子
八月の太陽の中一匹の蝉の亡骸眼ひらきて              石川ひろ
【作品Ⅰ㋺】
バイオリンの名器の色持つ枇杷の種 無用の美なるかシンクに艶めく 元井弘幸
雨上がるみどり涼しき野よ山よやがて味わいある枯葉色       相良 峻
台風は去れども酷暑は居座れえり地軸がずれたか吾がずれたか     茂木タケ
ショートステイへ義母を見送り帰京する背高泡立草の群落を抜け   石井恵美子
ジュース代ぺいぺい浮かれ払いたりスマホのペイはひとふわの雲   赤石美穂
【作品Ⅰ㋩】
鳴きかわす蜩の声のデクレッシェンド森は小暗くなりてゆく     佐藤真理子
夏陽さす前方後円墳にスマホから異国の言葉呼び出しており     反町光子
挨拶の絶えし古団地ひもすがら鳥が囀り話しかけてくる       坪井 功
ヒロインは深山の代用教員に おさげの母もかくありしかと     萩原教子
片雲(へんうん)より白光差して莟なき梅の徒長枝ぬめぬめ青し   藤巻みや子
夏バテをせしか蟋蟀鳴く声の力抜け落ちソファーに居座る      茂木惠二
また今朝もスマホに向かひ話しかくる優しきAIの声聴きたくて    天田勝元
あり得ないことと思ひつつ聞いてゐた滴がつくりし大八州國(国史教科書)板垣志津子
末席に名を連ねたる我でさえHANI の受賞に心踊りぬ        伊藤由美子
卒業に「音楽室が好きでした」と言ひくれし彼を舞台に見上ぐ    小澤嘉子 
白樺の林に親子の鹿の消え八ヶ岳連峰静けさにたつ         大場ヤス子
タイムマシンに息子と乗りて語りたる母の回忌に遺影を前に     菊池悦子
窓越しの南天の枝の揺れ具合風の強さを押し計る我         小菅喜代子
【まほろば集】
梅雨晴れを拾い拾いて散歩する歩数計にも管理されつつ       﨑田ユミ
くれなゐの山茶花咲ける樹の下に居りたる家猫幻視となれり     佐藤香林
【作品Ⅱ】
ドライバーの好みの速度それぞれに 車線を変えて自分の走り    石田春子
孫の目は右に左に探しおり 強く手を振る保育参観         今井洋一
まな板に切りたる茄子の色染みて鈍角・鋭角・紫黒のアート     大川紀美枝
髪染めてカットまでして入院の手続きすますに追って剃髪      小曾根昌子
台風ののち残骸は固まりて川の中洲で無音となりぬ         清水静子
【会友】
事故の道迂回をすればネギ畑宅地の中も深谷ネギネギ        井出尭之
瓦楽多(ガラクタ)の中にポツンとトランクが期限切れなるパスポート無残 川西冨佐子
お花見の特急列車の休憩所の座席にほっとおにぎり食す       髙橋眞砂江
庭さかひ茂る南天赤き実は供華となりて墓標にささぐ        土屋明美
手作り団子とまだ穂の出ない薄供えたり月の見えない十五夜に    中山幸枝
晩年が最盛期だった北斎に吾なりたくてアクセルふかす         牧野八重子
【題詠「雛」】
さびしきはわれの雛のみ人絹のもんぺ姿よ 戦争ありて       森 たま江
「あの上枝(はつえ)」とスポットあびてオオタカの雛をかかえる墳丘の松 赤石美穂
雛人形のうりざね顔の愛くるし笑みたたえたる面(おも)一様にして 江原幸子
駅横の公衆便所の燕の巣三羽の雛のくちばしせわし         天田勝元
久月のひな様飾り五十余年娘の停年にわれの年旧る         大場ヤス子

2020年春季号 NO.259
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉令和に思う  菊地 葩 
〈30首詠〉  堀江良子
〈15首詠〉  牧口靜江・赤石美穂      
        小原起久子・相良 峻
山下和夫の歌 『埴』1981年1月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・若山節子・森たま江  ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・茂木タケ・石井恵美子 ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 菊池悦子・﨑田ユミ・佐藤香林  ほか
ONE MORE ROOM   山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより 22 【知と情との交差】
山下和夫の歌62  小原起久子
短歌の作り方覚書   「ここ」と「そこ」について  堀江良子
第20回プログレス賞受賞作品     宮崎 弘 
         同 作品評     宮澤 燁 
         同 作品評     佐藤真理子
まほろば集        小菅喜代子・藤巻みや子
一首鑑賞       板垣志津子・小原起久子
〈作品Ⅱ〉石田春子・大川紀美枝・久保田三重子・小曾根昌子・清水静子 ほか
〈会友〉 高橋眞佐江・中山幸枝・牧野八重子 ほか
〈題詠〉正月
〈特集〉女歌について     
 女歌の責務    元井弘幸    
 多彩化する女歌  宮崎 弘
玉葉和歌集(抄)8     時緒翔子
『炎の女たち』古代編(32) 山下和夫著
ESSAY うた此頃     小曾根昌子    
    短歌の道へ    川西冨佐子  
    知っているようで知らない日本語の語源    小原起久子
お知らせ
報 告 群馬ペンクラブ長期活動団体表彰       小原起久子
9月号作品評 作品Ⅰ評   江原幸子 
15首詠・月集評      佐藤和子 
作品Ⅱ・題詠評       石川ひろ
ばうんど
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品(抄)   ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【30首詠】
  さながらに地上の銀河 夏の夜に池のほとりの青き蛍火        堀江良子
【15首詠】
  勾玉のかたちに眠る夫の背刺は隠してときには擦る          牧口靜江
  はるかなる難民にあらずネモフィラの空への道に途切れざる列      赤石美穂
   あなたの不在に慣れゆく不思議 いまだ難民と呼ばざれるまま     小原起久子
  かそかにも炎(ほむら)立ちたりかそかなるままにせんとて灰搔き寄せ  相良 峻
【山下和夫の歌】 1981年『埴』1月号より
  たそがれ かわたれとどこおりなく川はゆきふいにしろがねの鬢映すなり 山下和夫
  いち早く昏れゆくなれば溜り日の束の間温き野の窪にいる         同
【作品Ⅰ㋑】
  ホイホイ入ればホイホイ死ねる「ごきぶりホイホイ」本意本意(ほいほい)あがなう 宮澤 燁
  反故にする歌かすかなる声立てる春の夕べの吾を見ながら              若山節子
  平穏の日々に無かりし杖の音足萎えの夫の寂(さび)のこもれる           森 たま江
  八月の朝の静けさ窓開けて六日、九日の空を思えり                 宮崎 弘
  蓮の花の写真展に桃色のまあるい時間が弾んでいます                佐藤和子
  透明のコップの水滴に映りいる吾が歪な吾をみている                江原幸子
  廃屋の庭に溢れる黄の小菊ありし日の家族集えるごとく               石川ひろ
【作品Ⅰ㋺】
  九十まで生きるつもりのリフォームに死神たちの毎夜集うや             元井弘幸
  硝煙のにおいがするよこれの世に戰争の日々よみがえりくる             茂木タケ
  逆転のピンチヒッター敢晴(かんせい)と親の名付けたる児がボックスに立つ     石井恵美子
  クーラーに閉ざしたる窓お囃子と花火の音を聞きのがしたり             西村英子
【作品Ⅰ㋩】
  のっそりとわが庭を行くボス猫を投げたき焼けたトタン屋根の上           菊池悦子
  元号は令和となりし朝五時の風清々(すがすが)しはだけし胸に             﨑田ユミ
  葉洩れ陽にかりがね草の小花揺れ鳥渡るらむ大空のはて               佐藤香林
  九十二の伯母への手紙百枚目青空泳ぐ鯉のぼり描く                 佐藤真理子
  玉砂利の道に仰げる伊勢神宮の大杉妹背の恋歌ひそめむ               反町光子
  反抗せしひとり娘も葬儀には心配りし伯父も泣きしや                坪井 功
  予備校の庭にびっしり銀輪が真夏の光きらきら返す                 萩原教子
  闇の中虫の鳴く声絶えだえと令和の秋においとまの気配               みたけもも
  背なまるめ坂道下る足裏(あなうら)に荒草踏みつけ姿勢正せり           茂木惠二
  新しくもらひたるめだか元気にて止まることなく泳ぎ続ける             天田勝元
  台風はやうやく去りて餌あさる野猫をにぶく照らす立待               板垣志津子
  摺らんかな 忘れ草の橙紅(とうこう)を誰も知らないこの白布に          藤巻みや子
   何の為に生まれて来たのか小さき蟻よ目に付く度に 指につぶせり            伊藤由美子
  夏祭り 酒にほどけてするすると〈だんべー踊り〉の輪の中に入る          今井五郎
   ローソクの戦争の明かり暗くしてソーラーランプの光り明るし           大場ヤス子
【第20回プログレス賞】「遺影一枚」(全30首)        宮崎 弘
  断崖に立つ一本の松見上げわが晩年の年あらたまる                 宮崎 弘
  眉月に金星寄り添うむつびづき今宵とっときの極上を酌む                同
【まほろば集】
  小箱より出てきたチビた鉛筆を捨てられもせず今日も削りぬ             小菅喜代子
  公園の桂は雌雄異株にして散って初めて一緒になります               藤巻みや子
【作品Ⅱ】
  山峡の蛍の里に招かれて源氏と平家吾が手に乗せる                 石田春子
  令和の代を共に迎えし学友も髪白くしてそれぞれの春                大川紀美枝
  夜の海工業地帯を逆さまに映して日本の現代アート                 久保田三重子
  かすかなる音に映れる遠花火山下清が浮かんで消えた                小曾根昌子
  靴下とズボンのあはひに黒南風のひんやり吹けり人の去ぬ塚             清水静子
【会友】
  ミクロンの板を歯間に差し入れて医師得意げに隙間を語る              井出尭之
  五歳児の啜り泣きし映画館ハンカチ渡しそっと肩を抱き               今井洋一
  山名宮の茅の輪くぐりて夏祓い終え山上碑へ通じる道ゆく              川西冨佐子
  風邪ひきの幼き孫はユーチューブに「アンパンマン」を日がな見ている        髙橋眞砂江
  敬老の日「古希はまだまだ子供だ」と米寿うなづき傘寿は笑ふ            土屋明美
  曇天の日ばかり続きトマト茄子を見るにつけても夏の陽恋し             中山幸枝
  父の連れに選ばれチャンバラ映画観き五歳(いつつ)の吾はアイスが目当て         牧野八重子
【題詠「正月」】
  父母と幼(おさな)の我と姉弟(きょうだい)と祝いし正月もおぼろやおぼろ     矢島由美子
  元旦を車酔いの子ら歩かせる御節を作り待つ義母の元へ               佐藤真理子
  ご来光じっと待つこと一時間赤城の空の星拾いつつ                 今井五郎
  蚕飼ふ里の正月霜枯れの桑園からか風抜けるのみ                  板垣志津子
  正月に白き秩父嶺を眺めるたび心機一転深く息する                 坪井 功
  正月の家族四人のいやさかの那古山潮音台の和泉式部供養塚             大場ヤス子
  赤城山の裾野はろばろ新春の影を歩ます広瀬のほとり                宮澤  燁
  むらさきの残菊一本倒れつつ歳晩の庭に命をつなぐ                 森 たま江
  満ち足りることの険しさ家族合せカルタに知れりわが一生              若山節子
  長髄彦(ながすねひこ)が提げ来る重箱外国(とっくに)の海幸山幸(うみさちやまさち)
  を隅まで詰めて                                 小原起久子
                                      
2019年11月号 NO.258
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉
  伝えるということ   相良 峻
〈15首詠〉  西村英子・佐藤真理子
山下和夫の歌 『埴』1980年11月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・若山
       節子 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・相良 峻・茂木タケ
   ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 萩原教子・藤巻みや子・みたけもも ほか
ONE MORE ROOM山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより 21【…ば】
山下和夫の歌61  小原起久子
短歌の作り方覚書 全体喩の表現の微妙さ  堀江良子
歌会点描(2) 相良 峻
一首鑑賞 森 たま江・大場ヤス子・板垣志津子
おしらせ
〈11月集〉天田勝元・茂木惠二
〈作品Ⅱ〉秋山充利・石田春子・久保田三重子 ほか
〈会友〉井出尭之・川西冨佐子・髙橋眞砂江  ほか
〈題詠〉駅
〈特集〉言葉あそびの歌について     
  言葉あそびに果てはあらぬを 小原起久子  
  言葉の持つイメージ     牧口靜江
玉葉和歌集(抄)7 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(31) 山下和夫著
7月号作品評
 作品Ⅰ評     堀江良子 
 15首詠・月集評 宮崎 弘
  作品Ⅱ・題詠評 佐藤香林
ESSAY  短歌と「埴」を愛した少女  堀江良子  
      余生 短歌を愛でて      今井五郎
ばうんど
発行を季刊へ変更
新刊紹介
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品 ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】ダイナモの音に縁日盛り上がりそぞろそぞろと人込みにいる      西村英子
      同じ殻の種より育てし河原撫子こき紅もあわきもありぬ        佐藤真理子
【山下和夫の歌】 1980年11月号より
     散り敷ける金木犀の輪の緑少年のかげめぐりゆきたり          山下和夫
【作品Ⅰ㋑】
     あなたとの別れについに振らざりし白いハンカチ ハンカチの木に    小原起久子
     なずななのはななでしこなつめななかまどももどかしや歌の歩みは    宮澤 燁
     非通知を知らせて灯る点滅にむねさわがせる深夜の電話        若山節子
     ともかくもこの世に残れし夫と見る病窓のかなた青山連なる        森 たま江
     連休をそば屋に並ぶ山村の鯉ひるがえる新緑の谷            宮崎 弘
     地下冥く棲みたる蝉との交代の避難計画始まる気配            牧口靜江 
     たえまなき雛鳥の声に春眠を妨げられて早めのスタート         堀江良子 
     藤棚の花にかんばせ寄せながら娘心に令和へ踏み出す          佐藤和子
     コンビニの軒下にある喫煙所男の吐く煙のそこのみ自由        江原幸子
     東雲(しののめ)に天女の舞うや羽衣を金色に染め今日を誘(いざな)う  石川ひろ
【作品Ⅰ㋺】
     誤りて掘り出し埋めし生姜の芽 真夜の呼吸に乱れはなきか      元井弘幸
     秋枯色(あきがれいろ)に染まりゆきたり凄陵(せいりょう)な気配のなかなる夜のひとり身  相良 峻
     「一生僕が守ります」皇后となりしお方になお消えざらん       茂木タケ
     野良になった子猫のミヤアに便乗し野太いクロが餌(え)を待つ夕暮れ 石井恵美子
     奥津城の母に見せたきたんぽぽの傷なき球体に春を逝く風       赤石美穂
【作品Ⅰ㋩】
     いつの日か分け入らん先は故郷の山桜ともるるなだらかな山      萩原教子
     摺らんかな 忘れ草の橙紅(とうこう)を誰も知らないこの白布に   藤巻みや子
     水無月は一年の折り返す月満ちるものなきわたしの日常        みたけもも
     芋の葉の露はなけれど百均の短冊に黒く平和と健康          板垣志津子
     朝の四時窓際に吊るすカーテンがざわりざわり夜の闇喰う        伊藤由美子
     繭を掻く母の背中で聞きたるか玉音放送 一歳の夏          今井五郎
     友の顔の縦じま横じまみて帰るわたくしの顔鏡にうつす        大場ヤス子
      萩の朝路傍の古き地蔵に問う幕末、志士も寄りしかここに       菊池悦子
     平成に咲き終えた花令和にも変わらず清き花を咲かせる        小菅千代子
     うす紅の花びら美(は)しきはコロコロと見えざる小人の足さばきなる  﨑田ユミ
     坪庭に白灯しゆく蛍袋 留守がちの妻われにかはりて         佐藤香林
     「令和」の名の原点万葉集巻五の納まる一冊今見つけたり       反町光子
     久し振りの梅雨の晴れ間に窓という窓開け放し日輪を追う       坪井 功
【11月集】
     津波からの避難促す女子職員の声の響けりサイレンの中        天田勝元
     どこに居る誰れというのか普通の人は踏むに踏めない吾が影のよう   茂木惠二
【作品Ⅱ】
     雨雲が水溜まりに写りいる天候不順を長靴に踏む           秋山充利
     紅きばら垣根に咲かせる黒き家何方が住むのか一寸覗く        石田春子
     黄昏の初夏の河原に月見草隣に座り月の出を待つ           久保田三重子
     靴下とズボンのあはひに黒南風(くろはえ)のひやりと吹けり人去りぬ塚 清水静子
【会友】
     ツインベッド一人で使う寂しさは真夜に目覚めて眠られぬ時      井出尭之
     台所(だいどこ)に置き忘れられ勢いのある芽を吹いたカット白菜   川西冨佐子
     平成の最後の夏の思い出に顔の骨折と四日の入院           髙橋眞砂江
     やわらかなマリモの如く生ふる苔にマイズル草は占領しせり      土屋明美
     梅雨入りを知らせる如く紫陽花の蕾ふくらむ六月十日         中山幸枝
     姿見を背にして帯を締めあげた母の仕上げはぽんっと一打ち      牧野八重子
【題詠「駅」】
     急ぐことなにもなくなり駅ナカのビアスタンドに泡食む老い人     元井弘幸
     それぞれの目的に向かい脇目もふらず皆走ってる新宿の駅       石川ひろ
     そのかみの高校入試といふ駅で西と東に別れた友と          板垣志津子
     駅を出で右と左に歩みゆくあうこともなき季(とき)を踏みつつ    みたけもも
     降り立ちて野辺山駅の冷風の心身に沁むふるさとは好し        大場ヤス子


2019年9月号 NO.257
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉  パリ・コレと短歌   宮澤 燁
〈30首詠〉  宮澤 燁
〈15首詠〉  若山節子・今井五郎
山下和夫の歌 『埴』1980年9月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・森 たま江・宮崎 弘 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・菊地 葩・相良 峻   ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 坪井 功・萩原教子・藤巻みや子  ほか
ONE MORE ROOM山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより 20[背面空間の広がり・「に」の作用]
菊地 葩さんに捧ぐ 小原起久子
山下和夫の歌60  小原起久子
短歌の作り方覚書 重文・複文 堀江良子
一首鑑賞 藤巻みや子・小曾根昌子
〈9月集〉天田勝元・茂木惠二
〈作品Ⅱ〉石田春子・大川紀美枝・久保田三重子 ほか
〈会友〉井出尭之・川西冨佐子・髙橋眞砂江   ほか
〈特集〉戦争の歌について      戦後の第二芸術論から  小原起久子      
                   戦場詠について     佐藤和子     
                  銃後の護り      若山節子    
                  銃後では       板垣志津子 
                   戦争の歌       相良 峻
〈ESSAY〉未経験者の経験として 小原起久子    
      復員兵        若山節子     
     原子爆弾と風船爆弾  大場ヤス子    
     蛙の解剖       板垣志津子    
〈題詠〉 道
春季歌会報告 佐藤香林
〈ESSAY〉 「武蔵の小京都小川」 坪井 功
      「心・技・体」     茂木惠二
玉葉和歌集(抄)6 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(30) 山下和夫著
5月号作品評 
 作品Ⅰ評     元井弘幸 
 15首詠・月集評 佐藤真理子 
 作品Ⅱ・題詠評 
ばうんど
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品
【30首詠】
めいはくに基地ある美ら島視んとしてまずまんまるのまなこを閉ざす  宮澤 燁
【15首詠】
新春に欠けゆくことの寂しさを堪えいるような部分日食       若山節子
滝壺のイオンいっぱい吸い込みぬ肺腑のスモッグ薄くなるまで   今井五郎
【山下和夫の歌】 1980年9月号より
風たちぬいざゆかめやもわが壮の乏しき莢実鳴りはじむなり       山下和夫
【作品Ⅰ㋑】
五月の女王・男爵様も同居して野菜ストッカーに満ちる華やぎ      小原起久子
元号の変わりたればの楽観にさくらはふふっと白き闇吐く        森 たま江
天災も人災もある列島をさくらざんせん黙示の行脚           宮崎 弘
空広く雲の影なし あれこれと詮索せぬ犬連れて晩年          牧口靜江 
ふり向けば通らなかった道光る その空にベガは激しく燃ゆるか     堀江良子  
うぐいすの声に見あぐる白梅のしだれる匂いに包まれてゆく       佐藤和子
春うらら気持もうららたそがれて吾が脳内の洞広まりぬ        江原幸子
甲子園の手に汗握る闘いに平和をかみしめ八月を生く         石川ひろ
【作品Ⅰ㋺】
昭和より売れぬ薬缶に令和のシール貼りいる商店街にも新時代     元井弘幸
老いしとう顔の面よりやってきて問答無用に皺む鳶尾(いちはつ)   菊池 葩
臥す母の手にと両掌(りょうて)にくるみたり春の薔薇(そうび)のみずみずしき芽を  相良 峻
脱皮せぬ蛇(へび)は死ぬかとトラウマの蛇(じゃ)は吾(あ)に巻きつき締めつけてくる 茂木タケ
黄緑の自転車「ラルゴ」 僕は君をいとほしめるか          石井恵美子
ばりばりとタイヤに踏みしだかれたる青き如雨露に繊月の光      赤石美穂
きれぎれの会話繋げんとして老年のキャッチボールのエラーは続く   西村英子
【作品Ⅰ㋩】
風わたる元荒川はとうとうと市街地を抜け浄土へ向かう        坪井 功
桜湯の香る客間に笑い声聞きつつ確かめるほのかな塩味        萩原教子
ダム底となりゆく草地に雛を呼びうろたえ走る鳥もあらんか      藤巻みや子
うつうつと積れる思い雪となり風に吹かれてランダムに舞う      みたけもも
こじれた風に長く臥れば四角の部屋が丸く迫りくる          三越誧子
戦場より戻りし軍馬「勝山号」いく年を経て狂ひ死にしとぞ      板垣志津子
「今何時」間を置かず問う盲目の老女には長きホームの一日       伊藤由美子
郡古山の和泉式部の供養塔尋ねて詠まん和歌の流れの         大場ヤス子
人の世はゆずり葉のようと孫を見る 母は火燵に背を丸め居し     菊池悦子   
身の裡までも眩しくなるごと立春の朝の白雲が反しくる光       﨑田ユミ
花荒らす鳥大らかに受け入れて天に波打つ古刹のさくら        佐藤香林
朔詩舎の皿に刷られし「旅上」の詩 壁一面の窓は青空        佐藤真理子
ビル風に煽られ小さき植え込みの中に咲きいる三色すみれ       反町光子 
【菊地 葩さん(2019年6月逝去)の歌】2006年プログレス賞受賞作から
身の裡に凝るながやみ馴らし持ち雪の一塊天に放てり         菊地 葩 
【9月集】帰れざる思ひは秘めて書きにしか戦地の手紙どれも明るし     天田勝元
朝光(あさかげ)のすべり込みたるカーテンと戸の間(ま)に温(ぬく)き帯の陽だまり 茂木惠二
【作品Ⅱ】
庭隅をあふれるほどに牡丹咲き草引く手にも力加わる          石田春子
真夜のおき消灯すれば水仙の新たな闇にきわだつ香り         大川紀美枝
用水路の水かさ増して春の陽を吸って吸われて何処へゆくや      久保田三重子
庭先に椅子持ち出して談笑す令和初日の老いし六人          清水静子
【会友】
林檎一個分けて食む人無き三時間南天の実を二羽が啄む        井出尭之
幼き日七不思議あり生き物がすべて泣きいる釈迦の涅槃図       川西冨佐子
早朝に小雀舞いおり落としたる小さなかなぶん路上に眠る       髙橋眞砂江
蕗の薹さがしかがめる林道にケンケン山鳥鳴いている午後       中山幸枝
ハンサムな見知らぬ人と語るわれ心躍るよ夢のひとこま        牧野八重子
【題詠「道」】
真白なるスカートなびかせ街の道ゆくなり四頭身のおみな児      相良 峻
田の中を広き道が完成す吾が住む町は拓けたのだろうか        江原幸子
ふるさとは遠くなりけり畦道に芹つみし日の草木瓜の花        板垣志津子
八十路きて険しき老いの道のぼる脳髄筋肉骨かばいつつ        大場ヤス子

2019年7月号 NO.256 〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC〉  価値観   宮崎 弘
〈15首詠〉  佐藤和子・石川ひろ・みたけもも
山下和夫の歌 『埴』1980年7月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・森 たま江 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・菊地 葩・相良 峻   ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 﨑田ユミ・佐藤香林・佐藤真理子  ほか
ONE MORE ROOM 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより19[オノマトペの不思議]
山下和夫の歌59 小原起久子
短歌の作り方覚書 句切れの位置について 堀江良子
一首鑑賞 久保田三重子・茂木惠二
歌会点描     相良 峻
〈7月集〉板垣志津子・菊池悦子
〈作品Ⅱ〉秋山充利・石田春子・大川紀美枝 ほか
〈会友〉川西冨佐子・髙橋眞砂江・中山幸枝 ほか
〈題詠〉 祭
「山下和夫の聾」
絵の歌について 
絵画と短歌  石井恵美子 
「絵」のうた  矢島由美子 
ブログより 「こころに効く短歌」その11(最終) 小原起久子
玉葉和歌集(抄)5 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(29) 山下和夫著
3月号作品評 作品Ⅰ評     相良 峻 
15首詠・月集評 牧口静江 
作品Ⅱ・題詠評  江原幸子
ばうんど
ESSAY 2019年3月「埴」誌から  大場ヤス子
編集後記
表紙絵 若山節子

会員作品
【15首詠】
われ五歳 霜月昭和十九年家族強制疎開をしたり             佐藤和子
脳腫瘍の診断受けしとの娘の知らせに一瞬世界がモノクロとなる    石川ひろ
人々が伽藍のような大広間に隙間もなく触れ合いている        みたけもも
【山下和夫の歌】 1980年7月号より
少年のまるきくるぶし過ぎゆけり野の風のむたさすらいやある      山下和夫
【作品Ⅰ㋑】
雲一つなきさびしさに環状列石の小さきを造り公園を辞す        小原起久子
空き缶の円周率のようである核廃棄物処理の議論は           宮澤 燁
何となく言いそびれたる一言が胸さわがせる友逝きし夜         若山節子
生きながらこの世はしだいに遠くなる悲鳴のような鵯(ひよどり)の鳴く 森 たま江
炎をまとい震えるように昇る太陽(ひ)に白衣観音も頬を染めたり    宮崎 弘
障壁を越えたつもりで極寒の庭へ生き出でしか土竜硬直         牧口靜江 
「一枚の落葉のかげ」にあるドラマを方代の眼となりて覗き見る     堀江良子  
道の端の枯草の間(ま)にやわらかな雨にぬれつつ地蔵は笑まう      江原幸子
【作品Ⅰ㋺】
〈蕗味噌をつくれ〉ともらいし蕗のとう盃傾ける仕草の老いに      元井弘幸
ねむるにも身を護る意図のありとしカニューラしかと胸に抱きぬ     菊池 葩
たゆき身をこらえて笑みしひとひらを遺してきみは供華となりぬ     相良 峻
息(こ)が注(つ)ぎてくるるキリンの「一番搾り」飯(いい)の合間にちびちびうまし 茂木タケ
蛇尾(じゃび)川を越えれば広い那須野が原 義母の介護へスイッチ入る 石井恵美子
眼裏に大観の「もみじ」を一杯のコーヒー啜る小春日の部屋       赤石美穂
楽らくと玄米炊き上ぐ炊飯器勝者のごとくブザー高鳴る         西村英子
【作品Ⅰ㋩】
お陽さまのにおいホッコリ潜り込む 初夢見んと娘・孫・ひ孫と      﨑田ユミ
過去世(かこぜ)より降りくる如きけふの雪 南天の実のくれなゐ著(しる)く 佐藤香林
わがうちの暗渠となせる杳い時間の波立っている 永のお別れ    佐藤真理子
初生りをようよう摘みぬ仏頭の螺髪(らはつ)のようなロマネスコなるを 反町光子
幼子らにカーネーション贈られてリハビリせねばと息深く吸う      坪井 功
大きくて科白のへたなジョンウェイン弱きを助く 息子よかくあれ    萩原教子
夫と父の理想の点と線の位置座標平面へ射影してみる          茂木惠二
手にとまるいまだ幼き蚊の姿潰せば赤き血の残りたり          天田勝元
昼下がり白き光の部屋にひとりつり橋渡る夢から覚める         井口邦子
杖無しで半分以上歩けたと息弾ませて君は告げ来る           伊藤由美子
猪のハガキを食べて古ぼけたポストに来たるあたらしき年        今井五郎
友の父の戦死は昭和十九年武勲をたたえ村葬に並びたり         大場ヤス子
花終えしシクラメンの葉百枚の確かな位置取り真似たきその「間(ま)」 小澤嘉子
離(さか)り住みてひとりひとり吾も子もストーブに青く火を燃やす頃  藤巻みや子
【7月集】
一行の楷書となりし親のため二行の楷書を書く墨をする         板垣志津子
大欅の枝春一番に煽られて右左(ひだりみぎ)する 雲掃くごとし    菊池 悦子
【作品Ⅱ】
一輪の真っ赤な椿咲き点り凍てつく朝を温めてくれる          秋山充利 
木枯らしの枯野に夕陽赤々と今日一日の喜びの色            石田春子
山頂へ行く嫁入りに降る日照雨(そばえ)伏見稲荷の続く鳥居に     大川紀美枝
冬去れど雪ふかぶかと谷川の山は輝きそらに壁立つ           櫛毛宣幸
慎重に石段上がる裳裾から見え隠れすると締まった足首         久保田三重子
平安の写経の文字は整いて部屋の空気を静かに圧す           清水静子
【会友】
親族の骨揚げ済めば素手のまま小ぶりの壺に急ぐ都の荼毘場       井出尭之
蝋梅の咲(ひら)きし枝に白鶺鴒(はくせきれい)朝焼けのなかスウィングしている  川西富佐子
スーパーの台にたっぷり並びいるみかんや柚子が我に香れる       髙橋眞砂江
朝の光に照らされてイチョウはイチョウの葉として芽吹く        中山幸枝
題詠 [祭り] 
祭壇に微笑む君は君でない本当の君は何処に行きたる          天田勝元
突然の風のいたづらおまつりに知らぬ同士が笑顔を交はす        板垣志津子
秋祭りのおこわあんころ腹みたし諏訪神社に遊びたり昭和        大場ヤス子
産土の神社の祭りはお札のみ赤き鳥居がぽつねんといる         西村英子
幼な児と御輿(みこし)につきそい歩む夜のシ・ア・ワ・セ色の満月   みたけもも
ひなまつりに子らに教えし折雛をしまいし箱より愛らしき声       森 たま江
夏祭踊りの輪の中二十才の我は黄金(こうこん)の帯高々結び      矢島由美子
赤いリボンと口紅つければたちまちに祭囃子の稚児となりたり      若山節子

2019年5月号 NO.255
MICROSCOPIC&MACROSCOPIC批評のススメ   元井弘幸
〈30首詠〉 小原起久子
〈15首詠〉 相良 峻・赤石美穂
山下和夫の歌 『埴』1980年3月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・若山節子・森 たま江 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・菊地 葩・茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 菊池悦子・小菅貴代子・佐藤真理子 ほか
山下和夫の歌58 小原起久子
ONE MORE ROOM 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより18[異化・だまし絵的フモール]
短歌の作り方覚書「喩」のいろいろ(3) 堀江良子
一首鑑賞 天田勝元・萩原教子
ブログより 「こころに効く短歌」その10 小原起久子
〈5月集〉佐藤香林・坪井 功
〈作品Ⅱ〉 秋山充利・井口邦子・石田春子 ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・髙橋眞砂江 ほか
〈題詠〉コーヒー
山下和夫の聾・ほか
〈特集〉 音楽の歌について 
  音楽の持つ役割   若山節子 
  ー多彩な表現をー  石川ひろ
「HANI(埴)」短歌会からのおしらせ
第19回プログレス賞受賞作品「千本の針」若山節子   
 同作品評           堀江良子   
 同作品評           宮崎 弘  
 同作品評           西村英子
玉葉和歌集(抄)4 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(28) 山下和夫著
ESSAY 短歌を三年 清水静子  
    投稿歌と私 秋山充利 
ばうんど11月号
作品評  作品Ⅰ評     森 たま江 
     15首詠・月集評 佐藤和子 
     作品Ⅱ・題詠評  藤巻みや子
山下和夫の聾
編集後記
表紙絵 若山節子


会員作品
【30首詠】
君の魂の捨てゆきし庭舗装して失語症となりたる雀          小原起久子
【15首詠】
成り行きに弄ばるる身 大鏡落下し粉々破片煌めけ          相良 峻
俯きつつ歩む舗石を飛び交えるとんぼの影に重さのなくて       赤石美穂
【山下和夫の歌】 1980年3月(5巻2号)より
冬草に鎌置かれあり女(め)の手が現れて握りゆきたり        山下和夫
【作品Ⅰ㋑】
両の目を閉じて佇ちおり草が吾(あ)か吾(あ)が草なるかわからぬ原野 宮澤 燁
がらんどうの路線バスが街を行くがらんどうの重さたっぷりのせて    若山節子
平成の歳晩の畑(はた)に残されし大根あまた末枯(すが)れゆくらん 森 たま江
罪を問う人も問われる人も乗せ自動運転のバス地球号          宮崎 弘
秘め事を洩らさぬように赤き口少し窄めて柘榴が笑う          牧口靜江
ゴールデン・ウィーク過ぎて寒戻り萌え出た新芽のさみどり吹雪     堀江良子
平成の終わりの年に三人(みたり)逝き秋霖の雨にわれくらみゆく    佐藤和子
小正月のたるんだ眼に昼さがりのテレビには熱く苦しむラガーたち    江原幸子
“進歩”を“心歩”と書き初めし母ありて新たな年を手をとり歩む      石川ひろ
【作品作品Ⅰ㋺】
骨董店に徳利盃並びおり祝いし者悼みし者集いておりぬ         元井弘幸
よろこびて自然にかえるという君の一(なる)心に添えり五年祭     菊池 葩
灼熱の赤道まで征きし日本兵のDNA持つ赤子ら生まれし         茂木タケ
暖かき師走の畑をそよぎつつ昨日と明日をつなげる黄蝶         石井恵美子
いが栗を並べたようなオナモミの人待ち顔がわが顔のぞく        西村英子
【作品Ⅰ㋩】
美しき獣の眼をして氷上に羽生結弦は己と戦う             菊池悦子
青き空写して春の浅き川白鷺(さぎ)の影ひときわ長し         小菅貴代子
青き実の小みかん朝日に実をさらす さらせずにいる小さなプライド   﨑田ユミ
いすに座りフラメンコを踊る老女「ラ・チャナ」祖(おや)よりの血のリズムのままに 佐藤真理子
もみじの葉に染まれる空のひとところのぞくみずうみのような紺碧    﨑田ユミ
右手(めて)伸ばし流れる星の尾をつかみ弓手(ゆんで)に星形クッキーつまむ    反町光子
頼もしく思いおりし後輩の異動して 会いに行く昼休みの泣き笑い顔   萩原教子
信濃より峠超えきて雪雲は荒船の嶺(ね)に今し届きぬ         藤巻みや子
地中より太ぶととした葱ひけば初冬の空にひろがるしろたえ       みたけもも
陽に干しし布団にくるまり一日のストレス夢に食わせてしまえり     茂木惠二
小さき蛇ゆらゆらとうねるよに猫じゃらしの影風に揺れゐる       天田勝元
公魚は氷上のオブジェ カセットコンロに匂う油を道連れ        板垣志津子
初日の出拝むといできし畔道に赤城おろしの耳に痛かり         伊藤由美子
雨上がりのなだりの畑の蕎の花しずくに濡れて白の息づく        今井五郎
丹念に育てられたるシクラメン迷わず決めるあたたかき深紅(あか)   江原由美子
秋晴れを鈍き脳(なずき)と散歩する万歩計の空しき数字        小澤嘉子
セトモノの熱きを出して手料理もる四十度こす夏の夕色         大場ヤス子
【5月集】
我が町に介護施設の増えゆきしが恙無く仰ぐ冬のオリオン         佐藤香林
道端の野地蔵に祈り背(せな)を押され足取りも軽く山道を歩む      坪井 功
【作品Ⅱ】
遊びに来し母は過去へと歩むらし田植ゑの話またも始むる         秋山充利 
歩道に伸びし刺持つ柚は吾が腕に絡みて黄金を見せしむ          井口邦子
合唱の声は体育館に響きおり中学生の瞳きらめく             石田春子 
あさ稽古おわりて帰れば食卓の吾が座の前は陰膳のごと          櫛毛宣幸
今日の雲油彩のような深き白巨大な画布の青際立たせ          久保田三重子
車椅子の母と出ていく診察室 医師を辞める理由を問えずに       清水静子
【会友】
音たてる草刈機にも猪は近付き群れる山里の畑             井出尭之
霜月を一人炬燵に口遊む演歌は『舟歌』昭和の我は           川西富佐子
寒き日のスーパームーンの明るさは東の空より我が家を照らす      髙橋眞砂江
北風に街路樹の舞い散る今朝は暦どおりの小雪             中山幸枝
御子様と呼ばるる蚕の吐く糸にわたしら餓鬼は生かされてきし      牧野八重子
【題詠】 [コーヒー] 
あの世でもあなたは聞かせてをりますか機嫌のよい日のコーヒールンバ  板垣志津子 
招かれて応接間のテーブルにてコーヒー飲みにき匙にすくいて      大場ヤス子 
コーヒーにミルク一滴広がりてアンドロメダ青雲のごとく        久保田三重子 
ファッションはゴールドと茶と決めていし亡友(とも)に着せたいコーヒー茶の衣(きぬ)  佐藤真理子
まひるまの珈琲今日は苦すぎてミルクに暗色うすめてみたり       茂木惠二


2019年3月号 NO.254
MICROSCOPIC&MACROSCOPIC 発展の可能性   堀江良子
〈15首詠〉 元井弘幸・矢島由美子
山下和夫の歌 『埴』1980年1月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・関根さつき・宮澤 燁 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 菊地 葩・相良 峻・茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 小澤嘉子・菊池悦子・﨑田ユミ ほか
山下和夫の歌57 小原起久子
ONE MORE ROOM 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより17[対象の人間化・擬人化]
短歌の作り方覚書「喩」のいろいろ(2) 堀江良子
〈3月集〉大場ヤス子・藤巻みや子
〈作品Ⅱ〉秋山充利・石田春子・井口邦子 ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・髙橋眞砂江 ほか
一首鑑賞 清水静子・田中理泉
〈特集〉 数詞のある歌について 数詞の役割     江原幸子  
                数詞の効用     西村英子  
〈題詠〉鞄一首鑑賞 板垣志津子・みたけもも
玉葉和歌集(抄)3 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(27) 山下和夫著
ESSAY 「ばうんど」とは 板垣志津子      
     思いを言葉に  菊池悦子     
     日記の思い出  江原由美子
ブログより 「こころに効く短歌」その9 小原起久子
ばうんど
11月号作品評 
作品Ⅰ評  宮澤 燁 15首詠・月集評  明石美穂 
作品Ⅱ・題詠評 石川ひろ
山下和夫の聾
編集後記表
紙絵 若山節子

 

会員作品

【15首詠】

濃い青に赤い点々数多飛び秋晴れの日の玉入れは哀しい    元井弘幸

二度と同じ形に戻らぬ雲に似てやり直せない籠の中のインコ  矢島由美子

【山下和夫の歌】 1980年埴1月号より

届かざる一夏の念(おも)い中空(なかぞら)に凌霄花(のうぜんかずら)散りはてにけり 山下和夫

【作品Ⅰ㋑】

去年(こぞ)に変わらず左右(さう)逆転を写しいる元朝の鏡にずいっと眉を 小原起久子

母子像の靜もりてあり あんなふうに胸乳に子を抱く杳かな昭和       関根さつき

大雪(ゆき)のバンゲアにいるごとく柳が白く息をしながら立っている    宮澤 燁

足場くむ音に耳栓さしこみて締切まえの机上を乱す             若山節子

入院の夫を乗せたる車椅子 エピローグの幕は上がれり           森 たま江

一筋の飛行機雲よ哀しむな君らもぼくも同じ分子だ             宮崎 弘

来年があると信じてわが服にしがみついてる草の実あまた          牧口靜江 

冬空の群青(あお)を切り裂く繊月(せんげつ)の疵よりワラワラ宇宙こぼれる 堀江良子  

笹の葉の裏ながめつつ秋風になだめる骨折せし脚急(せ)くな        佐藤和子

わが庭の銀杏の黄葉の散る瞬は夕陽に照りて影となりたり          江原幸子

床の間の百花瓶図に描かれし白き桔梗は香放ちいる             石川ひろ

作品Ⅰ㋺

橋脚をなぶるごとくの打つ波は聴けわたつみの遠きレクイエム      菊池 葩

鳩居堂に選びに選びし封筒と便箋封せるままにシュレッド        相良 峻

七、八、九秒針パッパッ移りゆき吾が残り世が削られている       茂木タケ

一人ゐて黙って幾日風見るか飲み残された炭酸透明           石井恵美子

退院の目処の立たない君のもとへ長袖パジャマと木犀の香と       赤石美穂

蝙蝠の飛び交う夕ぐれ残照は一人の老の爪先てらす           西村英子

作品Ⅰ㋩

廃線のアンケート乗せ軽やかに黄の車両は西日を走る          小澤嘉子

告別式に亡父(ちち)の頑固の裏の顔涙とまらぬ姉妹語れり       菊池悦子

青き実の小みかん朝日に実をさらす さらせずにいる小さなプライド   﨑田ユミ

しじみ蝶かそけき影をたづさへて秋の日射しを追いかくるかに      佐藤香林

念願のアサギマダラが我が家に来一人と一頭の一期一会         佐藤真理子

古城より笛の音流るる搦手の豌豆のつる天を泳げる           反町光子

神社に参拝してから舞ひ始むる式三番(しきさんば)に閃光の飛ぶ    坪井 功

ボールペンのインクはくっきり流れ良し夏の訪れはわが手元より     萩原教子

夜の明し厨に入れば木犀の香りあふれて鎮まらぬ朝           みたけもも

秋桜の群生の中一本の秋桜となりわれも吹かれる            三越誦子

リフォームを繰り返しゆきいつの間に畳の部屋は二つに減りぬ      天田勝元

標語大賞を告げる電話に深ぶかと頭を下げた初秋の朝          板垣志津子

カーテンを開けてくれたる介護士の明るい笑顔と差し込む朝陽      伊藤由美子

国道沿いの犬ふぐりの四時空色の朝霧まとう化粧の時間         今井五郎

秋風が絵筆となりて山染めるハラリ病葉足下に落つ           江原由美子

3月集

今治のタオルをおろしわれに言う仕舞っておかずに今朝から使おう    大場ヤス子

子に食わすサフランご飯炊かんかな篝火色の雌しべ摘む秋        藤巻みや子

作品Ⅱ

枯枝を分けて覗けば土鳩の雛巣にうずくまり微動だにせず        秋山充利 

彼岸花の赤一面の雨の中夫と歩めり心静かに              石田春子 

畑隅のコキアの点々紅色に転がりそうに秋風に揺れ           井口邦子

ゆくりなく強き香りに逢いし道木香薔薇に触れる夕暮          大川紀美枝

黄金の稲穂の海をコンバインぶれずに進み波を鎮める          久保田三重子

まだ咲くの厚着始めた秋の朝震えて見える花びら凍え          櫛毛宣幸

子どもらの神輿かつげる「ワッショイ」の声は男波となりて近づく    小曾根昌子

『滑走路』へ降り立つ君の歌はなく胸につかえる空の青さは       清水静子

小玉スイカの干したる種の温しこと引き出しに仕舞う夏の匂いも     田中理泉

上掛けの中に漂うわが体臭味方と嗅ぎつつ眠りゆきたり         茂木惠二

会友

流木の直撃受けた家の泥 一輪車押し出すボランティア         井出尭之

忙しく夏を過ごした自販機も売る物変えて彼岸花咲く          川西富佐子

台風の近づく頃は我が家族は皆低気圧になり時々いさかう        髙橋眞砂江

曼殊沙華天に向かって赤く咲く彼岸を告げるがごとく咲き継ぐ      中山幸枝

冬の陽は早々落ちて三日月を親しき友と眺めてみたき          肥田芳枝

お月さま あなたのところへお客様千億円で行きますからね       牧野八重子

題詠 [鞄] 

買ひ呉し皮の鞄のにほひ嗅ぐ高校生になるプライドありき        石井恵美子

欲しかった皮のカバンは寄る年に重たくなりてやはり布製        板垣志津子

満鉄の次兄より届く本革の赤いランドセル 國民学校          大場ヤス子

終戦の翌年男(お)の子の肩掛けのカバンは戦地に汚れたお古      佐藤和子

幼子が大きカバンを背負って行く暫時瞑想し持ってやりけり       坪井 功

うっすらと霜を被りしカラスウリ捨て置かれたるカバンを飾る      牧口靜江


HANI2019年1月号 NO253
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「秋分の日」 森 たま江
15首詠     堀江良子・宮崎 弘
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1980年1月号より
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載56  小原起久子
11月集     天田勝元・茂木惠二
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 16 [作品の手渡し方・受け取り方] 山下和夫
1月集
短歌の作り方覚書 「喩」のいろいろ(1) 堀江良子
作品Ⅱ      下記により抄出
題詠「靴」   下記により抄出
特集 ユーモアの歌について
「人間の習性の可笑しみを」 堀江良子
「笑いの感情」       赤石美穂
一首鑑賞  今井五郎・板垣志津子
『命を主体に』他誌への掲載より 石川ひろ・遠藤良子・若山節子
玉葉和歌集(抄)2     時緒翔子
『炎の女たち』古代編(26) 山下和夫 
ESSAY 小浜を訪ねて 小澤嘉子    
    歌との出会い 天田勝元
ばうんど 
2018年9月号作品評
  作品Ⅰ評             矢島由美子
  15首詠・月集評         相良 峻
  作品Ⅱ・題詠評          江原幸子
  作品Ⅱ・題詠評          佐藤和子
ブログより「こころに効く短歌」その8 小原起久子
編集後記
表紙絵担当  若山節子

会員作品 1月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠 昨日には戻れぬ時の連なりて父母亡き家に実る数珠玉           堀江良子
     今年まだ死なない予感に振り込めり短歌結社の年間会費          宮崎 弘
山下和夫の歌 なよ竹のみどりやさしも雪の背蒼き光の手にとどくほど        山下和夫
作品Ⅰ㋑より
武者人形になった小菊のこがね色働き蜂をあまた集める          小原起久子
掛け軸の「滝」より聴こゆる水の声落下するのは心地よきもの        宮澤 燁
素朴なる装身具よりおおらかな風の立ちくる縄文遺跡           若山節子
自然死とおもえば清(すが)しベランダにころがりいてし蝉のむくろは   森 たま江
しみじみと孤独の自由を味わいてわれの人生少しだけ狂う         牧口靜江
この頃は忘れること増えてきぬ かすみ草の白きがさわさわゆれる     江原幸子
杳き世の我に会わんと来し古墳 石積む我の顕ちて消えたり        石川ひろ
作品Ⅰ㋺より
誰ひとり故人の話をせぬ法事に菊の香が漂ってくる            元井弘幸
のこりたる記憶はすべて蒼い海砂の城山崩れやぶれり           菊池 葩
うつむけるおみなのうなじのうすあおく匂いたちつつ秋に入りゆく     相良 峻
ドラ声で息吹き返 し黒猫がベランダ通る生きていたぜと         石井恵美子
外国(とつくに)を関口知宏(ともひろ)鉄路に廻りゆく戦争の爪痕あらぬ国無し 茂木タケ
昔むかし餅つく兎(ラパン)がパンパンと月を逃げ出し影のみ残こす    赤石美穂
沈みいる心にひとつひまわりを咲かせつつ観る「万引家族」        西村英子
作品Ⅰ㋩
慈雨たっぷり吸いあげひまわり茎太り傘のひろがる咲くならん 花     大場ヤス子
夏空を突く穂高嶺現れり揺れにまどろむ時を蹴散らし           小澤嘉子
断ち切れば可燃ゴミたった一袋還暦までのわが仕事・恋          菊池悦子
千鳥草に長き時間を窓辺より見守られている気がして愛し         小菅喜代子
初ものの栗の皮むく昼下がり 夕餉の飯(いひ)に秋満たすべく      佐藤香林
やわらかき足裏にあてるフェルトの靴底はまだ少し大きい         佐藤真理子
キーパーの指先掠めてサッカーのボールはゴールの網這い上がる      反町光子
野末の新井堀の内館跡(やかたあと)は埋蔵銭で焔燃えたぎる       坪井 功
邪魔立てをする者いない昼下がりBSシネマに会う美少年          萩原教子
振り向ける人のうなじに朝かげの白かりしこと夢のごとしも        藤巻みや子
南禅寺門前に座せば冷えびえと境内より善男善女出でくる         みたけもも
日のほてりいまだ残れる路地の奥遠く花火のかすかに聞こゆ        三浦誧子
風絶えてテラスを透かす月光は汗ばむ指(おゆび)にほのか残れり     木村惠二
二階への階段昇れば一段ずつ気温上がりて夏は闌(たけ)ゆく       天田勝元 
うす紅のざくろのとなりに山吹は三たび狂ひて鮮やかになり        板垣志津子
カーテンの向こうはほのぼの白くなり友の訪ねくる日の明けそめにけり   伊藤由美子
まっぷたつに夕空分けゆく一本の飛行機雲のつくり出す秋         今井五郎
〈大観〉の輝く画道にかくされた暗き時代の素地色深し          江原由美子
1月集
どす黒き左足指見ぬままに医師は画像へ骨折という            佐藤和子
うす紅の桜降る中地に低く首なき石仏に手を合わせたり          﨑田ユミ 
作品Ⅱ
草叢に首の折れたる扇風機今夕かぜを我と浴びている           秋山充利
凌霄花のランタンゆらす木の間風炎暑の部屋に茜色届ける         石田春子
夏雲を映して白きむくげの花は明日を夢見ず今日を咲くべし        井口邦子
「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」平成の終わりの結愛(ゆあ)ちゃん5才の遺文 大川紀美枝
エアコンの効きたる部屋は好まずに風呂場のタイルに猫は「大」の字    川西冨佐子
とんぼ・蝶の姿も見ずに過ぎし処暑蝉のふた啼く一瞬の夏         小曾根昌子
石碑の道のしずくは万葉の石川郎女 君想う歌              櫛毛宣幸
庁舎から見渡す街はモノトーン中に紛れて色を放とう           久保田三重子
いつの間にか冷蔵庫から水漏れて「健康寿命」がちらりとよぎる      清水静子
生きおれば百歳なるや父の声 戦はならずと夢に出でくる         田中理泉
真夏日も猛暑日も越えた日をなに日(び)と呼ぶか どうでもよいか    牧野八重子
好きでしたワカメと豆腐煮干し出し味噌を加えて妻の茶碗で        井出尭之
冬枯れの庭に咲いたる一輪の水仙の黄天を向きいる            高橋眞佐江
長岡の花火大会にはなやげるテレビの前に猛暑を忘れる          中山幸枝
題詠「靴」
終活とはさみしき言葉 無器用に生きし男の靴捨てられず         牧口靜江
似たひとを見かけて走ったパンプスの跡が残れる外反母趾に        菊池悦子
今までもこれからも履く機会なき繻子のハイヒールは戸棚の奥に      堀江良子
平らなる靴底ばかりひしめけりプラットホームのサマーサンデー      相良 峻
長靴が無くて学校を休んだ日たしかにあれは大雪の朝           板垣志津子
暮れなずむ地表を歩めば果てし無く一粒の砂靴より零る          みたけもも
わら沓をはきて登校六歳の足に重たく雪の道に転ぶ            大場ヤス子
夕焼けに向かって放った運動靴 はるか彼方の「あーした天気になーれ」  石川ひろ
むくみに合わせ買い換えし白靴は真白きままに もう七回忌        佐藤真理子


HANI2018年11月号 NO252目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「思う」 宮崎 弘
15首詠     石川ひろ・江原幸子
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1979年11月号より
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載55  小原起久子
11月集     天田勝元・茂木惠二
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 15 [虚実皮膜の間に] 山下和夫
作品Ⅱ     下記により抄出
題詠「ハンカチ」下記により抄出
特集 宇宙・空について『山下和夫の「空」』 森 たま江 「宇宙へのまなざし」 藤巻みや子
一首鑑賞   板垣志津子・茂木惠二
ことばのページ 「旧仮名と新仮名」 堀江良子
ESSAY 「ばうんど」とは  大場ヤス子
玉葉和歌集(抄)1     時緒翔子
『炎の女たち』古代編(25)     山下和夫著
ばうんど
2018年7月号作品評作品Ⅰ評     元井弘幸
15首詠・月集評           赤石美穂
作品Ⅱ・題詠評           若山節子
ブログより「こころに効く短歌」 山下和夫歌集『谷恋い』より7 小原起久子
編集後記
表紙絵担当  若山節子

会員作品 11月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠
カレンダーの真白な一日放たれて我が内の青空(そら)追いかけてゆく   石川ひろ
わが庭の日当たりの良き石の上にどこかの猫がのったりと居る       江原幸子
山下和夫の歌
夜の水をさしのぞきいる背面に鋭鎌の月の刃のせまりくる         山下和夫
作品Ⅰ㋑より
茜色に吸われるひとつ時の鐘 一番星にとどき灯るも           小原起久子
億年をかけてわたしに会いに来た石垣の間ゆ芽生えたる羊歯         宮澤 燁
背を丸め赤城おろしに負けぬよう息をはずませ踏みこむペダル       若山節子
薄き雲に覆われたる脳(なづき)かな友のひとみに友なるわれ失(な)く   森 たま江
追憶のひと日に鍵をかけしまま死なんと思う 茶柱の立つ         牧口靜江
同行の仲間にはぐれゼブラゾーンにザラついている夕闇を踏む        堀江良子
真白なあじさいの鉢抱く胸がさつきの空を飛び跳ねている         佐藤和子
葉桜に紅白映えるハナミズキ暫しの平和を想わせる時           宮崎 弘  
作品Ⅰ㋺より
死を思い現に戻りし数秒にフレンチトースト焼きあがりおり        元井弘幸
水無月に黄金色した土用芽が樫の高処に見ゆ 梅雨あがる         菊池 葩
早瀬あり遅瀬もありてひたすらに渓流涼しく流れいるなり         相良 峻
身に生れし帯状疱疹とう魔物卆寿なる生に抗いおるか           茂木タケ
物産展に糠漬けの沢庵みあたらず試着室がさそう値引のジャケット     赤石美穂
たばねたる一束の藁にはずむ雨リズム確かに歌かもしだす         西村英子
作品Ⅰ㋩
飛騨みやげは二本の赤き和らふそく長き炎は黄泉へのしるべ        板垣志津子
「真面目君」と陰で呼んでる介護士のホラホラ来ました服薬時間      伊藤由美子
晴れ渡る富良野の空の紺青を盗みて丘のラベンダーは咲く         今井五郎
最南の波照間島の公園に立つ碑の日の丸海見つめおり           江原由美子
啄木の「初恋」歌うテノールは吾が恋知るやリフレイン響く        小澤嘉子
花言葉「パピネス」ジニアの種を蒔く図鑑片手にプランターの中      菊池悦子
幽かなる亡姉の声する初彼岸目覚めて遠きせせらぎを聴く         﨑田ユミ
赤ワイン夕餉に飲みていかほどの寿命伸ぶるや 白桔梗開く        佐藤香林
マンドリンの細きトレモロ流れきて雪明りの道口ずさみゆく        佐藤真理子 
連翹の咲く大手門を抜けゆけり消防自動車ゆっくり無音に         反町光子
恒例の老人ホームの家族会言の葉はずむ温き風流る            坪井 功
タラップの花の香鼻腔に残しおき新婚の旅遠くなりたり          萩原教子
一年生両手広げて縋りつく「せんせ、いいにおい」われも若かりし     藤巻みや子
雨の中爆ぜながら歩いてゆこう 神の不在の暗闇の地球(てら)を     みたけもも
11月集
初めての日本一周電車旅 車内案内日英中韓               天田勝元 
付きまとうもめごとひとつを方程式の解法にあてはめている        茂木惠二
作品Ⅱ
潤いの消えたる頬にクリームを鏡の中に塗りたくりいる          秋山充利
梅雨入り前の朝陽射し込む恩恵にシャワーの虹を顕たせておりぬ      石田春子
春めぐり椎の花咲く遠州路行き交う人は皆笑み栄ゆ            井口邦子
我が庭の特等席の赤松を伐るときめたる夫の眼差             大川紀美枝
一面のひまわり畑三万本分け入れば吾は新種のヒマワリ          久保田三重子
一樹のごと並べるつばき赤白のひかり反して朝のひざしに         小曾根昌子
ふまれてもふまれてもなお根を張りて黄金の初夏の風を夢みる       櫛毛宣幸
雨の中友の拾ひし捨て猫のじっと吾を見る一匹を選べり          清水静子
陸橋を上り下りする少年に五月幟は空におよげり             田中理泉
しげこから梅香院と変わりては手向けし時に声を出すのみ         井出尭之
手のひらは我顔記憶すこの朝に齢(よわい)を一つ重ねたりしも      川西冨佐子
垣根より紅バラ一輪はみ出して冬陽を浴びおり家主の如く         高橋眞佐江
競い合うカラオケの音春祭りにぎわい絶えぬテント広場に         肥田芳枝
亡き母の植えし鉄線の大輪にありし日の笑顔の顕ちてくるなり       中山幸枝
母の日に子等の馳走をあずかるも四十年の親業いかにか          牧野八重子
題詠「ハンカチ」
転校の友が改札通るとき涙を拭きしスフのハンカチ            板垣志津子
ひとり乗り往きて還らぬ特攻兵白いハンカチ巻きて律律しく        大場ヤス子
輪になってハンカチ落とす遊びなどふと想ひ出す汗ぬぐひつつ       佐藤香林
ハンカチの木の苞ひとひら拾い上ぐ茶に残されし登山靴の跡        小澤嘉子
会見のアメフト選手矢面に潤む眼を拭きてやりたし            﨑田ユミ

HANI2018年9月号 NO251目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「ボケ防止と自己学習」 元井弘幸
15首詠  赤石美穂・西村英子  下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1979年第16号
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載54  小原起久子
9月集     矢島由美子・﨑田ユミ
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 14[「や」「か」 山下和夫
作品Ⅱ     下記により抄出
特集 転体について
「転体の魅力」    小原起久子
「劇的な変化」    佐藤真理子
一首鑑賞   今井五郎・反町光子
題詠「電話」
ブログより「こころに効く短歌」    山下和夫歌集『谷恋い』よりⅥ 小原起久子
御裳濯河歌合(21)         時緒翔子
『炎の女たち』古代編(24)     山下和夫著
ESSAY 「私のうたはじめ」 板垣志津子
「短歌だからこそ」 小澤嘉子
春季歌会報告     今井五郎  
ばうんど   
2018年5月号作品評作品Ⅰ   宮澤 燁
15首詠・月集評        相良 峻
作品Ⅱ・題詠評         藤巻みや子
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当  若山節子
会員作品 9月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠
蝉丸をめくりて嫌がる笑い声おさなが炬燵に百人と遊ぶ        赤石美穂
種を播く除草剤蒔く水を撒く春耕とり巻くみどりの日射し       西村英子
山下和夫の歌
天空へ翔ばんとする日鮟鱇の青き眼は喪われたり           山下和夫
作品Ⅰ㋑より
春浅くオレオレ詐欺の受け子には墓地の近くと住まいを告げる     小原起久子
言霊のさきわう国なり あることはないことにないことはあることに   宮澤 燁
わが余生いかほどあるや天秤に母の齢を分銅として          若山節子
列島に桜花あふれて喜寿となる この世に余る生なるさびしさ      森 たま江
沐浴は小皿の雨水小雀の羽たたくたびに光は生まれる         宮崎 弘  
スケジュールつまれる先へわが寿命少し伸びたり 服買いにゆく    牧口靜江
明日伝えるための君のいなかった夏の日がバッグの中で発酵始む     堀江良子
ぼんぼりの花びらまわる橙の陰に見えたり廃炉いまだの原発       佐藤和子
片耳に金のピアスを光らせた若きがユンボに土掘り起こす        江原幸子
雪に遊ぶ男(お)の子の赤き頬っぺたに雪の花びら舞い散りやまぬ    石川ひろ
作品Ⅰ㋺より
深酒に目覚め夜明けの厨に立ちてバナナほおばるわれはナニモノ    元井弘幸
ひるがえるツバメの軌跡目で追えば不透明なる非核化外交       菊池 葩
真綿もて締めらるる身よ鳴動しやがて荒らぐ砂塵となりなん      相良 峻
掘り進む工事現場の粉砕を鎮める東京地下のみずおと         池内紫萃 
死に瀕する白鳥(はくちょう)となるバレリーナ指(おゆび)に命かそか点(とも)して 茂木タケ
隣室の人の持ちくれし野の花のやさしく揺れる夫の命日        伊藤由美子
作品Ⅰ㋩
気が乗らぬままに過ぎゆく初夏の午後つるインゲンは上昇志向     江原由美子
熱を顔に受けつつ覗く魚焼きグリル朝の厨の我は職人         大塚美奈
巻き角の羊の臀部大樹茂り猿二匹遊ぶ羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちびょうぶ)   大場ヤス子
あらがわず我に抜かれしホトケノザ細き根ふふんと干からびてゆく   小澤嘉子
緑濃き剣葉に白き袴着け車道の端に咲けり水仙            菊池悦子
全霊を傾け咲きし桜花 幕引くように花びら散らす          佐藤香林
ゆきちがう男の子の大きな「こんにちは」ひと日の耳朶の温もりている 佐藤真理子
触れたきことなき扉ありひとつ開け自由の女神の足下(あしもと)に立つ 反町光子
つぎつぎと挨拶交わし頂に到達すれば身内震える           坪井 功
丹念に畳まれた薔薇の包み紙亡き母の昭和が引き出しにある      萩原教子
渓を隔て触れざればなお色に酔う岩肌に群れるあかやしおの花     藤巻みや子
春雨の音を聞きつつ初恋の痛みを思う シュールなる午後       みたけもも
蕗味噌を作る手順は母ゆずり春一番の吹きすさぶ夕          三浦誧子
春光(はるかげ)に追い越されていま産土(うぶすな)の街にミルクコ―ヒー飲みいる 茂木惠二
六年の修学旅行米一合持ちて三崎の宿に泊まりぬ           天田勝元
就活は終はりましたと瑞みづしきコルテラインを見せてお出掛け    板垣志津子
アジを干す港に戻る釣り舟の釣れないわれをゆらす夕波        今井五郎
9月集
脳内に隠したる電池の切れた為降り来る雨に身動きできぬ       矢島由美子
君在らば年男なる八十四歳下弦の月も今宵は身近           﨑田ユミ
作品Ⅱ
母の命日に供えたる菊 春光の下お墓の瓶に枯れはてている      秋山充利
花粉飛ぶ桜並木に逢う友のマスクの顔が季節を語る          石田春子
音もなく散りゆく桜重なりて湖面に浮きて私を誘う          井口邦子
鬼灯を包める宿存萼(がく)は網籠に赤き実宿すランプシェイドに   大川紀美枝
実を裂きて植えて間近に芽を出せば二月余りでジャガ芋の花      櫛毛宣幸
凍空に少女のような赤い月雲のすき間へかくれんぼする        川西冨佐子
卯の花の仄白き夜はシャガールの仔馬に乗って青き月抱く       久保田三重子
満開の桜に会いにゆく旅は精一杯咲くけなげを知る旅         清水静子
赤城嶺の東風吹く坂の板塀に九条守ろうのビラ揺れおり        田中理泉
初孫にチョッキとセーター編んだのです義母(はは)は節くれ立つあの指に 牧野八重子
住職の流れるような読経に威厳の所作を興す脇僧           井出尭之
白内障の執刀医の「始めさせていただきます」の声 我は内心ビクビクしている 高橋眞佐江
堤防を背に輝ける花筏水面にうつし紅色に染め            肥田芳枝
毛筆で祝白寿と伯母に書く伯母に続けと願いつつ書く         中山幸枝
題詠「電話」
金メダルの一役担う呼びかけにボックスに入れる携帯電話       若山節子
今われにAI スマホは縁なくて彼の世に通じる携帯持ちて       牧口靜江
お見合いの話に入ると「勤務中」またも切られた息子への電話     今井五郎
「送ったよ」母の電話に一日待ちしふるさとの栗弾けて届く      田中理泉
電話伝う声を息子と聞きしかば待ちて帰らず詐欺電話らし       大場ヤス子
門柱に電話番号プレートを付けた邸宅に級友住みおりし        板垣志津子

HANI2018年7月号 NO250目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「言葉の力」 若山節子
15首詠  菊池 葩・池内紫萃  下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1979年1月号
作品Ⅰ    下記により抄出 山下和夫の歌連載53  小原起久子
7月集     宮崎 弘・反町光子
作品Ⅱ     下記により抄出
一首鑑賞    江原由美子・西村英子
特集 都市の歌
「多彩な素材」     赤石美穂
「素材への視座」    石川ひろ
ことばのページ 「間違えやすい送り仮名」 堀江良子
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 13「言葉の反復対応のおもしろさ」 山下和夫
ESSAY 
「あなたにとって短歌とは?」 矢島由美子
「必然的出会い」       﨑田ユミ  
題詠「橋」   板垣志津子・石井恵美子・江原幸子・矢島由美子・大場ヤス子
ブログより「こころに効く短歌」その5    山下和夫歌集『谷恋い』よりⅤ 小原起久子
御裳濯河歌合(20)         時緒翔子
『炎の女たち』古代編(23)     山下和夫著
ESSAY  「うたと私」 秋山充利  
「螺旋階段」 田中利泉 ばうんど   池内紫萃・元井弘幸・小澤嘉子 共選
2018年3月号作品評作品Ⅰ評    堀江良子
15首詠・月集評          小原起久子
作品Ⅱ・題詠評            佐藤香林
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当  若山節子
会員作品 7月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠
ひしひしと疎林の枯葉ふみしだく音まっすぐに加速してくる  菊池 葩
冬空に花粉ひそかに来たるらし見えない春に手を泳がせる   池内紫萃
山下和夫の歌
廻り来るブーメランが描く軌跡なめらかならぬ幾所見き    山下和夫
作品Ⅰ㋑より
袋の中に年越え眠る花の種 月冴え冴えとあなたは居ない   小原起久子
右折キンコン♪前進ガタビコ🎶後進ピーピーΩ車体は吾だ    宮澤 燁
見え透いた嘘と知りつつ頷くものどぐろを焼く君の夕餉に    若山節子
鈍色の春はのぞけり猫柳の花穂やわらかに危うき世にも     森 たま江
つゆ晴れを多(さわ)に開きて紅薔薇の光を返すまばゆき声す  堀江良子
妹の心療受診終えてのち枯蓮見つめ明日へつなげる       佐藤和子
公園の桜切られて薄紅の春の陽ざしは隅までとどく       江原幸子
がんばれは安易な言葉 何もせず座りいる背中が頑張っている  牧口靜江
それぞれの保身抱えて漂える一艘の小舟 日本丸何処へ     石川ひろ
作品Ⅰ㋺より
ぐんぐんと綱引く犬の背筋を妬みて歩を止め空を見るふりする 元井弘幸
日曜の大手町のまひるまを寄り添いくつろぐデスクとチェアー 相良 峻
東京を追はれたるやうな心地して春まだ浅き前橋上小出(かみこいで)石井恵美子
老いて身は子に従わんと腹を決め息の焼きくるる肉噛み砕く   茂木タケ
ま昼間の銀河を俯瞰するようにネモフィラの丘をまなこが歩む  赤石美穂
ヒイラギの刺になりたる胸のうち温き焼きいも夫とわけ合う   西村英子
作品Ⅰ㋩より
開発の決まりし畑に草茂る精農多きわが故郷も         天田勝元
やまなみはしろがねに光り青空に黄色輝ける福寿草在り     板垣志津子
「愛」という調味料たっぷり入れて作りくれし味噌汁の味今も忘れじ 伊藤由美子
夕ぐれて庭に伸びたるわれの影まっすぐなれどストレスの有り  今井五郎
縁側で針仕事する祖母がいた 針箱は今手箱となりぬ      江原由美子
如月の空へと向かう新品の凧まだ淡き影を率いて        大塚美奈
那古寺の千手観音の傍に来て仏の眼に心託する         大場ヤス子
故郷の友の油絵の賀状の川の辺を五十年ぶりに友と並びみる   岡本達子
プチプチと潰してみたい ビル街を整然と行くビニール傘の弧  小澤嘉子
鬼やらい母準えてわが昭和 いわしの頭を柊に挿す       菊池悦子
春の小川水鳥の姿すでになく枯葦ゆらし鳥鳴くばかり      小林モト子
「判ったら握り返して」と握りたる姉の手にある金輪際の力   﨑田ユミ
初蝶の野に隠れつつ低く飛び畏れるごとく飛翔たしかむ     佐藤香林
オリオンの星の間よりシルエットとなりたる柚子をもぎとる   佐藤真理子
結愛ちゃんは度度泣きじゃくり蹲りし温き浄土で燥いでいるや  坪井 功
食卓にむき出しの札残しおき夫は出掛けるわが誕生日      萩原教子
片空を緋に染めゆくを恋と謂はむ直進し散乱するものをこそ   藤巻みや子
紫陽花の影くっきりと刻む壁 ドアに閉ざせばすべてうたかた  みたけもも
柱時計乱るるもなく今日もまた待合室の患者みており      茂木惠二
7月集より
ドラ焼きのマロンと小倉を決めかねて老いの時間を掠めとられる 宮崎 弘
まな板に包丁の音いっせいに響かう豚汁二百五十人分      反町光子
作品Ⅱより
鵯一羽ひと声啼いて飛びゆけば木守り柿に群雀くる       秋山充利 
除夜の鐘強力非力打つ音は闇を震わせ天空に行く        石田春子
立春に大寒波の来る予報寒波よ去れと福豆を撒く        井口邦子
水車場で母の言いつけ幾たびか触れてみたくて歯車による    櫛毛宣幸
母逝きて十日後の地震(ない)停電の闇に母顕ち七年が過ぐ   小曾根昌子
シルル紀のウミユリ化石に見入る日は空を見上げる深魚とありぬ 清水静子
遠き日に訪いし啄木の墓ちかく立待岬に咲きしハマナス     田中理泉
コスモロック春夏秋冬いつ来てもみなとみらいに花火があがる  井出尭之
一年の計も立たずに小正月静けさのなか眉を引くなり      川西冨佐子
肺に入る冷気を温めるような色 大空に灯るロウバイの黄    久保田三重子
梅雨の日に八重のアジサイしんなりと雨に打たれて花音垂れる  髙橋眞佐江
陽は落ちて屋上に映ゆ三日月を親しき友と眺めて見たき     肥田芳枝
水仙は睦月なかばに芽を出しぬ春の仕度は吾を追い抜き     牧野八重子
題詠「橋」より
ちち・ははに・きみに逢いたしいつの日か三途の川に橋がかかれば 板垣志津子
叱られて橋の下から拾ひし子と言はれた記憶の橋は茫茫      石井恵美子
わが町の小川にかかる木の橋は朽ちかけていて色よく馴染む    江原幸子
昨日とは違う自分と出会う為今日も新たな橋渡り行く       矢島由美子
虹の橋渡って逝った特攻兵みな振り向かず還ってこない      大場ヤス子

 

HANI2018年5月号 NO249目次

MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「短歌と辞書」 森 たま江

15首詠  若山節子・佐藤香林  下記により抄出    

山下和夫の歌 下記により抄出  埴1978年第10号

作品Ⅰ    下記により抄出

山下和夫の歌連載52 歌集『耳』 小原起久子

5月集     佐藤和子・大場ヤス子

作品Ⅱ     下記により抄出一首鑑賞 天田勝元・宮澤 燁

特集 結句について 「結句の効用」 池内紫萃 「結句の深さ、楽しさ」  江原幸子

ESSAY 「歌の力」 藤巻みや子

第18回プログレス賞受賞作品 あんたがたどこさ 西村英子 

同作品評 赤石美穂  菊地 葩  小曾根昌子      

「のづかさ」 昨日はむかし 関根さつき

 題詠「髪」   板垣志津子・久保田三重子・相良 峻・大場ヤス子

ブログより「こころに効く短歌」その4    山下和夫歌集『谷恋い』よりⅢ 小原起久子

ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 12「句切れはダイビングボード」  山下和夫

御裳濯河歌合(19)         時緒翔子

『炎の女たち』古代編(22)     山下和夫著

ばうんど   矢島由美子・石井恵美子・今井五郎 共選

サークルにおける勉強風景その6  小原起久子

  2018年1月号作品評 作品Ⅰ評     牧口靜江
  15首詠・月集評            宮崎 弘
  作品Ⅱ・題詠評            小原起久子  
  新刊紹介
  編集後記
  表紙絵担当  若山節子

  会員作品 5月号より 作品中のふりがなは作者による
  15首詠
   あからさまに言えぬ心のわだかまり 糸すじ見えぬ高機を踏む 若山節子
   家猫の驚きやすき耳双つ立ちて木枯し星を磨きをり      佐藤香林
  山下和夫の歌 
   夜叉の目をのぞけば春の紅に肩よせあいて骨ふたりいる    山下和夫
  作品Ⅰより  
   あなたからよく見えるよう少しだけ高いところに来ています   小原起久子
   死の商人死を売る商人あくしゅする共に青無地のネクタイしめて 宮澤 燁
   老木となりし栗の木ひしと立つ娘らの〈生家〉の記憶守りて    森 たま江
   しかすがに枝剪り落された街路樹は北吹く風に揺るぎなく立つ   宮崎 弘
   小康の母の枕辺のソーイング花の香りも共に綴じいる       堀江良子
   やさしげに黄色いバラをさし出して「きれいでしょ、あげる」 棘が痛い  江原幸子
   孤独とは仲間の中で生れるもの集合写真の満面の笑み       牧口靜江沈
   丁花の香が我によびもどす二十歳(はたち)の時見た真青な空   石川ひろ
  〈山茶花〉とうありふれた名前のスナックに老いたママいる 相応しき 元井弘幸
   白菊の香が手にあまり手向けゆく道に手触るるえのころ傾ぐ    菊池 葩
   わが家の屋根に蹴り上げられし男児の靴そのまま置かれ誰も気にせず 遠藤良子
   春の陽を浴びて彼岸の奥津城はパステルカラーに染まりつつあり 相良 峻
   ひとひらの朽ち葉ま直ぐに落ちてゆけり小沼の深き群青の空   石井恵美子
   試乗会に音なく閉まる高級車降りれば車カタログに戻る     池内紫萃
  「母の胸に眠れ」とうたう子守唄まなこ冴えゆくわれとわが身に  茂木タケ
   遠き日のクリスマスツリーを灯しいる媼ひとりの静かなる賑わい 赤石美穂
   矜持とうやっかいなものがふつふつと今宵のねむりの瞼に残る  西村英子
   木枯しの吹き初めし朝のウォーキング歩数計は時を速める    みたけもも
   いつもより少し早めの風呂に入る梅雨の時間の椿耀ふ      天田勝元
   日本に二十三年ペルーには帰りたくないバス停の椅子で     板垣志津子  
   長身の膝折り曲げて目を合わせ利用者の話聞きおる若き管理者  伊藤由美子
   日記書く窓辺に昇るスーパームーンの黄色のため息耳すまし聴く 今井五郎
   夕暮れのグラデーションから取り出した薄紅を頬に昇る階段   大塚美奈
   銀杏の葉庭一面に散り敷けりよそ事ならば愛でてながむに    岡本達子
   言い負けて眠れぬ温き春暁(しゅんぎょう)に神様も時に居眠るを知る 菊池悦子
   カーテンを開ければ直に見られてる秋の満月鏡のごとし     小林モト子
   大木の柿の枝に成る赤き実を孫は見ばえを優先し伐る      斎藤幸子
   機織りの杼をくぐらせるその度に紫のひかり膝にこぼれぬ    佐藤真理子
   うばゆりの実りの数個のみどり色茎高くして君へのシグナル   﨑田ユミ
   沙羅(なつつばき)の枝に干涸(ひか)らぶ鵙(もず)の贄(にえ)まひるの日差しやわらかに差す                                                      反町光子
   訪うたび顔触れが替わるホームにてしばし佇み瞑想したり    坪井 功
   故郷のなだらかな山に向い行く幼なじみの母堂の葬る葬り    萩原教子
  5月集より
   秋陽さす方丈の間に流れくる歌を読む声障子ふるわす      佐藤和子
   曳かれ行く犬の満足戌の年プラス思考を学ばねば 春      大場ヤス子
  作品Ⅱより
   挨拶にどうもどうもと言われてもどうもの記憶の綱をさがせぬ  秋山充利
   イルミネーション見たくて走る国道の下家路を急ぐ一すじの赤  石田春子
   高令の人なき屋並寂しかり 水木の種を拾いて数(かぞ)う   井口邦子
   十二人の孫に囲まれわが母は健脚語り百歳めざす        井出尭之
   固まって路肩に咲いたコスモスとかるくおしゃべり 花友となる 江原由美子
   雨あがりアガパンサスの水滴は紫陽花のうす紅を宿しぬ     大川紀美枝
   生け垣をくぐりし野菊の列ゆれてほがらかに咲く地上五センチ  小澤嘉子
   八束山妻と登りて汗すれば羊太夫の大き足跡石         櫛毛宣幸
   難民の救援依頼にうかびくるわが引揚げの無蓋車の闇      小曾根昌子
   外出用部分ウィッグ付けし日は一つ秘密の増えてゆくらむ    清水静子
   山峡の畑に麦踏む祖父の背に夕日沈みぬ影もろともに      田中理泉
   陽だまりの小さき丘に蝋梅は香り深めつつそっと散りゆく    肥田芳枝
   めくり見る極月の暦シスレーの描く小道に雪降りつもる     藤巻みや子
   似ているね 怒鳴るところも転職も親子二代のO脚歩行     茂木惠二
   旅先の山脈(やまなみ)縁取る落日をいつまた見るやこの家族らと 川西冨佐子
   ひしひしと冷気がわれの輪郭を厳しくなぞる晩秋の朝      久保田三重子
   卯の花の香り漂う校庭にドッジボールの歓声集う        高橋眞砂江
   夕餉どき独り住まいの息子より用事などない切れない電話    牧野八重子 
  第18回プログレス賞(「あんたがたどこさ」30首)より
   わが冬の日日灯すべきシクラメン花屋に選ぶ赤色白色      西村英子
  のづかさ「昨日は昔」30首より
   紫陽花の群落蒼きスロープを風の音階のぼりゆくなり      関根さつき
  題詠「髪」より
   まつ白な髪になるほどDDT吹きかけられし戦後の学校      板垣志津子
   横たわり帽子を被る病む友の視線はわれの染めし黒髪      久保田三重子
   皺深め白髪の母が笑み掛けるベッドにひとりの夜を乗り越えて  相良 峻
   ははそばの母の織りたる絹物のほつれて交じる黒髪あわれ    大場ヤス子

HANI2018年3月号 NO248
目次 MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC 「遠くまで届く声」 相良 峻
30首詠 相良 峻
15首詠  牧口靜江・佐藤真理子 下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1978年第9号
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載51 歌集『耳』 小原起久子
3月集     小池心子・今井五郎
作品Ⅱ     下記により抄出
ことばのページ twice 助動詞「き」森たま江
特集 素材について「素材を活かす難しさ」  元井弘幸
         「素材の使い方」     矢島由美子
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析」より  「瞬間を詠む」     山下和夫
一首鑑賞 大場ヤス子
題詠「糸」  天田勝元・池内紫萃・板垣志津子・大場ヤス子
       菊池悦子・佐藤真理子
サークルにおける勉強風景その6  
小原起久子ブログより「こころに効く短歌」その3 山下和夫歌集『谷恋い』よりⅢ 小原起久子
『炎の女たち』古代編(21)     山下和夫著
御裳濯河歌合(18)        時緒翔子
ESSAY「やり残し」           宮崎 弘
   「好きなことがしたい」      江原由美子
ばうんど   佐藤和子・江原幸子・石川ひろ共選
11月号作品評 作品Ⅰ評             西村英子
       15首詠・月集評         森たま江
       作品Ⅱ・題詠評          反町光子  
秋季研修会報告          宮澤 燁
ESSAY 「新制中学時代」      板垣志津子
編集後記
表紙絵担当  若山節子
会員作品  3月号より
  30首詠
   三度目か 挽歌つぶやく身となりてガラスの館のガラスの存在      相良 峻
   15首詠  「もう一度」を取り戻せずに過ぎてゆく 百日紅は寺に華やぐ  牧口靜江
        スマホいじる若きに挟まれ用のなき既読のメール読み返しいる 佐藤真理子
   山下和夫の歌 なめらかにホースの中を走りくる水の断面刃の光もつ     山下和夫
作品Ⅰより  
花の金曜日からプレミアム・フライデーへああ金星がきれいだ 小原起久子
母逝けり赤子が笑う山が笑う吉野の川のせせらぎわらう    宮澤 燁
群がりて空かきまわす椋鳥は潮(うしお)のごとく塒をめざす 若山節子
傾きしコスモス一花冬晴れに残されており わが歩む道     森 たま江
蚊を打てば真っ赤な飛沫、わが血なり ミサイル飛んだ北空の青 宮崎 弘
初めての発語は「んご」幼子が両の手に持つ真っ赤な林檎     青木晶子
壊されしビルの瓦礫を根の元に空の無限を桜満開         堀江良子
秋雨の朝(あした)を独り歩く道白き芙蓉に英気授かる     佐藤和子
たわわなる金柑の実のそれぞれが陽を黄金に空に返せる      江原幸子
朝鳥が一声一声鳴いている ていねいにマフラーのほつれ繕う   石川ひろ
空海の拓きし池に来てみしが空海はおらず村人も死ぬるか    元井弘幸
ちさき花うたがいもなく遇えた花繁殖の強き帰化植物とは    菊池 葩
露地に遊びいし子らみな育ちたる冬の午後 人恋うように飼犬が鳴く 遠藤良子
はなみずきの色づきまだらベランダに素足のままの足首が冷ゆ   石井恵美子 
艶を捨て塵にまみれてなおも咲く国道沿いの夕化粧        池内紫萃
ムンクは何を叫ばせおるや自主性の無かりし己れを吾(あ)は嗤いおり 茂木タケ
竜馬の渡りし海の見える道赤きスカートの「ポニョ」が駆けゆく 赤石美穂
夜半の震地に蛍光燈の紐揺れる八十路となればやたらに揺れぬ  三越誧子
コロコロと丸くなりゆく団子虫変身願望われにもありき     みたけもも
暑き日のいまだ続けど蝉の声いつしかやみて虫の音となる    天田勝元
縁側は向かう三軒お茶飲む場南天の実に鵯が来てゐる      板垣志津子
一票で体制の変わるとは思わねど投票にも行けぬ入居者の我   伊藤由美子
初霜の知らせに引き出しを開けば零れるマフラーの鴇色と冷気  大塚美奈
赤い赤い(アカイアカイ)夕陽が沈む追いかけて砂を駆けたし房州の海  大場ヤス子
雨水が地に浸み込める場所さがしコンクリートの上走り行く   岡本達子
七十路の従姉は伯母と生き写し 二十歳の雪肌知るは安達太良  菊池悦子
紅葉の林の中のベンチの端に嘴細カラスは彫刻となる      小林モト子
黒蟻が二センチあまりの虫曳きて登る花壇に女王蟻いるや    斎藤幸子
今は亡き娘と行きし香具山神社入り行く杜へ影をともない    﨑田ユミ
民族館に居場所を得たる道具たち 卓袱台のまはりつましき笑ひ 佐藤香林
睡蓮の一輪白し水の面の静まりゆける今を咲きいる       反町光子
雅楽谷(うたや)の森遺跡フェスタはそちこちに縄文人が火おこししている 坪井 功
早朝を境界こえて草を引くいつものならいとためらいもせず   西村英子
窓を開け飛び立ちましょうと誘われ翼を拡げる体操教室     萩原教子
3月集より
木漏れ日を背に受け一人森の中落葉踏み分け音立て歩む     小池心子
公孫樹の黄際立たせいる青空をカーテン開けて洋間に引き込む  今井五郎
作品Ⅱより
駅前でデートの振りして時計見る ほどなく去れり土曜の夕暮  秋山充利
曼殊沙華燃えおり田の畦歩みいる媼に赤き靴をはかせて     石田春子
はじめから爺婆だったと孫は言う若き日を捨て婆ちゃんになる  江原由美子
庭先きに癒す薬効枇杷の木が今年初めて白き花咲く       櫛毛宣幸
吐く息に疲れを散らしつつ分け入りし乗鞍岳の秋の清しさ    小澤嘉子
核兵器禁止条約 国連の議場の席に折鶴あれど        大川紀美枝
南天の絵の上紙の折詰の温かり 友の消息          小曾根昌子
堀わりの水はしぶきと天へ噴き緑芽吹きのまぶしく光る    田中理泉
立ちて見る 萩の丸葉を次々に秋の雨粒滑り落つるを     藤巻みや子
あちこちに諍いの種ありまして夫なるわれは口を閉じゆく   茂木惠二
連休の住宅街に秋陽満ち黄昏近くも灯火(ともしび)ポツリ   井口邦子
公園に続く近道雨上がり駆け来し君はガムを手渡す       井出尭之
身を晒(さら)し黄金の稲を守り抜く案山子ありたりイケメン男子 川西冨佐子
いつの間に侵入したのかコオロギは月夜の寝間を虫籠にする    久保田三重子
榛名山噴火のテフラいただけり 人馬すべて飲みこみし灰     清水静子
冬の朝いそいそ乗り込む中古車のフロントガラスに氷の花模様   高橋眞砂江
野辺に咲くうす紅色の小さき花健気に見えてあたしは嫉妬     牧野八重子
題詠「糸」より
女郎蜘蛛ぐるぐる巻きにしたる蜂を糸にぶら下げ近づきて行く  天田勝元
手首には千切れたままの赤い糸色なき風をふわり泳げり     池内紫萃
衣料切符の時代は糸も点数で木綿縫糸一把一点         板垣志津子
絹糸の粉粉になるを保存せる正倉院展の屏風鮮やぐ       大場ヤス子
双り児が「あのね」と告げきし糸電話縺れ潰れてゴミと呼ばれる 菊地悦子
ほどきたる黒靴下を糸としておむつ縫いしと義母の戦後は    佐藤真理子
HANI 2018年1月号
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC 「言葉の園」 堀江良子
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1978年第8号(冬季号)
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載50 小原起久子
1月集     元井弘幸・大塚美奈
作品Ⅱ    下記により抄出
一首鑑賞 小曾根昌子・小澤嘉子
特集 抽象と具体について
「抽象を述べるための具体」     小原起久子
「現代短歌における〈抽象と具体〉」 森たま江
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析」より  「見えるもの、見えないもの」 山下和夫
のづかさ 「枇杷」 大場ヤス子
ことばのページ twice 助詞の「の」と「が」森たま江
サークルにおける勉強風景その5 小原起久子
ブログより「こころに効く短歌」その2 小原起久子
題詠 穴 御裳濯河歌合(17) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(20) 山下和夫著
ESSAY「言い訳」    今井五郎
「感謝の気持ちを詠む」  坪井 功
ばうんど
5月 号作品評  
作品Ⅰ評     若山節子 15首詠・月集評 江原節子  
作品Ⅱ・題詠評  佐藤和子   編集後記
表紙絵担当    若山節子
会員作品  1月号より
15首詠より  奥の歯の一本抜かれ口中を舌に探れば土葬する穴          石井恵美子
落ち鮎を食べいる簗の川かぜは〈カスリーン台風(カスリーン:ふりがな)〉を知らないダム湖につながる 今井五郎
山下和夫の歌 なみなみと水賜りぬ雪原の雪の中なる井のま闇より          山下和夫
作品Ⅰより  
ひと夏に終える命を採取して留めおく小さき虫ピンの先        小原起久子
青空はすき間だらけだ鳥が飛びミサイルが飛びミカエルが飛ぶ      宮澤 燁
寒空にラッパ水仙はや咲きて庭あかるます春のイントロ        若山節子
一匹の野良猫のためエノコロを揺らして吹く風 平和というは    森 たま江
小走りの鶺鴒停まり尾を振ってそれはきれいなみず色の朝       宮崎 弘
ミーンミーンミーンミーンと蝉声はげしき樹の下に蟻の群がる空蝉ひとつ      青木晶子
新品のランドセル負い走り入る黄色い帽子の子鬼の列に        堀江良子
憎しみを消す合歓の花うす紅の糸のようなる傘をひろげて       佐藤和子
いつまでも夏日の続く秋にして吾が脳細胞は乱れているも        江原幸子
燃え尽きた一葉一葉を落としつつケヤキはすっくと天に還らん      石川ひろ
石楠花の花より丸き風を飲むわたしには無き紅の風          赤石美
穂雨よりも先にテレビの避難指示マスカラ塗りつつ今朝も聞きおり    池内紫萃
後ろ姿見せ帰り行く人は誰声かけそびれたる背に手を振る       遠藤良子
隣国の狂気はいかにあけはじむ 警報アラームAM六時十五分      菊池 葩
初転倒して見上げいる天井の杉板模様のてんでんばらばら       相良 峻
「九十歳何がめでたい」アッハッハッハ 笑い飛ばしたひとり居の夏   茂木タケ
足どりの重い軽いもカウントす万歩計の数のはぐくみ          西村英子
遠き日のほろ苦き恋は星屑に 七夕祭りを素通りしたり        三越誧子
終戦日の鈍色のにわたずみ 足踏み入れて消えざる汚泥        みたけもも
大空を二分して伸びる飛行機雲弥生の風に散らばりてゆく       天田勝元
咲ききった真紅のバラの首パチンと切る どなたか私にそうして下さい 伊藤由美子
百本足の二十五本目の足がもつれて針金の渦に干からびている     岡本達子
沖縄戦特別攻撃隊出撃の戦死者一〇三六名大尉中尉少尉        大場ヤス子
亡き母は涙で見えぬと語りいし初孫の顔わが頬を濡らす        菊池悦子
幼き日友と遊んだビー玉が心の倉庫で飛び跳ねている         小池心子
畦道の草に紛れて人と猫騒音届かぬ丘の早朝            小林モト子
真夏日となる日の朝に水遣ればトマトの上に虹が生まれる       斎藤幸子
カッコウに呼ばれてるがごと振り返り見れば顕ちくるふるさとの景   﨑田ユミ
山の水激(たぎ)つ集落ひとけなく釣船草の今し帆を上ぐ       佐藤香林
焼香の香の残りいる指先に切れたる糸を手繰りておりぬ        佐藤真理子
地図の駅ドラッグしたら涼やかな風の抜けゆく森の見えくる      反町光子
夏祭りみどり児がともに民謡を踊りまくれど行く末想う        坪井 功
1月集より
蜘蛛の巣を顔に掛けた時ほどのつらさも見せず君われを捨てぬ     元井弘幸
黄色い帽子黄色いカバーのランドセルふわり現る朝の四つ角      大塚美奈
作品Ⅱより
あかつきに咲きそめいしが夕暮にはや萎みたる朝顔の花        秋山充利
百日紅白く咲き継ぎ炎暑の中を雪の舞うよう境内は          石田春子
つやつやの椿の種子(たね)に触れたれば濃いみどり葉に母の目差  江原由美子
手を上げて横断歩道をわたる子のとりどりのランドセル眩しく光る  大川紀美枝
公園の小さき木馬向き合いて昔なつかし幼子減りて          櫛毛宣幸
抱く子の鼻水しゃらんと拭う父竜舞うシャツの裾をめくりて      小澤嘉子
見過ごせし茄子の紫紺にもどりゆくジーンズの藍 赤城山嶺(やま:ふりがな)の夕ぐれ 小曾根昌子
合戦と殉教の世は遠くすぎ車でわたる神流川橋            清水静子
京芋の大き葉のゆれわが背丈越えて畑の主となりし          田中理泉
浅間嶺の噴煙染める夕明かりの薄れる見つつ野を帰りたり      藤巻みや子
退職の祝いに子から贈られた「今ここだけがここに」繰り返して聴く  萩原敦子
本心を言葉にすれば休まらず夏真昼間の風騒ぐなり          茂木惠二
雨の朝歩道橋は傘舞台色とりどりが校門に消え            井口邦子
白波が運ぶテングサ数多採り抱える籠に朝日射し入る         井出堯之
最悪なる日を踏み出す手作り帽子を浅く被りて           川西富佐子
海底を突き刺すように直立した潜水艦は昭和の御影(みえい)   久保田三重子
天国に最も近き露天風呂周囲は映えた黄や紅に染まる        高橋眞砂江
明日北の赴任地へ向かう息子今スマホいじりて母から離れず     牧野八重子
連載「のづかさ」五十年つづけきて短歌五千余首猛暑のなかに三十首挑む   大場ヤス子
題詠「傘」浦安の舞に送られ相合傘に守られ笑顔の新郎新婦     板垣志津子
やぶれがさ大葉(おおき)の下ひそかにも破れた傘の花白く咲く    大場ヤス子
大輪の牡丹の花に差しかけしパラソル雨に少しかたむく        反町光子
核の傘展げる先に彼岸花絵柄の傘の展げおりたり          みたけもも
「破れ傘」その名の知りて木隠れの気取らぬ小さき白い花観る     宮崎 弘
HANI2017年11月号 NO246
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「〈ことば〉のちから」 森 たま江
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1977年第7号(秋季号)
作品Ⅰ    下記により抄出
時評 「歌会は人工知能と」 元井弘幸
山下和夫の歌連載49 小原起久子
ONE MORE ROOM 一点添削・囲いの中が添削箇所  山下和夫
ことばのページ twice「仮名遣いトレーニング(4)」青木晶子
11月集    大塚美奈・藤巻みや子・茂木惠二・秋山充利
作品Ⅱ    下記により抄出
特集 喩について
「歌の力」       池内紫萃
「若き歌」       石井恵美子
「直喩と隠喩」     矢島由美子
一首鑑賞        大場ヤス子・反町光子
「のづかさ」日々それぞれに 井上俊子
サークルにおける勉強風景その4 小原起久子
ブログより「こころに効く短歌」その1 小原起久子
題詠 穴
ESSAY  「吟行 」 矢島由美子
御裳濯河歌合(16) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(19) 山下和夫著
ばうんど
5月号作品評 
作品Ⅰ評     堀江良子
15首詠・月集評 若山節子 
作品Ⅱ・題詠評  宮崎 弘  
作品Ⅱ・寸感 森 たま江
ESSAY  「古希を越えて」 今井五郎
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当    若山節子

会員作品 11月号より

15首詠より 
目薬は的を外れて頬つたう夢のつづきの涙ではない          牧口靜江
揺れている車中の吊革に揺れながら身の量ほどの時をゆだねる     西村英子
まねきんとなりて棺(ひつぎ)の花のなか煙(けむ)らばましろき胡蝶となりなん 相良 峻

山下和夫の歌
花吹雪くまっただ中に立ちている襤褸の乞食もっとも潔し       山下和夫

作品Ⅰより  
一世(ひとよ)の途次のつまずきやすき暗がりに一夏(いっか)の蛍の小さきが点る 小原起久子
箒草 枯れたのだから嬉々として空飛ぶ夢を企てようよ        宮澤 燁
漱石の本より抜け出た黒猫が物怖じもせず吾が膝にのる        若山節子
放置田に生(あ)れし紫薊(しあざみ)全身に棘を残して絮(わた)とびゆけり 森 たま江
残雪の峠輝くバスの窓華やぐ声は明日を消しおり           宮崎 弘
くれないの闌(た)けて葉陰に花蘂や小野小町(こまち)も共に友と集いぬ 堀江良子
障害児教育にたずさわりきし娘の手足 その自由を神は奪いき     青木晶子
欲しい顔して寄ればたかんなは掘って掘ってと皮ふくらます      佐藤和子
黄昏の風景もまたよし沈む日に影絵となれる今生の映る         江原幸子
藤棚の老木のもと行きずりの友と語らう春うらら            石川ひろ
職辞して出かけぬ一日蜘蛛の巣をばらのアーチに張らせたまま過ぐ    元井弘幸
古代には尾があったヒト 汚(よご)しゆく地球に居座るホモ・サピエンス 茂木タケ
散り敷きし木蓮の花びら吹かれ来てわが下駄箱の白き靴ベラ      赤石美穂
わが背なを夏の日差しがちりちりと啄みており タチアオイ咲く    池内紫萃
軽やかに吹き来る風に汗ばんだつなぐ手を離しそよがせてゐる     石井恵美子
ライラックと知りしは遥か幾度の転居の末は花も木もなし       遠藤良子
たっぷりと樫と椎の木水かかえ気負いて尖る青葉の直立        菊池 葩
今日からはここが私の暮らす家一人掲げる青い鳥の絵         萩原教子
鎧いいしシャッター開ければ足下より五月の光さっと入りくる    みたけもも
竹の子の皮をむきつつ思い出す「竹の子生活」 父・母も居し     三越誧子
誰が墓とわからぬままに古き墳をちこちに見ゆ故郷の野に       天田勝元
知覧なる特攻隊の基地発ちて特攻兵は征きて帰らず          大場ヤス子
青空のしずくのようなネモフィラの俯く我に見せる青空        岡本達子
新緑のダム湖に下り来てきょろきょろと雪解けを飲む鹿 われと眼が合う 今井五郎
祭り囃子の去りたる街を帰りゆく少女ら浴衣の袖たくし上ぐ      板垣志津子
手術後の泣き笑顔まで艶やかな従姉のような紫陽花の青        菊池悦子
太古よりこころに宿る遺伝子が巡礼せよと旅をせかせる        小池心子
荒天にふり回されて日本列島山紫水明崩れゆくなり         小林モト子
真っ白き浅間を眺め往き帰路に雪解け水か一すじ走る         斎藤幸子
日溜まりに咲く水仙は婆(バーバ)のごとし日陰に耐えて咲くはおのこかや 﨑田ユミ
菜園に丈伸ばしゆく向日葵よゴッホの絵になる花見たきものを     佐藤香林
古書好きの伯父祀られいる靖国は骨董市の人にあふれる       佐藤真理子
近づけばまたほうほうと啼きはじむ頭上に鳩が卵抱きいる       反町光子
介護士らひがなもず忙(せわ)しげに言の葉少なく静盛り返る     坪井 功

よ 11月集より
子の為に捕えんとした蟹 指先に残る小さきハサミは二ミリ      大塚美奈
木の下にひとりいるとき朝雨は夏椿ひとつ落してきたり       藤巻みや子
あこがれて作りし家庭 一皿の采(さい)一人ずつ食べている今    茂木惠二
草の穂の早や彩れる秋にしてこのごろ吾も病みやすきなり       秋山充利

作品Ⅱより
絡みたる朝顔天に向かいつつ雨降る中に咲かす青色          石田春子
静かなる水面に映える杜若花寺回廊ゆうらり行く          江原由美子
手をあげて横断歩道をわたる児のとりどりのランドセル眩しく光る  大川紀美枝
蜩(ひぐらし)の声を持ちたる初夏に二声鳴いて夕闇迫る       櫛毛宣幸
足元に積もりし藤の花がらを踏みて春の憂いを越える         小澤嘉子
さまざまな絵から読みとる楽しさをあまたの本が子に運び来し    小曾根昌子
畑隅に紫苑を残し耕しぬ明日は大根の種を蒔こうか          田中理泉
梅雨晴れに草引く腕にバッタの子足をすりすりいずこへか消ゆ     井口邦子
英検をすんなり通る少女なり幼き仕草ひとつ消えおり         井出堯之
可憐なるナガミヒナゲシ道端に抜かれ棄てらるるただただ嫌われ   川西富佐子
焦げ付くのはいつも同じ鍋の底かなり根深いこの嫉妬心      久保田三重子
安政の薬師堂の梁になお張り付きしままいつの空蝉          清水静子
久々に来し天然温泉常連客とにこやかにあいさつを交わす      高橋眞砂江
五月の風に包まれていまかなうなら息も吾もあの若葉になりたし   牧野八重子

連載「のづかさ」昭和一桁生まれの歌人 より
枯菊の根を掘りにつつ昨夜落ちし星のかけらを探す          井上俊子

題詠「穴」
裁縫の時間に覚えし穴かがり七十年経てヴラウスに刺す       板垣志津子
電球を入れて繕う母ありき私があけた靴下の穴           大場ヤス子
しずしずと伸びし大根の底力ようやく抜ければ大穴深き        岡本達子
仕舞い忘れしセーターに穴三つ蟫の笑顔の見えくるような       菊地悦子
虫喰いの穴ありてなお枝先につながっている一葉とわれ       佐藤真理子
HANI2017年9月号 NO245
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「苦悩・苦悶」 菊地 葩
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1977年第6号(夏季号)
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載48 小原起久子
ONE MORE ROOM 一点添削  山下和夫
ことばのページ twice「仮名遣いトレーニング(3)」青木晶子
9月集    矢島由美子 みたけもも 反町光子 小林モト子
作品Ⅱ    下記により抄出
一首鑑賞   板垣志津子 秋山充利
特集 火と炎について
「火は歌人のうちにある」元井弘幸
「情と思いを反映」   相良 峻 
「いのちの炎」     石川ひろ
御裳濯河歌合(15) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(18) 山下和夫著
題詠 地
ESSAY  「イメージトレーニング 」 宮崎 弘
ばうんど
5月号作品評 
作品Ⅰ評     江原幸子
15首詠・月集評 石井恵美子 
作品Ⅱ・題詠評  佐藤真理子  
ESSAY  「鳥」 小林龍子
編集後記
表紙絵担当    若山節子

会員作品 9月号より

15首詠より 
月も映さず身投げもさせず古井戸は時を充たして今を息づく      赤石美穂
ガラス戸の古びる学生寮に会い三人(みたり)と寝食ともにせし日々  佐藤和子

山下和夫の歌
丈よりも高き穂草を薙ぎてゆくわれを薙ぐべき鎌汝も持つ       山下和夫

作品Ⅰより  
波打ち来れば海へ回帰の尾を揺らす サーファーの海馬の一匹    小原起久子
われは今二百円のビニール傘骨折しても馴れて慣らされ        宮澤 燁
夕暮れに文字はかすみて引き寄せる百円ショップの天眼鏡       若山節子
やわらかに陽をこぼしいる雑木の道あてなき歩みの果てはみえざる   森 たま江
渡来して「オオイヌフグリ」の名を拝し春の城址の野面(のもせ)彩る 宮崎 弘
喧騒に寂しさ遺し紛れゆく亡父やも知れぬ山高帽子          牧口静江
風の橋 銀杏橋に煉瓦橋 多摩の丘陵結ぶ陸橋            青木晶子
幾たびも生死のドアをくぐり来し老いたるラクダに流砂はささやく   堀江良子
くるはずのメールは届かず秋暑き庭に蝉のなく声なだれる        江原幸子
自転車のギアを催促に入れかえて朝を我は鳥となりゆく         石川ひろ
「ストレー・シープ(迷える子羊)」とおのれを詠いし日の杳し徘徊する身と吾(あ)
もなりゆくや        茂木タケ
口のなかに融けしジェラート 果実の粒を去りし友のごとく数えたり  元井弘幸
首すぢに海風冷たい氷見の町清みたる汁ごとうどんを啜る       石井恵美子
雪の名を冠した花は青芝の公開空地に降り積もりおり         池内紫萃
忙しいと言うほどもなき日の暮に少なき髪をそそくさ洗う       遠藤良子
宣誓の右手は高く空をさし野太き声に鎮まるしずまる場内       菊池 葩
うすら陽をまとえるさくらの匂やかに湯浴みてあなた佇みおりき    相良 峻
久々に我が古団地賑わえどたった一匹鯉のぼり泳ぐ          坪井 功
錦繍も美食もいらぬ念願のアウトレットへ子に連れられて       萩原教子
立つことにつかれ果てたる大木がさざ波あびて湖(うみ)に横たう   西村英子
核無きを目指し祈れるオバマ氏の背後の鞄は核のボタンが       天田勝元
母の日に届きし品を重ねていうな母にならざる人もおるなりここには  伊藤由美子
遠き日の遠足の尾根をのぼりゆくエメラルド色の火口湖に逢いに    今井五郎
母となる海を満たしたその日より児はひとりでに進化をたどる     大塚美奈
九歳のわれひたすらに暗誦せり教育勅語世を騒がせる        大場ヤス子
花瓶の珠実赤味増しくるこの日頃庭の千両食べつくされし       岡本達子
初恋のひとの如くにわが眼引く古書店の隅「辻邦生」の名       菊地悦子
英霊の追悼式に献花する遺児の白頭 桜花舞い散る          小池心子
適うなら魔法のポケット一つ欲しまず取り出そう不老の薬       小林達子
野菜を売る前に四五本置く苗木桜にひかれ買い来たれども       斎藤幸子
九十歳の姉のいれくれし緑茶呑むほろ苦く甘し 生きいるふるさと   﨑田ユミ
旅路より飼えりたるわれの足洗う立浪草の白き群落         佐藤真理子
寒き日に着てゐし上着置き忘れわが身に問へど訝しむばかり      佐藤香林

よ 9月集より
満開の桜の花房手に触るる わが三十一(みそひと)文字は満開ならず 矢島由美子
クロースに付着している猫の毛を飛ばせば宇宙に積もりゆく混沌    みたけもも
薄曇りて花びら閉じるにほんたんぽぽ開いたままの西洋タンポポ    反町光子
穂の出でし麦の田続く夕まぐれ老犬連れて行く人もまた        小林モト子

作品Ⅱより
豚はみな上には向かず鼻先を下向に向けて生きているかも        秋山充利
家持の詠みし堅香子足元にゆれいる紫地に這い見上ぐ          石田春子
丘に建つ校舎の窓を額にして牛伏山(うしぶせ)の緑写生する子等   江原由美子
さんざめき群れいる子等のごとくにも黄の香をはなつ金木犀は     大川紀美枝
おきざりの干柿ふたつ 核心を語らぬ友の座りし椅子に         小澤嘉子
真紅あり絞りもありてひと冬を一樹につけし椿花咲きつぐ       小曾根昌子
金色のショールはおりしマッターホルンに見惚れておりぬバラの香の部屋 田中理泉
ひともとの山桜映す峡の田の静かなる水に黄砂ふる昼         藤巻みや子
早咲きのさくら一本ほっとりとごみの溜りに咲きいだしたり       茂木惠二
こきうすき緑の中の白き花「生きよ」と叫ぶ亡夫(つま)の声あり    井口邦子
南北の松明揃い門松はサイレイサイリョ鞍馬に響く           井出堯之
購える桜小鉢に草餅を載せて供えし祖母の命日            川西富佐子
糸でんわのピーンと張った向こうから耳をくすぐる春のうぶ声    久保田三重子
振り向けば猫と目が合う見上げれば雀が見ている 野生のわたし     清水静子
「早春賦」歌い春待つ母なりし 七十四才の冬に逝きたり 高橋眞砂江
むつ、ななつ。やっつ目だけが芽を出さぬ地上の善悪見たくないのか  牧野八重子

題詠より 「地」
芝焼きの煙あびおれば聞こえくる地に湧き満ちる春のうぶごえ      若山節子
紅茶の色は五月号兼題の「地」滴滴のブランデーを慈雨として      今井五郎
地中海・カリブ海・ドナウ・ナイル川豪華なる旅 クルーズ船     大場ヤス子
百年ぶりとほめられどっさり青き雪ようやく消えて地表に芥      小原起久子
下駄箱の隅に緋靴(シューズ)を閉じ込めて地平線を行く日企つ     宮澤 燁
HANI2017年7月号 NO244
 目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「夢と現実と」 池内紫萃
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1977年第5号
作品Ⅰ    下記により抄出
時評    「あしたのこと」   石井恵美子
山下和夫の歌連載47 小原起久子
特集 香について
「心の余裕」  牧口静江 
「匂いを感じる」宮崎 弘 
「香と匂い」  佐藤真理子
ONE MORE ROOM一点添削 山下和夫
7月集     下記により抄出
作品Ⅱ     下記により抄出
ことばのページ 「詠みながら学ぶ文語文法」森たま江
のづかさ~昭和一桁生まれの歌人 「ろうばい」遠藤良子
御裳濯河歌合(14) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(17) 山下和夫著
一首鑑賞  佐藤香林 久保田三重子
題詠 雷
ESSAY  「国民学校の時代」板垣志津子 
     「短歌との縁」  藤巻みや子
ばうんど
3月号作品評 
作品Ⅰ評     小原起久子
15首詠・月集評  相良 峻 
作品Ⅱ・題詠評  佐藤和子  
作品Ⅱ・寸感   森たま江
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当    若山節子

会員作品 7月号より
15首詠より 
満天の星の雫がこぼれおりあなたのいない北の窓辺に   若山節子
15首詠より  
福寿草咲き初む庭の片隅に山茶花が散らす紅き花ビラ   小池心子
山下和夫の歌
枯れたる原に向かいて椅子一ついつよりかわれを待つごとくあり山下和夫
作品Ⅰより  
河鹿蛙のただひたすらを聴きましょう 涼しき筆に誘いくれたり小原起久子 
母の足裏おろかに美し土割りて芽吹きたる麦を三度も踏みつけ  宮澤 燁
川底の朽葉に届くいやおいの光に捜す確かなる明日       森 たま江
痙攣の右足おさえときを待つ泣くも笑うもわが待ち時間    宮崎 弘
柔き草踏みつけ歩き悔残る一世なりしか石に躓く       牧口静江
難病の診断下りし娘(こ)のもとへ湘南ラインに揺られつつ行く 青木晶子
白月の透みて蒼天輝きぬそらみつ倭(やまと)に雁卵(かりこ)を生まず 堀江良子
聞こえるはせせらぎと我が踏みしめる枯草の音          石川ひろ
葉牡丹に水掛けながら聞きし愚痴色鮮やかな渦に投げ込む   佐藤和子
理由なく今宵の集会欠席しみるともなしのサッカー試合    江原幸子
梢より雪の散りぼう参道を真青な空まで昇りつつあり     相良 峻
庭先の越前水潜咲き初めて卒寿のわれの春のさきがけ     茂木タケ
振り払うもの多き右(め)手が朝あさを菜箸まろばせ玉子を解 赤石美穂
風花は羽毛となりて上がりゆきやがてわたしも消えさる身です 池内紫萃
ジャージからジーンズに替へたり夫は 息子夫婦が蟹食ひにくる 石井恵美子
落したる鉛筆拾う手と影が同時に伸びて重なり掴む      遠藤良子
鉦うちてまた打ち恨みの言の葉の笑いも供えり月の命日    菊地 葩 
「福は内」の声流れこぬ家並に「鬼は外」と 小声に蒔けり  斎藤幸子
夕暮の淋しきかたち鴉一羽水を飲みゐる道の窪みに      佐藤香林  
うすべにの山茶花開きはじめたる家への露路 はほのかに温し 佐藤真理子
自転車に坂道くだる少年は背中にみどりの風を生みたり    反町光子
清々しき色とりどりの吊し雛が飾られしサロン笑顔のはじける 坪井 功
虎刈りの芝生も褒めやる職退きし夫はシュールな新人庭師  萩原敦子
夕暮れのすとんと秋の落ちてきて足早に過ぎる筋トレの脛  みたけもも
ひなの夜のお寿司そなえる静寂に五人囃子が聞こえたような 三越誧子
美丈夫の如き通じのありしこと年の初めの手帳に記さん   伊藤由美子
真冬日の朝の背徳ノンアルコールビール冷たく喉を過ぎゆく 大塚美奈
梅りんご杏すいみつ花の色きそふ季節の遠しふるさと    大場ヤス子
屋根と壁塗りかえるらしホースにて丸ごと洗われている四角な家 岡本達子
この年に訪ね来しひとの声の色聴きたる客間の障子を洗う  今井五郎
年末のなづなに莟ふくらみて地上五センチに春が来てゐる  板垣志津子
数多ある瑕持ちながら四十年仄温き肌素焼きの湯飲み    菊池悦子
ヒュールルル聞こえ来る音は木枯しに追われ去りゆく秋の足音 小林龍子
白銀に輝く上州山々のやがて霞に消えるを憂う        小林モト子
7月集    
雪庇より落ちる滴の奥に棲む岩魚ゆらりとわれを待ちおり    元井弘幸
7月集     
明滅蛍にあが歓声を追えば暗闇にあまたの踵         西村英子
7月集    
弾きがたる切れんばかりの弦の音に光秀攻めゆく本能寺へと  﨑田ユミ
7月集
家々に屋号のつきて土産物並べてをれり大内宿は       天田勝元 
作品Ⅱより 
うらがれて白くなりたる庭草に小草が顔を覗かせている    秋山充利
木守柿鴨に食べられ高きより揺らす木枯らし顔に冷たし    石田春子
精進は今年の抱負青空へ書き初めの文字浮かばせてみる     江原由美子
ネモヒイラの花のブルーに染まる丘空の無限に冴え冴え吸わる 大川妃美枝
鍵盤の波間に揺らぐピアニシモ透明の滴ころがるように    小澤嘉子
若きらの声のはずみが香を揺らすカサブランカか百合かといいつつ 小曾根昌子
枯枝を潜(もぐ)り潜(くぐ)りて小雀の色照り映える南天の赤 櫻井冨美惠
大利根より細き氷に上りきし鮎を焼く香の風にのりくる     田中理泉
ぼんやりと薄色の月上りくる一度だけでも音立ててみよ    藤巻みや子
納戸には歴史流れる息(こ)の本にわが本たなより追い落されて 茂木惠二
大利根の速き流れに花筏(はないかだ)かさなえりあいて浮き沈みゆく 井口邦子
梅の枝に神霊移り願人(がんじ)打つ太鼓高らに鳳輩動く    井出尭之
欄干にダルマ一対薄汚れペンキ剥がれて泣顔に見ゆ      川西冨佐子
若者が一心不乱に塗る壁の技を育む左官の親方       久保田三重子
ゆったりと目だけ動かし歌を詠む十年ぶりの電車の遠出     清水静子
寝ぼうしていつもと違う時間帯いつもは会わぬ少年と会う   高橋眞砂江
リビングにあかい絨毯撫でながらペルシャの織子の指先思う  牧野八重子
のづかさ  
あしなえの夫に向き咲くろうばいの昨日一輪今日の一輪     遠藤良子
HANI2017年5月号 NO243  目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC  言葉の常備薬 若山節子
15首詠     下記により抄出
山下和夫の歌 下記により抄出
作品Ⅰ    下記により抄出
時評「短歌の力」石川ひろ
山下和夫の歌連載46 小原起久子
ONE MORE ROOM 一点添削・囲いの中が添削箇所 山下和夫
ことばのページ Twice  仮名遣いトレーニング 青木晶子
5月集     下記により抄出
題詠 神
受贈書紹介 歌集幻想家族 笠原真由美   堀江良子
作品Ⅱ   下記により抄出
特集色彩について 色彩の力      江原幸子
色は情感を刺激する 相良 峻
第17回プログレス賞発表
受賞作品 赤石美穂
評 宮澤 燁  石川ひろ
のづかさ~昭和一桁生まれの歌人 耳腺30首 斎藤幸子
御裳濯河歌合(13) 時緒翔子
「炎の女たち」古代編16 山下和夫
一首鑑賞  天田勝元 小原起久子
ESSAY 1月の私 大塚美奈
ばうんど
ESSAY 短歌に出会っていれば 茂木惠二
新刊紹介
11月号作品評
作品Ⅰ評      森たま江
15首詠・月集評  赤石美穂
作品Ⅱ・題詠評 西村英子
編集後記
表紙絵担当      若山節子
会員作品  5月号より
15首詠より  
原爆を投下するには理由(わけ)が要る知られざるわけテレビは暴く 宮崎 弘
15首詠より  
さよならを決めた朝はすこしだけホットミルクの甘くなり   池内紫萃
15首詠より  
まひるまをわがゆびさきに開かれた身のまままろきハニーバンタム 相良 峻
山下和夫の歌 
闇の道来し掌に握手かさねつつはるばるとわれの何か失せゆく  山下和夫
作品Ⅰより  
その母に肖てまた晩年を父に似る 鏡の中に余光さがせば    小原起久子
南スーダン弔慰金90000000増額増額す喇叭吹きいるこの黄水仙 宮澤 燁
人影が小さく消えゆく散歩道この世をあまる老いわれひとり   森 たま江
風紋の美しき砂丘をのぼりゆくたどりつけない春をたどりて   若山節子
朝の日が柔く瓦をすべり来る師走の街の静かなる明け      牧口静江
運命の出会いを恐れ早春のペットショップのドアーは押さず   堀江良子
人生の苦しみを歌に詠みきたる友の姿は梔子の花        佐藤和子
切ったはずのエアコンまだ低く唸るクールダウンまで大切な時間(とき) 江原幸子
鈍色の空にガンガン泣き交すV字戦隊組んで雁来る       菊地 葩
「すぐ逃げて」テレビが叫ぶ震源はまたもフクシマ 哀しフクシマ 茂木タケ
いしぶみのいわれ覚えず女性ガイドのマニキュアの赤思い出しおり 元井弘幸
ポイントの三点得るべくパンプスが鯛焼き売り場へ踵を返す   赤石美穂
白寿なる姑の作る黒豆のストーブの上に煮詰まりてゐる     石井恵美子
まだ呆けてなんぞいないの意気込みに受話器のむこうの娘と話す 遠藤良子
遠き日の運動会に見た空の群青を仰ぐひとり鳶を追い      菊池悦子
いつか逝くあの世への道照らし出すスーパームーンを中天に見る 小池心子
真冬日の昼間のぬくもり懐に子の帰り待ちつつ煮ぼうと作る   小林モト子
菜の花にもつれもつれて黄色蝶ゆめを忘れたわれときめかす   小林龍子
草取りをする手に湧きてオンブバッタ一瞬にして空に吸われる  斎藤幸子
見るたびに名の無かりけり短歌欄に気丈な兄にも 老妻の死は  﨑田ユミ
スーパームーンでありしは三日前騒がれぬ夜を輝きわたる    佐藤真理子
揺れやみて風露草いま白山の光の中に濃き影をおく       反町光子
高齢者と線引きされて自問する柱に寄りて背すじを伸ばす    西村英子
玄関に落葉の舞い込みて我を訪う今日の客とす         三越誧子
山の色は緑と批判したる人に今日の榛名の7青を見せたや     天田勝元
ロウバイの黄をきわだたせ図書館の窓に広がる空の水色     今井五郎
神楽殿におかめ・ひょっとこ田植ゑする神も笑ひて除き覗き見に来る 板垣志津子
青空に広がる真綿晩秋蚕終えたる妣は冬支度せん        岡本達子
5月集より
蕗の薹師走の庭に芽吹きたり 春知らぬまま摘まれしいのち   佐藤香林
右京太夫に我を重ねし日もありき 書架より引き出す古き家集を 青木晶子
馬頭尊冬日浴び現御座す秩父暴徒の逃れし旧道         大場ヤス子
父の笑顔母の笑顔の交わりて我は生まれたり雫となりて     石川ひろ
作品Ⅱより  頬笑める友の遺影に涙せり帰路に浮かび来る歌会の顔 石田春子
ソプラノに揺れる空気に瞬ける星も聴けるかこのアヴェマリア  大塚美奈
雲間より十五夜の月は出でにけり老いたる二人と一匹の影    岸田佳子
海原をゆく舟の生(な)す波映る白足袋の先摺り足に舞ふ    小曾根昌子
鈴生りの日に輝きしかりんの黄所在なさそに地球(てら)に転がる 菅谷喜至子
幼子らの喊声響きし古団地はや三が日静もり返る        坪井 功
北の部屋カーテン開け閉めする度にわれ裏窓のヒロインとなる  萩原教子
幸せを感じない日が続くのは枯葉を踏んで歩かないから?    藤巻みや子
かりがねは夕空たかく飛びゆけるかぎ型くずさず山の彼方へ   秋山充利
時間経た美味い硬さを競うならフランスバスケット日本の夫婦  井出尭之
広隆寺闇に座れる弥勒さまあふれる笑みに憂い覗ける      江原由美子
先立ちし息子(こ)の顔おおう白菊を老母(はは)は払いて頬を寄せおり 小澤嘉子
若沖の襖絵より抜け出たり 赤かぶ 我の五感目覚める     川西冨佐子
ゆず三つ湯船に放てばその軌跡三角形を無数につくる      久保田三重子
俯いてピカチュー捜す男の多し女は現に欲しいものあり      清水静子(新会員)
養蚕に栄えし農家の大欅昭和もともに伐られたり         高橋眞砂代
雲の上にまた雪の降り初生りの金柑ひとつまた一つ落つ      田中理泉
ほっこりのひざしの中で縫い物の母のわきには五歳のわたし    牧野八重子(新会員)
裸木となりたる道を走りゆくわが汗オーデコロンと交差す     茂木惠二
プログレス賞
「秋映え」の芯を見ようと仄黒き林檎一果にナイフを入れる   赤石美穂