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2019年5月号 NO.255

MICROSCOPIC&MACROSCOPIC批評のススメ   元井弘幸
〈30首詠〉 小原起久子
〈15首詠〉 相良 峻・赤石美穂
山下和夫の歌 『埴』1980年3月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・若山節子・森 たま江 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 元井弘幸・菊地 葩・茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 菊池悦子・小菅貴代子・佐藤真理子 ほか
山下和夫の歌58 小原起久子
ONE MORE ROOM 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより18[異化・だまし絵的フモール]
短歌の作り方覚書「喩」のいろいろ(3) 堀江良子
一首鑑賞 天田勝元・萩原教子
ブログより 「こころに効く短歌」その10 小原起久子
〈5月集〉佐藤香林・坪井 功
〈作品Ⅱ〉 秋山充利・井口邦子・石田春子 ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・髙橋眞砂江 ほか
〈題詠〉コーヒー
山下和夫の聾・ほか
〈特集〉 音楽の歌について 
  音楽の持つ役割   若山節子 
  ー多彩な表現をー  石川ひろ
「HANI(埴)」短歌会からのおしらせ
第19回プログレス賞受賞作品「千本の針」若山節子   
 同作品評           堀江良子   
 同作品評           宮崎 弘  
 同作品評           西村英子
玉葉和歌集(抄)4 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(28) 山下和夫著
ESSAY 短歌を三年 清水静子  
    投稿歌と私 秋山充利 
ばうんど11月号
作品評  作品Ⅰ評     森 たま江 
     15首詠・月集評 佐藤和子 
     作品Ⅱ・題詠評  藤巻みや子
山下和夫の聾
編集後記
表紙絵 若山節子


会員作品
【30首詠】
君の魂の捨てゆきし庭舗装して失語症となりたる雀          小原起久子
【15首詠】
成り行きに弄ばるる身 大鏡落下し粉々破片煌めけ          相良 峻
俯きつつ歩む舗石を飛び交えるとんぼの影に重さのなくて       赤石美穂
【山下和夫の歌】 1980年3月(5巻2号)より
冬草に鎌置かれあり女(め)の手が現れて握りゆきたり        山下和夫
【作品Ⅰ㋑】
両の目を閉じて佇ちおり草が吾(あ)か吾(あ)が草なるかわからぬ原野 宮澤 燁
がらんどうの路線バスが街を行くがらんどうの重さたっぷりのせて    若山節子
平成の歳晩の畑(はた)に残されし大根あまた末枯(すが)れゆくらん 森 たま江
罪を問う人も問われる人も乗せ自動運転のバス地球号          宮崎 弘
秘め事を洩らさぬように赤き口少し窄めて柘榴が笑う          牧口靜江
ゴールデン・ウィーク過ぎて寒戻り萌え出た新芽のさみどり吹雪     堀江良子
平成の終わりの年に三人(みたり)逝き秋霖の雨にわれくらみゆく    佐藤和子
小正月のたるんだ眼に昼さがりのテレビには熱く苦しむラガーたち    江原幸子
“進歩”を“心歩”と書き初めし母ありて新たな年を手をとり歩む      石川ひろ
【作品作品Ⅰ㋺】
骨董店に徳利盃並びおり祝いし者悼みし者集いておりぬ         元井弘幸
よろこびて自然にかえるという君の一(なる)心に添えり五年祭     菊池 葩
灼熱の赤道まで征きし日本兵のDNA持つ赤子ら生まれし         茂木タケ
暖かき師走の畑をそよぎつつ昨日と明日をつなげる黄蝶         石井恵美子
いが栗を並べたようなオナモミの人待ち顔がわが顔のぞく        西村英子
【作品Ⅰ㋩】
美しき獣の眼をして氷上に羽生結弦は己と戦う             菊池悦子
青き空写して春の浅き川白鷺(さぎ)の影ひときわ長し         小菅貴代子
青き実の小みかん朝日に実をさらす さらせずにいる小さなプライド   﨑田ユミ
いすに座りフラメンコを踊る老女「ラ・チャナ」祖(おや)よりの血のリズムのままに 佐藤真理子
もみじの葉に染まれる空のひとところのぞくみずうみのような紺碧    﨑田ユミ
右手(めて)伸ばし流れる星の尾をつかみ弓手(ゆんで)に星形クッキーつまむ    反町光子
頼もしく思いおりし後輩の異動して 会いに行く昼休みの泣き笑い顔   萩原教子
信濃より峠超えきて雪雲は荒船の嶺(ね)に今し届きぬ         藤巻みや子
地中より太ぶととした葱ひけば初冬の空にひろがるしろたえ       みたけもも
陽に干しし布団にくるまり一日のストレス夢に食わせてしまえり     茂木惠二
小さき蛇ゆらゆらとうねるよに猫じゃらしの影風に揺れゐる       天田勝元
公魚は氷上のオブジェ カセットコンロに匂う油を道連れ        板垣志津子
初日の出拝むといできし畔道に赤城おろしの耳に痛かり         伊藤由美子
雨上がりのなだりの畑の蕎の花しずくに濡れて白の息づく        今井五郎
丹念に育てられたるシクラメン迷わず決めるあたたかき深紅(あか)   江原由美子
秋晴れを鈍き脳(なずき)と散歩する万歩計の空しき数字        小澤嘉子
セトモノの熱きを出して手料理もる四十度こす夏の夕色         大場ヤス子
【5月集】
我が町に介護施設の増えゆきしが恙無く仰ぐ冬のオリオン         佐藤香林
道端の野地蔵に祈り背(せな)を押され足取りも軽く山道を歩む      坪井 功
【作品Ⅱ】
遊びに来し母は過去へと歩むらし田植ゑの話またも始むる         秋山充利 
歩道に伸びし刺持つ柚は吾が腕に絡みて黄金を見せしむ          井口邦子
合唱の声は体育館に響きおり中学生の瞳きらめく             石田春子 
あさ稽古おわりて帰れば食卓の吾が座の前は陰膳のごと          櫛毛宣幸
今日の雲油彩のような深き白巨大な画布の青際立たせ          久保田三重子
車椅子の母と出ていく診察室 医師を辞める理由を問えずに       清水静子
【会友】
音たてる草刈機にも猪は近付き群れる山里の畑             井出尭之
霜月を一人炬燵に口遊む演歌は『舟歌』昭和の我は           川西富佐子
寒き日のスーパームーンの明るさは東の空より我が家を照らす      髙橋眞砂江
北風に街路樹の舞い散る今朝は暦どおりの小雪             中山幸枝
御子様と呼ばるる蚕の吐く糸にわたしら餓鬼は生かされてきし      牧野八重子
【題詠】 [コーヒー] 
あの世でもあなたは聞かせてをりますか機嫌のよい日のコーヒールンバ  板垣志津子 
招かれて応接間のテーブルにてコーヒー飲みにき匙にすくいて      大場ヤス子 
コーヒーにミルク一滴広がりてアンドロメダ青雲のごとく        久保田三重子 
ファッションはゴールドと茶と決めていし亡友(とも)に着せたいコーヒー茶の衣(きぬ)  佐藤真理子
まひるまの珈琲今日は苦すぎてミルクに暗色うすめてみたり       茂木惠二


2019年3月号 NO.254
MICROSCOPIC&MACROSCOPIC 発展の可能性   堀江良子
〈15首詠〉 元井弘幸・矢島由美子
山下和夫の歌 『埴』1980年1月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・関根さつき・宮澤 燁 ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 菊地 葩・相良 峻・茂木タケ ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 小澤嘉子・菊池悦子・﨑田ユミ ほか
山下和夫の歌57 小原起久子
ONE MORE ROOM 山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲより17[対象の人間化・擬人化]
短歌の作り方覚書「喩」のいろいろ(2) 堀江良子
〈3月集〉大場ヤス子・藤巻みや子
〈作品Ⅱ〉秋山充利・石田春子・井口邦子 ほか
〈会友〉 井出尭之・川西富佐子・髙橋眞砂江 ほか
一首鑑賞 清水静子・田中理泉
〈特集〉 数詞のある歌について 数詞の役割     江原幸子  
                数詞の効用     西村英子  
〈題詠〉鞄一首鑑賞 板垣志津子・みたけもも
玉葉和歌集(抄)3 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(27) 山下和夫著
ESSAY 「ばうんど」とは 板垣志津子      
     思いを言葉に  菊池悦子     
     日記の思い出  江原由美子
ブログより 「こころに効く短歌」その9 小原起久子
ばうんど
11月号作品評 
作品Ⅰ評  宮澤 燁 15首詠・月集評  明石美穂 
作品Ⅱ・題詠評 石川ひろ
山下和夫の聾
編集後記表
紙絵 若山節子

 

会員作品

【15首詠】

濃い青に赤い点々数多飛び秋晴れの日の玉入れは哀しい    元井弘幸

二度と同じ形に戻らぬ雲に似てやり直せない籠の中のインコ  矢島由美子

【山下和夫の歌】 1980年埴1月号より

届かざる一夏の念(おも)い中空(なかぞら)に凌霄花(のうぜんかずら)散りはてにけり 山下和夫

【作品Ⅰ㋑】

去年(こぞ)に変わらず左右(さう)逆転を写しいる元朝の鏡にずいっと眉を 小原起久子

母子像の靜もりてあり あんなふうに胸乳に子を抱く杳かな昭和       関根さつき

大雪(ゆき)のバンゲアにいるごとく柳が白く息をしながら立っている    宮澤 燁

足場くむ音に耳栓さしこみて締切まえの机上を乱す             若山節子

入院の夫を乗せたる車椅子 エピローグの幕は上がれり           森 たま江

一筋の飛行機雲よ哀しむな君らもぼくも同じ分子だ             宮崎 弘

来年があると信じてわが服にしがみついてる草の実あまた          牧口靜江 

冬空の群青(あお)を切り裂く繊月(せんげつ)の疵よりワラワラ宇宙こぼれる 堀江良子  

笹の葉の裏ながめつつ秋風になだめる骨折せし脚急(せ)くな        佐藤和子

わが庭の銀杏の黄葉の散る瞬は夕陽に照りて影となりたり          江原幸子

床の間の百花瓶図に描かれし白き桔梗は香放ちいる             石川ひろ

作品Ⅰ㋺

橋脚をなぶるごとくの打つ波は聴けわたつみの遠きレクイエム      菊池 葩

鳩居堂に選びに選びし封筒と便箋封せるままにシュレッド        相良 峻

七、八、九秒針パッパッ移りゆき吾が残り世が削られている       茂木タケ

一人ゐて黙って幾日風見るか飲み残された炭酸透明           石井恵美子

退院の目処の立たない君のもとへ長袖パジャマと木犀の香と       赤石美穂

蝙蝠の飛び交う夕ぐれ残照は一人の老の爪先てらす           西村英子

作品Ⅰ㋩

廃線のアンケート乗せ軽やかに黄の車両は西日を走る          小澤嘉子

告別式に亡父(ちち)の頑固の裏の顔涙とまらぬ姉妹語れり       菊池悦子

青き実の小みかん朝日に実をさらす さらせずにいる小さなプライド   﨑田ユミ

しじみ蝶かそけき影をたづさへて秋の日射しを追いかくるかに      佐藤香林

念願のアサギマダラが我が家に来一人と一頭の一期一会         佐藤真理子

古城より笛の音流るる搦手の豌豆のつる天を泳げる           反町光子

神社に参拝してから舞ひ始むる式三番(しきさんば)に閃光の飛ぶ    坪井 功

ボールペンのインクはくっきり流れ良し夏の訪れはわが手元より     萩原教子

夜の明し厨に入れば木犀の香りあふれて鎮まらぬ朝           みたけもも

秋桜の群生の中一本の秋桜となりわれも吹かれる            三越誦子

リフォームを繰り返しゆきいつの間に畳の部屋は二つに減りぬ      天田勝元

標語大賞を告げる電話に深ぶかと頭を下げた初秋の朝          板垣志津子

カーテンを開けてくれたる介護士の明るい笑顔と差し込む朝陽      伊藤由美子

国道沿いの犬ふぐりの四時空色の朝霧まとう化粧の時間         今井五郎

秋風が絵筆となりて山染めるハラリ病葉足下に落つ           江原由美子

3月集

今治のタオルをおろしわれに言う仕舞っておかずに今朝から使おう    大場ヤス子

子に食わすサフランご飯炊かんかな篝火色の雌しべ摘む秋        藤巻みや子

作品Ⅱ

枯枝を分けて覗けば土鳩の雛巣にうずくまり微動だにせず        秋山充利 

彼岸花の赤一面の雨の中夫と歩めり心静かに              石田春子 

畑隅のコキアの点々紅色に転がりそうに秋風に揺れ           井口邦子

ゆくりなく強き香りに逢いし道木香薔薇に触れる夕暮          大川紀美枝

黄金の稲穂の海をコンバインぶれずに進み波を鎮める          久保田三重子

まだ咲くの厚着始めた秋の朝震えて見える花びら凍え          櫛毛宣幸

子どもらの神輿かつげる「ワッショイ」の声は男波となりて近づく    小曾根昌子

『滑走路』へ降り立つ君の歌はなく胸につかえる空の青さは       清水静子

小玉スイカの干したる種の温しこと引き出しに仕舞う夏の匂いも     田中理泉

上掛けの中に漂うわが体臭味方と嗅ぎつつ眠りゆきたり         茂木惠二

会友

流木の直撃受けた家の泥 一輪車押し出すボランティア         井出尭之

忙しく夏を過ごした自販機も売る物変えて彼岸花咲く          川西富佐子

台風の近づく頃は我が家族は皆低気圧になり時々いさかう        髙橋眞砂江

曼殊沙華天に向かって赤く咲く彼岸を告げるがごとく咲き継ぐ      中山幸枝

冬の陽は早々落ちて三日月を親しき友と眺めてみたき          肥田芳枝

お月さま あなたのところへお客様千億円で行きますからね       牧野八重子

題詠 [鞄] 

買ひ呉し皮の鞄のにほひ嗅ぐ高校生になるプライドありき        石井恵美子

欲しかった皮のカバンは寄る年に重たくなりてやはり布製        板垣志津子

満鉄の次兄より届く本革の赤いランドセル 國民学校          大場ヤス子

終戦の翌年男(お)の子の肩掛けのカバンは戦地に汚れたお古      佐藤和子

幼子が大きカバンを背負って行く暫時瞑想し持ってやりけり       坪井 功

うっすらと霜を被りしカラスウリ捨て置かれたるカバンを飾る      牧口靜江


HANI2019年1月号 NO253
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「秋分の日」 森 たま江
15首詠     堀江良子・宮崎 弘
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1980年1月号より
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載56  小原起久子
11月集     天田勝元・茂木惠二
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 16 [作品の手渡し方・受け取り方] 山下和夫
1月集
短歌の作り方覚書 「喩」のいろいろ(1) 堀江良子
作品Ⅱ      下記により抄出
題詠「靴」   下記により抄出
特集 ユーモアの歌について
「人間の習性の可笑しみを」 堀江良子
「笑いの感情」       赤石美穂
一首鑑賞  今井五郎・板垣志津子
『命を主体に』他誌への掲載より 石川ひろ・遠藤良子・若山節子
玉葉和歌集(抄)2     時緒翔子
『炎の女たち』古代編(26) 山下和夫 
ESSAY 小浜を訪ねて 小澤嘉子    
    歌との出会い 天田勝元
ばうんど 
2018年9月号作品評
  作品Ⅰ評             矢島由美子
  15首詠・月集評         相良 峻
  作品Ⅱ・題詠評          江原幸子
  作品Ⅱ・題詠評          佐藤和子
ブログより「こころに効く短歌」その8 小原起久子
編集後記
表紙絵担当  若山節子

会員作品 1月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠 昨日には戻れぬ時の連なりて父母亡き家に実る数珠玉           堀江良子
     今年まだ死なない予感に振り込めり短歌結社の年間会費          宮崎 弘
山下和夫の歌 なよ竹のみどりやさしも雪の背蒼き光の手にとどくほど        山下和夫
作品Ⅰ㋑より
武者人形になった小菊のこがね色働き蜂をあまた集める          小原起久子
掛け軸の「滝」より聴こゆる水の声落下するのは心地よきもの        宮澤 燁
素朴なる装身具よりおおらかな風の立ちくる縄文遺跡           若山節子
自然死とおもえば清(すが)しベランダにころがりいてし蝉のむくろは   森 たま江
しみじみと孤独の自由を味わいてわれの人生少しだけ狂う         牧口靜江
この頃は忘れること増えてきぬ かすみ草の白きがさわさわゆれる     江原幸子
杳き世の我に会わんと来し古墳 石積む我の顕ちて消えたり        石川ひろ
作品Ⅰ㋺より
誰ひとり故人の話をせぬ法事に菊の香が漂ってくる            元井弘幸
のこりたる記憶はすべて蒼い海砂の城山崩れやぶれり           菊池 葩
うつむけるおみなのうなじのうすあおく匂いたちつつ秋に入りゆく     相良 峻
ドラ声で息吹き返 し黒猫がベランダ通る生きていたぜと         石井恵美子
外国(とつくに)を関口知宏(ともひろ)鉄路に廻りゆく戦争の爪痕あらぬ国無し 茂木タケ
昔むかし餅つく兎(ラパン)がパンパンと月を逃げ出し影のみ残こす    赤石美穂
沈みいる心にひとつひまわりを咲かせつつ観る「万引家族」        西村英子
作品Ⅰ㋩
慈雨たっぷり吸いあげひまわり茎太り傘のひろがる咲くならん 花     大場ヤス子
夏空を突く穂高嶺現れり揺れにまどろむ時を蹴散らし           小澤嘉子
断ち切れば可燃ゴミたった一袋還暦までのわが仕事・恋          菊池悦子
千鳥草に長き時間を窓辺より見守られている気がして愛し         小菅喜代子
初ものの栗の皮むく昼下がり 夕餉の飯(いひ)に秋満たすべく      佐藤香林
やわらかき足裏にあてるフェルトの靴底はまだ少し大きい         佐藤真理子
キーパーの指先掠めてサッカーのボールはゴールの網這い上がる      反町光子
野末の新井堀の内館跡(やかたあと)は埋蔵銭で焔燃えたぎる       坪井 功
邪魔立てをする者いない昼下がりBSシネマに会う美少年          萩原教子
振り向ける人のうなじに朝かげの白かりしこと夢のごとしも        藤巻みや子
南禅寺門前に座せば冷えびえと境内より善男善女出でくる         みたけもも
日のほてりいまだ残れる路地の奥遠く花火のかすかに聞こゆ        三浦誧子
風絶えてテラスを透かす月光は汗ばむ指(おゆび)にほのか残れり     木村惠二
二階への階段昇れば一段ずつ気温上がりて夏は闌(たけ)ゆく       天田勝元 
うす紅のざくろのとなりに山吹は三たび狂ひて鮮やかになり        板垣志津子
カーテンの向こうはほのぼの白くなり友の訪ねくる日の明けそめにけり   伊藤由美子
まっぷたつに夕空分けゆく一本の飛行機雲のつくり出す秋         今井五郎
〈大観〉の輝く画道にかくされた暗き時代の素地色深し          江原由美子
1月集
どす黒き左足指見ぬままに医師は画像へ骨折という            佐藤和子
うす紅の桜降る中地に低く首なき石仏に手を合わせたり          﨑田ユミ 
作品Ⅱ
草叢に首の折れたる扇風機今夕かぜを我と浴びている           秋山充利
凌霄花のランタンゆらす木の間風炎暑の部屋に茜色届ける         石田春子
夏雲を映して白きむくげの花は明日を夢見ず今日を咲くべし        井口邦子
「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」平成の終わりの結愛(ゆあ)ちゃん5才の遺文 大川紀美枝
エアコンの効きたる部屋は好まずに風呂場のタイルに猫は「大」の字    川西冨佐子
とんぼ・蝶の姿も見ずに過ぎし処暑蝉のふた啼く一瞬の夏         小曾根昌子
石碑の道のしずくは万葉の石川郎女 君想う歌              櫛毛宣幸
庁舎から見渡す街はモノトーン中に紛れて色を放とう           久保田三重子
いつの間にか冷蔵庫から水漏れて「健康寿命」がちらりとよぎる      清水静子
生きおれば百歳なるや父の声 戦はならずと夢に出でくる         田中理泉
真夏日も猛暑日も越えた日をなに日(び)と呼ぶか どうでもよいか    牧野八重子
好きでしたワカメと豆腐煮干し出し味噌を加えて妻の茶碗で        井出尭之
冬枯れの庭に咲いたる一輪の水仙の黄天を向きいる            高橋眞佐江
長岡の花火大会にはなやげるテレビの前に猛暑を忘れる          中山幸枝
題詠「靴」
終活とはさみしき言葉 無器用に生きし男の靴捨てられず         牧口靜江
似たひとを見かけて走ったパンプスの跡が残れる外反母趾に        菊池悦子
今までもこれからも履く機会なき繻子のハイヒールは戸棚の奥に      堀江良子
平らなる靴底ばかりひしめけりプラットホームのサマーサンデー      相良 峻
長靴が無くて学校を休んだ日たしかにあれは大雪の朝           板垣志津子
暮れなずむ地表を歩めば果てし無く一粒の砂靴より零る          みたけもも
わら沓をはきて登校六歳の足に重たく雪の道に転ぶ            大場ヤス子
夕焼けに向かって放った運動靴 はるか彼方の「あーした天気になーれ」  石川ひろ
むくみに合わせ買い換えし白靴は真白きままに もう七回忌        佐藤真理子


HANI2018年11月号 NO252目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「思う」 宮崎 弘
15首詠     石川ひろ・江原幸子
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1979年11月号より
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載55  小原起久子
11月集     天田勝元・茂木惠二
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 15 [虚実皮膜の間に] 山下和夫
作品Ⅱ     下記により抄出
題詠「ハンカチ」下記により抄出
特集 宇宙・空について『山下和夫の「空」』 森 たま江 「宇宙へのまなざし」 藤巻みや子
一首鑑賞   板垣志津子・茂木惠二
ことばのページ 「旧仮名と新仮名」 堀江良子
ESSAY 「ばうんど」とは  大場ヤス子
玉葉和歌集(抄)1     時緒翔子
『炎の女たち』古代編(25)     山下和夫著
ばうんど
2018年7月号作品評作品Ⅰ評     元井弘幸
15首詠・月集評           赤石美穂
作品Ⅱ・題詠評           若山節子
ブログより「こころに効く短歌」 山下和夫歌集『谷恋い』より7 小原起久子
編集後記
表紙絵担当  若山節子

会員作品 11月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠
カレンダーの真白な一日放たれて我が内の青空(そら)追いかけてゆく   石川ひろ
わが庭の日当たりの良き石の上にどこかの猫がのったりと居る       江原幸子
山下和夫の歌
夜の水をさしのぞきいる背面に鋭鎌の月の刃のせまりくる         山下和夫
作品Ⅰ㋑より
茜色に吸われるひとつ時の鐘 一番星にとどき灯るも           小原起久子
億年をかけてわたしに会いに来た石垣の間ゆ芽生えたる羊歯         宮澤 燁
背を丸め赤城おろしに負けぬよう息をはずませ踏みこむペダル       若山節子
薄き雲に覆われたる脳(なづき)かな友のひとみに友なるわれ失(な)く   森 たま江
追憶のひと日に鍵をかけしまま死なんと思う 茶柱の立つ         牧口靜江
同行の仲間にはぐれゼブラゾーンにザラついている夕闇を踏む        堀江良子
真白なあじさいの鉢抱く胸がさつきの空を飛び跳ねている         佐藤和子
葉桜に紅白映えるハナミズキ暫しの平和を想わせる時           宮崎 弘  
作品Ⅰ㋺より
死を思い現に戻りし数秒にフレンチトースト焼きあがりおり        元井弘幸
水無月に黄金色した土用芽が樫の高処に見ゆ 梅雨あがる         菊池 葩
早瀬あり遅瀬もありてひたすらに渓流涼しく流れいるなり         相良 峻
身に生れし帯状疱疹とう魔物卆寿なる生に抗いおるか           茂木タケ
物産展に糠漬けの沢庵みあたらず試着室がさそう値引のジャケット     赤石美穂
たばねたる一束の藁にはずむ雨リズム確かに歌かもしだす         西村英子
作品Ⅰ㋩
飛騨みやげは二本の赤き和らふそく長き炎は黄泉へのしるべ        板垣志津子
「真面目君」と陰で呼んでる介護士のホラホラ来ました服薬時間      伊藤由美子
晴れ渡る富良野の空の紺青を盗みて丘のラベンダーは咲く         今井五郎
最南の波照間島の公園に立つ碑の日の丸海見つめおり           江原由美子
啄木の「初恋」歌うテノールは吾が恋知るやリフレイン響く        小澤嘉子
花言葉「パピネス」ジニアの種を蒔く図鑑片手にプランターの中      菊池悦子
幽かなる亡姉の声する初彼岸目覚めて遠きせせらぎを聴く         﨑田ユミ
赤ワイン夕餉に飲みていかほどの寿命伸ぶるや 白桔梗開く        佐藤香林
マンドリンの細きトレモロ流れきて雪明りの道口ずさみゆく        佐藤真理子 
連翹の咲く大手門を抜けゆけり消防自動車ゆっくり無音に         反町光子
恒例の老人ホームの家族会言の葉はずむ温き風流る            坪井 功
タラップの花の香鼻腔に残しおき新婚の旅遠くなりたり          萩原教子
一年生両手広げて縋りつく「せんせ、いいにおい」われも若かりし     藤巻みや子
雨の中爆ぜながら歩いてゆこう 神の不在の暗闇の地球(てら)を     みたけもも
11月集
初めての日本一周電車旅 車内案内日英中韓               天田勝元 
付きまとうもめごとひとつを方程式の解法にあてはめている        茂木惠二
作品Ⅱ
潤いの消えたる頬にクリームを鏡の中に塗りたくりいる          秋山充利
梅雨入り前の朝陽射し込む恩恵にシャワーの虹を顕たせておりぬ      石田春子
春めぐり椎の花咲く遠州路行き交う人は皆笑み栄ゆ            井口邦子
我が庭の特等席の赤松を伐るときめたる夫の眼差             大川紀美枝
一面のひまわり畑三万本分け入れば吾は新種のヒマワリ          久保田三重子
一樹のごと並べるつばき赤白のひかり反して朝のひざしに         小曾根昌子
ふまれてもふまれてもなお根を張りて黄金の初夏の風を夢みる       櫛毛宣幸
雨の中友の拾ひし捨て猫のじっと吾を見る一匹を選べり          清水静子
陸橋を上り下りする少年に五月幟は空におよげり             田中理泉
しげこから梅香院と変わりては手向けし時に声を出すのみ         井出尭之
手のひらは我顔記憶すこの朝に齢(よわい)を一つ重ねたりしも      川西冨佐子
垣根より紅バラ一輪はみ出して冬陽を浴びおり家主の如く         高橋眞佐江
競い合うカラオケの音春祭りにぎわい絶えぬテント広場に         肥田芳枝
亡き母の植えし鉄線の大輪にありし日の笑顔の顕ちてくるなり       中山幸枝
母の日に子等の馳走をあずかるも四十年の親業いかにか          牧野八重子
題詠「ハンカチ」
転校の友が改札通るとき涙を拭きしスフのハンカチ            板垣志津子
ひとり乗り往きて還らぬ特攻兵白いハンカチ巻きて律律しく        大場ヤス子
輪になってハンカチ落とす遊びなどふと想ひ出す汗ぬぐひつつ       佐藤香林
ハンカチの木の苞ひとひら拾い上ぐ茶に残されし登山靴の跡        小澤嘉子
会見のアメフト選手矢面に潤む眼を拭きてやりたし            﨑田ユミ

HANI2018年9月号 NO251目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「ボケ防止と自己学習」 元井弘幸
15首詠  赤石美穂・西村英子  下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1979年第16号
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載54  小原起久子
9月集     矢島由美子・﨑田ユミ
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 14[「や」「か」 山下和夫
作品Ⅱ     下記により抄出
特集 転体について
「転体の魅力」    小原起久子
「劇的な変化」    佐藤真理子
一首鑑賞   今井五郎・反町光子
題詠「電話」
ブログより「こころに効く短歌」    山下和夫歌集『谷恋い』よりⅥ 小原起久子
御裳濯河歌合(21)         時緒翔子
『炎の女たち』古代編(24)     山下和夫著
ESSAY 「私のうたはじめ」 板垣志津子
「短歌だからこそ」 小澤嘉子
春季歌会報告     今井五郎  
ばうんど   
2018年5月号作品評作品Ⅰ   宮澤 燁
15首詠・月集評        相良 峻
作品Ⅱ・題詠評         藤巻みや子
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当  若山節子
会員作品 9月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠
蝉丸をめくりて嫌がる笑い声おさなが炬燵に百人と遊ぶ        赤石美穂
種を播く除草剤蒔く水を撒く春耕とり巻くみどりの日射し       西村英子
山下和夫の歌
天空へ翔ばんとする日鮟鱇の青き眼は喪われたり           山下和夫
作品Ⅰ㋑より
春浅くオレオレ詐欺の受け子には墓地の近くと住まいを告げる     小原起久子
言霊のさきわう国なり あることはないことにないことはあることに   宮澤 燁
わが余生いかほどあるや天秤に母の齢を分銅として          若山節子
列島に桜花あふれて喜寿となる この世に余る生なるさびしさ      森 たま江
沐浴は小皿の雨水小雀の羽たたくたびに光は生まれる         宮崎 弘  
スケジュールつまれる先へわが寿命少し伸びたり 服買いにゆく    牧口靜江
明日伝えるための君のいなかった夏の日がバッグの中で発酵始む     堀江良子
ぼんぼりの花びらまわる橙の陰に見えたり廃炉いまだの原発       佐藤和子
片耳に金のピアスを光らせた若きがユンボに土掘り起こす        江原幸子
雪に遊ぶ男(お)の子の赤き頬っぺたに雪の花びら舞い散りやまぬ    石川ひろ
作品Ⅰ㋺より
深酒に目覚め夜明けの厨に立ちてバナナほおばるわれはナニモノ    元井弘幸
ひるがえるツバメの軌跡目で追えば不透明なる非核化外交       菊池 葩
真綿もて締めらるる身よ鳴動しやがて荒らぐ砂塵となりなん      相良 峻
掘り進む工事現場の粉砕を鎮める東京地下のみずおと         池内紫萃 
死に瀕する白鳥(はくちょう)となるバレリーナ指(おゆび)に命かそか点(とも)して 茂木タケ
隣室の人の持ちくれし野の花のやさしく揺れる夫の命日        伊藤由美子
作品Ⅰ㋩
気が乗らぬままに過ぎゆく初夏の午後つるインゲンは上昇志向     江原由美子
熱を顔に受けつつ覗く魚焼きグリル朝の厨の我は職人         大塚美奈
巻き角の羊の臀部大樹茂り猿二匹遊ぶ羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちびょうぶ)   大場ヤス子
あらがわず我に抜かれしホトケノザ細き根ふふんと干からびてゆく   小澤嘉子
緑濃き剣葉に白き袴着け車道の端に咲けり水仙            菊池悦子
全霊を傾け咲きし桜花 幕引くように花びら散らす          佐藤香林
ゆきちがう男の子の大きな「こんにちは」ひと日の耳朶の温もりている 佐藤真理子
触れたきことなき扉ありひとつ開け自由の女神の足下(あしもと)に立つ 反町光子
つぎつぎと挨拶交わし頂に到達すれば身内震える           坪井 功
丹念に畳まれた薔薇の包み紙亡き母の昭和が引き出しにある      萩原教子
渓を隔て触れざればなお色に酔う岩肌に群れるあかやしおの花     藤巻みや子
春雨の音を聞きつつ初恋の痛みを思う シュールなる午後       みたけもも
蕗味噌を作る手順は母ゆずり春一番の吹きすさぶ夕          三浦誧子
春光(はるかげ)に追い越されていま産土(うぶすな)の街にミルクコ―ヒー飲みいる 茂木惠二
六年の修学旅行米一合持ちて三崎の宿に泊まりぬ           天田勝元
就活は終はりましたと瑞みづしきコルテラインを見せてお出掛け    板垣志津子
アジを干す港に戻る釣り舟の釣れないわれをゆらす夕波        今井五郎
9月集
脳内に隠したる電池の切れた為降り来る雨に身動きできぬ       矢島由美子
君在らば年男なる八十四歳下弦の月も今宵は身近           﨑田ユミ
作品Ⅱ
母の命日に供えたる菊 春光の下お墓の瓶に枯れはてている      秋山充利
花粉飛ぶ桜並木に逢う友のマスクの顔が季節を語る          石田春子
音もなく散りゆく桜重なりて湖面に浮きて私を誘う          井口邦子
鬼灯を包める宿存萼(がく)は網籠に赤き実宿すランプシェイドに   大川紀美枝
実を裂きて植えて間近に芽を出せば二月余りでジャガ芋の花      櫛毛宣幸
凍空に少女のような赤い月雲のすき間へかくれんぼする        川西冨佐子
卯の花の仄白き夜はシャガールの仔馬に乗って青き月抱く       久保田三重子
満開の桜に会いにゆく旅は精一杯咲くけなげを知る旅         清水静子
赤城嶺の東風吹く坂の板塀に九条守ろうのビラ揺れおり        田中理泉
初孫にチョッキとセーター編んだのです義母(はは)は節くれ立つあの指に 牧野八重子
住職の流れるような読経に威厳の所作を興す脇僧           井出尭之
白内障の執刀医の「始めさせていただきます」の声 我は内心ビクビクしている 高橋眞佐江
堤防を背に輝ける花筏水面にうつし紅色に染め            肥田芳枝
毛筆で祝白寿と伯母に書く伯母に続けと願いつつ書く         中山幸枝
題詠「電話」
金メダルの一役担う呼びかけにボックスに入れる携帯電話       若山節子
今われにAI スマホは縁なくて彼の世に通じる携帯持ちて       牧口靜江
お見合いの話に入ると「勤務中」またも切られた息子への電話     今井五郎
「送ったよ」母の電話に一日待ちしふるさとの栗弾けて届く      田中理泉
電話伝う声を息子と聞きしかば待ちて帰らず詐欺電話らし       大場ヤス子
門柱に電話番号プレートを付けた邸宅に級友住みおりし        板垣志津子

HANI2018年7月号 NO250目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「言葉の力」 若山節子
15首詠  菊池 葩・池内紫萃  下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1979年1月号
作品Ⅰ    下記により抄出 山下和夫の歌連載53  小原起久子
7月集     宮崎 弘・反町光子
作品Ⅱ     下記により抄出
一首鑑賞    江原由美子・西村英子
特集 都市の歌
「多彩な素材」     赤石美穂
「素材への視座」    石川ひろ
ことばのページ 「間違えやすい送り仮名」 堀江良子
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 13「言葉の反復対応のおもしろさ」 山下和夫
ESSAY 
「あなたにとって短歌とは?」 矢島由美子
「必然的出会い」       﨑田ユミ  
題詠「橋」   板垣志津子・石井恵美子・江原幸子・矢島由美子・大場ヤス子
ブログより「こころに効く短歌」その5    山下和夫歌集『谷恋い』よりⅤ 小原起久子
御裳濯河歌合(20)         時緒翔子
『炎の女たち』古代編(23)     山下和夫著
ESSAY  「うたと私」 秋山充利  
「螺旋階段」 田中利泉 ばうんど   池内紫萃・元井弘幸・小澤嘉子 共選
2018年3月号作品評作品Ⅰ評    堀江良子
15首詠・月集評          小原起久子
作品Ⅱ・題詠評            佐藤香林
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当  若山節子
会員作品 7月号より 作品中のふりがなは作者による
15首詠
ひしひしと疎林の枯葉ふみしだく音まっすぐに加速してくる  菊池 葩
冬空に花粉ひそかに来たるらし見えない春に手を泳がせる   池内紫萃
山下和夫の歌
廻り来るブーメランが描く軌跡なめらかならぬ幾所見き    山下和夫
作品Ⅰ㋑より
袋の中に年越え眠る花の種 月冴え冴えとあなたは居ない   小原起久子
右折キンコン♪前進ガタビコ🎶後進ピーピーΩ車体は吾だ    宮澤 燁
見え透いた嘘と知りつつ頷くものどぐろを焼く君の夕餉に    若山節子
鈍色の春はのぞけり猫柳の花穂やわらかに危うき世にも     森 たま江
つゆ晴れを多(さわ)に開きて紅薔薇の光を返すまばゆき声す  堀江良子
妹の心療受診終えてのち枯蓮見つめ明日へつなげる       佐藤和子
公園の桜切られて薄紅の春の陽ざしは隅までとどく       江原幸子
がんばれは安易な言葉 何もせず座りいる背中が頑張っている  牧口靜江
それぞれの保身抱えて漂える一艘の小舟 日本丸何処へ     石川ひろ
作品Ⅰ㋺より
ぐんぐんと綱引く犬の背筋を妬みて歩を止め空を見るふりする 元井弘幸
日曜の大手町のまひるまを寄り添いくつろぐデスクとチェアー 相良 峻
東京を追はれたるやうな心地して春まだ浅き前橋上小出(かみこいで)石井恵美子
老いて身は子に従わんと腹を決め息の焼きくるる肉噛み砕く   茂木タケ
ま昼間の銀河を俯瞰するようにネモフィラの丘をまなこが歩む  赤石美穂
ヒイラギの刺になりたる胸のうち温き焼きいも夫とわけ合う   西村英子
作品Ⅰ㋩より
開発の決まりし畑に草茂る精農多きわが故郷も         天田勝元
やまなみはしろがねに光り青空に黄色輝ける福寿草在り     板垣志津子
「愛」という調味料たっぷり入れて作りくれし味噌汁の味今も忘れじ 伊藤由美子
夕ぐれて庭に伸びたるわれの影まっすぐなれどストレスの有り  今井五郎
縁側で針仕事する祖母がいた 針箱は今手箱となりぬ      江原由美子
如月の空へと向かう新品の凧まだ淡き影を率いて        大塚美奈
那古寺の千手観音の傍に来て仏の眼に心託する         大場ヤス子
故郷の友の油絵の賀状の川の辺を五十年ぶりに友と並びみる   岡本達子
プチプチと潰してみたい ビル街を整然と行くビニール傘の弧  小澤嘉子
鬼やらい母準えてわが昭和 いわしの頭を柊に挿す       菊池悦子
春の小川水鳥の姿すでになく枯葦ゆらし鳥鳴くばかり      小林モト子
「判ったら握り返して」と握りたる姉の手にある金輪際の力   﨑田ユミ
初蝶の野に隠れつつ低く飛び畏れるごとく飛翔たしかむ     佐藤香林
オリオンの星の間よりシルエットとなりたる柚子をもぎとる   佐藤真理子
結愛ちゃんは度度泣きじゃくり蹲りし温き浄土で燥いでいるや  坪井 功
食卓にむき出しの札残しおき夫は出掛けるわが誕生日      萩原教子
片空を緋に染めゆくを恋と謂はむ直進し散乱するものをこそ   藤巻みや子
紫陽花の影くっきりと刻む壁 ドアに閉ざせばすべてうたかた  みたけもも
柱時計乱るるもなく今日もまた待合室の患者みており      茂木惠二
7月集より
ドラ焼きのマロンと小倉を決めかねて老いの時間を掠めとられる 宮崎 弘
まな板に包丁の音いっせいに響かう豚汁二百五十人分      反町光子
作品Ⅱより
鵯一羽ひと声啼いて飛びゆけば木守り柿に群雀くる       秋山充利 
除夜の鐘強力非力打つ音は闇を震わせ天空に行く        石田春子
立春に大寒波の来る予報寒波よ去れと福豆を撒く        井口邦子
水車場で母の言いつけ幾たびか触れてみたくて歯車による    櫛毛宣幸
母逝きて十日後の地震(ない)停電の闇に母顕ち七年が過ぐ   小曾根昌子
シルル紀のウミユリ化石に見入る日は空を見上げる深魚とありぬ 清水静子
遠き日に訪いし啄木の墓ちかく立待岬に咲きしハマナス     田中理泉
コスモロック春夏秋冬いつ来てもみなとみらいに花火があがる  井出尭之
一年の計も立たずに小正月静けさのなか眉を引くなり      川西冨佐子
肺に入る冷気を温めるような色 大空に灯るロウバイの黄    久保田三重子
梅雨の日に八重のアジサイしんなりと雨に打たれて花音垂れる  髙橋眞佐江
陽は落ちて屋上に映ゆ三日月を親しき友と眺めて見たき     肥田芳枝
水仙は睦月なかばに芽を出しぬ春の仕度は吾を追い抜き     牧野八重子
題詠「橋」より
ちち・ははに・きみに逢いたしいつの日か三途の川に橋がかかれば 板垣志津子
叱られて橋の下から拾ひし子と言はれた記憶の橋は茫茫      石井恵美子
わが町の小川にかかる木の橋は朽ちかけていて色よく馴染む    江原幸子
昨日とは違う自分と出会う為今日も新たな橋渡り行く       矢島由美子
虹の橋渡って逝った特攻兵みな振り向かず還ってこない      大場ヤス子

 

HANI2018年5月号 NO249目次

MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「短歌と辞書」 森 たま江

15首詠  若山節子・佐藤香林  下記により抄出    

山下和夫の歌 下記により抄出  埴1978年第10号

作品Ⅰ    下記により抄出

山下和夫の歌連載52 歌集『耳』 小原起久子

5月集     佐藤和子・大場ヤス子

作品Ⅱ     下記により抄出一首鑑賞 天田勝元・宮澤 燁

特集 結句について 「結句の効用」 池内紫萃 「結句の深さ、楽しさ」  江原幸子

ESSAY 「歌の力」 藤巻みや子

第18回プログレス賞受賞作品 あんたがたどこさ 西村英子 

同作品評 赤石美穂  菊地 葩  小曾根昌子      

「のづかさ」 昨日はむかし 関根さつき

 題詠「髪」   板垣志津子・久保田三重子・相良 峻・大場ヤス子

ブログより「こころに効く短歌」その4    山下和夫歌集『谷恋い』よりⅢ 小原起久子

ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析Ⅲ」より 12「句切れはダイビングボード」  山下和夫

御裳濯河歌合(19)         時緒翔子

『炎の女たち』古代編(22)     山下和夫著

ばうんど   矢島由美子・石井恵美子・今井五郎 共選

サークルにおける勉強風景その6  小原起久子

  2018年1月号作品評 作品Ⅰ評     牧口靜江
  15首詠・月集評            宮崎 弘
  作品Ⅱ・題詠評            小原起久子  
  新刊紹介
  編集後記
  表紙絵担当  若山節子

  会員作品 5月号より 作品中のふりがなは作者による
  15首詠
   あからさまに言えぬ心のわだかまり 糸すじ見えぬ高機を踏む 若山節子
   家猫の驚きやすき耳双つ立ちて木枯し星を磨きをり      佐藤香林
  山下和夫の歌 
   夜叉の目をのぞけば春の紅に肩よせあいて骨ふたりいる    山下和夫
  作品Ⅰより  
   あなたからよく見えるよう少しだけ高いところに来ています   小原起久子
   死の商人死を売る商人あくしゅする共に青無地のネクタイしめて 宮澤 燁
   老木となりし栗の木ひしと立つ娘らの〈生家〉の記憶守りて    森 たま江
   しかすがに枝剪り落された街路樹は北吹く風に揺るぎなく立つ   宮崎 弘
   小康の母の枕辺のソーイング花の香りも共に綴じいる       堀江良子
   やさしげに黄色いバラをさし出して「きれいでしょ、あげる」 棘が痛い  江原幸子
   孤独とは仲間の中で生れるもの集合写真の満面の笑み       牧口靜江沈
   丁花の香が我によびもどす二十歳(はたち)の時見た真青な空   石川ひろ
  〈山茶花〉とうありふれた名前のスナックに老いたママいる 相応しき 元井弘幸
   白菊の香が手にあまり手向けゆく道に手触るるえのころ傾ぐ    菊池 葩
   わが家の屋根に蹴り上げられし男児の靴そのまま置かれ誰も気にせず 遠藤良子
   春の陽を浴びて彼岸の奥津城はパステルカラーに染まりつつあり 相良 峻
   ひとひらの朽ち葉ま直ぐに落ちてゆけり小沼の深き群青の空   石井恵美子
   試乗会に音なく閉まる高級車降りれば車カタログに戻る     池内紫萃
  「母の胸に眠れ」とうたう子守唄まなこ冴えゆくわれとわが身に  茂木タケ
   遠き日のクリスマスツリーを灯しいる媼ひとりの静かなる賑わい 赤石美穂
   矜持とうやっかいなものがふつふつと今宵のねむりの瞼に残る  西村英子
   木枯しの吹き初めし朝のウォーキング歩数計は時を速める    みたけもも
   いつもより少し早めの風呂に入る梅雨の時間の椿耀ふ      天田勝元
   日本に二十三年ペルーには帰りたくないバス停の椅子で     板垣志津子  
   長身の膝折り曲げて目を合わせ利用者の話聞きおる若き管理者  伊藤由美子
   日記書く窓辺に昇るスーパームーンの黄色のため息耳すまし聴く 今井五郎
   夕暮れのグラデーションから取り出した薄紅を頬に昇る階段   大塚美奈
   銀杏の葉庭一面に散り敷けりよそ事ならば愛でてながむに    岡本達子
   言い負けて眠れぬ温き春暁(しゅんぎょう)に神様も時に居眠るを知る 菊池悦子
   カーテンを開ければ直に見られてる秋の満月鏡のごとし     小林モト子
   大木の柿の枝に成る赤き実を孫は見ばえを優先し伐る      斎藤幸子
   機織りの杼をくぐらせるその度に紫のひかり膝にこぼれぬ    佐藤真理子
   うばゆりの実りの数個のみどり色茎高くして君へのシグナル   﨑田ユミ
   沙羅(なつつばき)の枝に干涸(ひか)らぶ鵙(もず)の贄(にえ)まひるの日差しやわらかに差す                                                      反町光子
   訪うたび顔触れが替わるホームにてしばし佇み瞑想したり    坪井 功
   故郷のなだらかな山に向い行く幼なじみの母堂の葬る葬り    萩原教子
  5月集より
   秋陽さす方丈の間に流れくる歌を読む声障子ふるわす      佐藤和子
   曳かれ行く犬の満足戌の年プラス思考を学ばねば 春      大場ヤス子
  作品Ⅱより
   挨拶にどうもどうもと言われてもどうもの記憶の綱をさがせぬ  秋山充利
   イルミネーション見たくて走る国道の下家路を急ぐ一すじの赤  石田春子
   高令の人なき屋並寂しかり 水木の種を拾いて数(かぞ)う   井口邦子
   十二人の孫に囲まれわが母は健脚語り百歳めざす        井出尭之
   固まって路肩に咲いたコスモスとかるくおしゃべり 花友となる 江原由美子
   雨あがりアガパンサスの水滴は紫陽花のうす紅を宿しぬ     大川紀美枝
   生け垣をくぐりし野菊の列ゆれてほがらかに咲く地上五センチ  小澤嘉子
   八束山妻と登りて汗すれば羊太夫の大き足跡石         櫛毛宣幸
   難民の救援依頼にうかびくるわが引揚げの無蓋車の闇      小曾根昌子
   外出用部分ウィッグ付けし日は一つ秘密の増えてゆくらむ    清水静子
   山峡の畑に麦踏む祖父の背に夕日沈みぬ影もろともに      田中理泉
   陽だまりの小さき丘に蝋梅は香り深めつつそっと散りゆく    肥田芳枝
   めくり見る極月の暦シスレーの描く小道に雪降りつもる     藤巻みや子
   似ているね 怒鳴るところも転職も親子二代のO脚歩行     茂木惠二
   旅先の山脈(やまなみ)縁取る落日をいつまた見るやこの家族らと 川西冨佐子
   ひしひしと冷気がわれの輪郭を厳しくなぞる晩秋の朝      久保田三重子
   卯の花の香り漂う校庭にドッジボールの歓声集う        高橋眞砂江
   夕餉どき独り住まいの息子より用事などない切れない電話    牧野八重子 
  第18回プログレス賞(「あんたがたどこさ」30首)より
   わが冬の日日灯すべきシクラメン花屋に選ぶ赤色白色      西村英子
  のづかさ「昨日は昔」30首より
   紫陽花の群落蒼きスロープを風の音階のぼりゆくなり      関根さつき
  題詠「髪」より
   まつ白な髪になるほどDDT吹きかけられし戦後の学校      板垣志津子
   横たわり帽子を被る病む友の視線はわれの染めし黒髪      久保田三重子
   皺深め白髪の母が笑み掛けるベッドにひとりの夜を乗り越えて  相良 峻
   ははそばの母の織りたる絹物のほつれて交じる黒髪あわれ    大場ヤス子

HANI2018年3月号 NO248
目次 MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC 「遠くまで届く声」 相良 峻
30首詠 相良 峻
15首詠  牧口靜江・佐藤真理子 下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  埴1978年第9号
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載51 歌集『耳』 小原起久子
3月集     小池心子・今井五郎
作品Ⅱ     下記により抄出
ことばのページ twice 助動詞「き」森たま江
特集 素材について「素材を活かす難しさ」  元井弘幸
         「素材の使い方」     矢島由美子
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析」より  「瞬間を詠む」     山下和夫
一首鑑賞 大場ヤス子
題詠「糸」  天田勝元・池内紫萃・板垣志津子・大場ヤス子
       菊池悦子・佐藤真理子
サークルにおける勉強風景その6  
小原起久子ブログより「こころに効く短歌」その3 山下和夫歌集『谷恋い』よりⅢ 小原起久子
『炎の女たち』古代編(21)     山下和夫著
御裳濯河歌合(18)        時緒翔子
ESSAY「やり残し」           宮崎 弘
   「好きなことがしたい」      江原由美子
ばうんど   佐藤和子・江原幸子・石川ひろ共選
11月号作品評 作品Ⅰ評             西村英子
       15首詠・月集評         森たま江
       作品Ⅱ・題詠評          反町光子  
秋季研修会報告          宮澤 燁
ESSAY 「新制中学時代」      板垣志津子
編集後記
表紙絵担当  若山節子
会員作品  3月号より
  30首詠
   三度目か 挽歌つぶやく身となりてガラスの館のガラスの存在      相良 峻
   15首詠  「もう一度」を取り戻せずに過ぎてゆく 百日紅は寺に華やぐ  牧口靜江
        スマホいじる若きに挟まれ用のなき既読のメール読み返しいる 佐藤真理子
   山下和夫の歌 なめらかにホースの中を走りくる水の断面刃の光もつ     山下和夫
作品Ⅰより  
花の金曜日からプレミアム・フライデーへああ金星がきれいだ 小原起久子
母逝けり赤子が笑う山が笑う吉野の川のせせらぎわらう    宮澤 燁
群がりて空かきまわす椋鳥は潮(うしお)のごとく塒をめざす 若山節子
傾きしコスモス一花冬晴れに残されており わが歩む道     森 たま江
蚊を打てば真っ赤な飛沫、わが血なり ミサイル飛んだ北空の青 宮崎 弘
初めての発語は「んご」幼子が両の手に持つ真っ赤な林檎     青木晶子
壊されしビルの瓦礫を根の元に空の無限を桜満開         堀江良子
秋雨の朝(あした)を独り歩く道白き芙蓉に英気授かる     佐藤和子
たわわなる金柑の実のそれぞれが陽を黄金に空に返せる      江原幸子
朝鳥が一声一声鳴いている ていねいにマフラーのほつれ繕う   石川ひろ
空海の拓きし池に来てみしが空海はおらず村人も死ぬるか    元井弘幸
ちさき花うたがいもなく遇えた花繁殖の強き帰化植物とは    菊池 葩
露地に遊びいし子らみな育ちたる冬の午後 人恋うように飼犬が鳴く 遠藤良子
はなみずきの色づきまだらベランダに素足のままの足首が冷ゆ   石井恵美子 
艶を捨て塵にまみれてなおも咲く国道沿いの夕化粧        池内紫萃
ムンクは何を叫ばせおるや自主性の無かりし己れを吾(あ)は嗤いおり 茂木タケ
竜馬の渡りし海の見える道赤きスカートの「ポニョ」が駆けゆく 赤石美穂
夜半の震地に蛍光燈の紐揺れる八十路となればやたらに揺れぬ  三越誧子
コロコロと丸くなりゆく団子虫変身願望われにもありき     みたけもも
暑き日のいまだ続けど蝉の声いつしかやみて虫の音となる    天田勝元
縁側は向かう三軒お茶飲む場南天の実に鵯が来てゐる      板垣志津子
一票で体制の変わるとは思わねど投票にも行けぬ入居者の我   伊藤由美子
初霜の知らせに引き出しを開けば零れるマフラーの鴇色と冷気  大塚美奈
赤い赤い(アカイアカイ)夕陽が沈む追いかけて砂を駆けたし房州の海  大場ヤス子
雨水が地に浸み込める場所さがしコンクリートの上走り行く   岡本達子
七十路の従姉は伯母と生き写し 二十歳の雪肌知るは安達太良  菊池悦子
紅葉の林の中のベンチの端に嘴細カラスは彫刻となる      小林モト子
黒蟻が二センチあまりの虫曳きて登る花壇に女王蟻いるや    斎藤幸子
今は亡き娘と行きし香具山神社入り行く杜へ影をともない    﨑田ユミ
民族館に居場所を得たる道具たち 卓袱台のまはりつましき笑ひ 佐藤香林
睡蓮の一輪白し水の面の静まりゆける今を咲きいる       反町光子
雅楽谷(うたや)の森遺跡フェスタはそちこちに縄文人が火おこししている 坪井 功
早朝を境界こえて草を引くいつものならいとためらいもせず   西村英子
窓を開け飛び立ちましょうと誘われ翼を拡げる体操教室     萩原教子
3月集より
木漏れ日を背に受け一人森の中落葉踏み分け音立て歩む     小池心子
公孫樹の黄際立たせいる青空をカーテン開けて洋間に引き込む  今井五郎
作品Ⅱより
駅前でデートの振りして時計見る ほどなく去れり土曜の夕暮  秋山充利
曼殊沙華燃えおり田の畦歩みいる媼に赤き靴をはかせて     石田春子
はじめから爺婆だったと孫は言う若き日を捨て婆ちゃんになる  江原由美子
庭先きに癒す薬効枇杷の木が今年初めて白き花咲く       櫛毛宣幸
吐く息に疲れを散らしつつ分け入りし乗鞍岳の秋の清しさ    小澤嘉子
核兵器禁止条約 国連の議場の席に折鶴あれど        大川紀美枝
南天の絵の上紙の折詰の温かり 友の消息          小曾根昌子
堀わりの水はしぶきと天へ噴き緑芽吹きのまぶしく光る    田中理泉
立ちて見る 萩の丸葉を次々に秋の雨粒滑り落つるを     藤巻みや子
あちこちに諍いの種ありまして夫なるわれは口を閉じゆく   茂木惠二
連休の住宅街に秋陽満ち黄昏近くも灯火(ともしび)ポツリ   井口邦子
公園に続く近道雨上がり駆け来し君はガムを手渡す       井出尭之
身を晒(さら)し黄金の稲を守り抜く案山子ありたりイケメン男子 川西冨佐子
いつの間に侵入したのかコオロギは月夜の寝間を虫籠にする    久保田三重子
榛名山噴火のテフラいただけり 人馬すべて飲みこみし灰     清水静子
冬の朝いそいそ乗り込む中古車のフロントガラスに氷の花模様   高橋眞砂江
野辺に咲くうす紅色の小さき花健気に見えてあたしは嫉妬     牧野八重子
題詠「糸」より
女郎蜘蛛ぐるぐる巻きにしたる蜂を糸にぶら下げ近づきて行く  天田勝元
手首には千切れたままの赤い糸色なき風をふわり泳げり     池内紫萃
衣料切符の時代は糸も点数で木綿縫糸一把一点         板垣志津子
絹糸の粉粉になるを保存せる正倉院展の屏風鮮やぐ       大場ヤス子
双り児が「あのね」と告げきし糸電話縺れ潰れてゴミと呼ばれる 菊地悦子
ほどきたる黒靴下を糸としておむつ縫いしと義母の戦後は    佐藤真理子
HANI 2018年1月号
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC 「言葉の園」 堀江良子
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1978年第8号(冬季号)
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載50 小原起久子
1月集     元井弘幸・大塚美奈
作品Ⅱ    下記により抄出
一首鑑賞 小曾根昌子・小澤嘉子
特集 抽象と具体について
「抽象を述べるための具体」     小原起久子
「現代短歌における〈抽象と具体〉」 森たま江
ONE MORE ROOM「現代短歌作品解析」より  「見えるもの、見えないもの」 山下和夫
のづかさ 「枇杷」 大場ヤス子
ことばのページ twice 助詞の「の」と「が」森たま江
サークルにおける勉強風景その5 小原起久子
ブログより「こころに効く短歌」その2 小原起久子
題詠 穴 御裳濯河歌合(17) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(20) 山下和夫著
ESSAY「言い訳」    今井五郎
「感謝の気持ちを詠む」  坪井 功
ばうんど
5月 号作品評  
作品Ⅰ評     若山節子 15首詠・月集評 江原節子  
作品Ⅱ・題詠評  佐藤和子   編集後記
表紙絵担当    若山節子
会員作品  1月号より
15首詠より  奥の歯の一本抜かれ口中を舌に探れば土葬する穴          石井恵美子
落ち鮎を食べいる簗の川かぜは〈カスリーン台風(カスリーン:ふりがな)〉を知らないダム湖につながる 今井五郎
山下和夫の歌 なみなみと水賜りぬ雪原の雪の中なる井のま闇より          山下和夫
作品Ⅰより  
ひと夏に終える命を採取して留めおく小さき虫ピンの先        小原起久子
青空はすき間だらけだ鳥が飛びミサイルが飛びミカエルが飛ぶ      宮澤 燁
寒空にラッパ水仙はや咲きて庭あかるます春のイントロ        若山節子
一匹の野良猫のためエノコロを揺らして吹く風 平和というは    森 たま江
小走りの鶺鴒停まり尾を振ってそれはきれいなみず色の朝       宮崎 弘
ミーンミーンミーンミーンと蝉声はげしき樹の下に蟻の群がる空蝉ひとつ      青木晶子
新品のランドセル負い走り入る黄色い帽子の子鬼の列に        堀江良子
憎しみを消す合歓の花うす紅の糸のようなる傘をひろげて       佐藤和子
いつまでも夏日の続く秋にして吾が脳細胞は乱れているも        江原幸子
燃え尽きた一葉一葉を落としつつケヤキはすっくと天に還らん      石川ひろ
石楠花の花より丸き風を飲むわたしには無き紅の風          赤石美
穂雨よりも先にテレビの避難指示マスカラ塗りつつ今朝も聞きおり    池内紫萃
後ろ姿見せ帰り行く人は誰声かけそびれたる背に手を振る       遠藤良子
隣国の狂気はいかにあけはじむ 警報アラームAM六時十五分      菊池 葩
初転倒して見上げいる天井の杉板模様のてんでんばらばら       相良 峻
「九十歳何がめでたい」アッハッハッハ 笑い飛ばしたひとり居の夏   茂木タケ
足どりの重い軽いもカウントす万歩計の数のはぐくみ          西村英子
遠き日のほろ苦き恋は星屑に 七夕祭りを素通りしたり        三越誧子
終戦日の鈍色のにわたずみ 足踏み入れて消えざる汚泥        みたけもも
大空を二分して伸びる飛行機雲弥生の風に散らばりてゆく       天田勝元
咲ききった真紅のバラの首パチンと切る どなたか私にそうして下さい 伊藤由美子
百本足の二十五本目の足がもつれて針金の渦に干からびている     岡本達子
沖縄戦特別攻撃隊出撃の戦死者一〇三六名大尉中尉少尉        大場ヤス子
亡き母は涙で見えぬと語りいし初孫の顔わが頬を濡らす        菊池悦子
幼き日友と遊んだビー玉が心の倉庫で飛び跳ねている         小池心子
畦道の草に紛れて人と猫騒音届かぬ丘の早朝            小林モト子
真夏日となる日の朝に水遣ればトマトの上に虹が生まれる       斎藤幸子
カッコウに呼ばれてるがごと振り返り見れば顕ちくるふるさとの景   﨑田ユミ
山の水激(たぎ)つ集落ひとけなく釣船草の今し帆を上ぐ       佐藤香林
焼香の香の残りいる指先に切れたる糸を手繰りておりぬ        佐藤真理子
地図の駅ドラッグしたら涼やかな風の抜けゆく森の見えくる      反町光子
夏祭りみどり児がともに民謡を踊りまくれど行く末想う        坪井 功
1月集より
蜘蛛の巣を顔に掛けた時ほどのつらさも見せず君われを捨てぬ     元井弘幸
黄色い帽子黄色いカバーのランドセルふわり現る朝の四つ角      大塚美奈
作品Ⅱより
あかつきに咲きそめいしが夕暮にはや萎みたる朝顔の花        秋山充利
百日紅白く咲き継ぎ炎暑の中を雪の舞うよう境内は          石田春子
つやつやの椿の種子(たね)に触れたれば濃いみどり葉に母の目差  江原由美子
手を上げて横断歩道をわたる子のとりどりのランドセル眩しく光る  大川紀美枝
公園の小さき木馬向き合いて昔なつかし幼子減りて          櫛毛宣幸
抱く子の鼻水しゃらんと拭う父竜舞うシャツの裾をめくりて      小澤嘉子
見過ごせし茄子の紫紺にもどりゆくジーンズの藍 赤城山嶺(やま:ふりがな)の夕ぐれ 小曾根昌子
合戦と殉教の世は遠くすぎ車でわたる神流川橋            清水静子
京芋の大き葉のゆれわが背丈越えて畑の主となりし          田中理泉
浅間嶺の噴煙染める夕明かりの薄れる見つつ野を帰りたり      藤巻みや子
退職の祝いに子から贈られた「今ここだけがここに」繰り返して聴く  萩原敦子
本心を言葉にすれば休まらず夏真昼間の風騒ぐなり          茂木惠二
雨の朝歩道橋は傘舞台色とりどりが校門に消え            井口邦子
白波が運ぶテングサ数多採り抱える籠に朝日射し入る         井出堯之
最悪なる日を踏み出す手作り帽子を浅く被りて           川西富佐子
海底を突き刺すように直立した潜水艦は昭和の御影(みえい)   久保田三重子
天国に最も近き露天風呂周囲は映えた黄や紅に染まる        高橋眞砂江
明日北の赴任地へ向かう息子今スマホいじりて母から離れず     牧野八重子
連載「のづかさ」五十年つづけきて短歌五千余首猛暑のなかに三十首挑む   大場ヤス子
題詠「傘」浦安の舞に送られ相合傘に守られ笑顔の新郎新婦     板垣志津子
やぶれがさ大葉(おおき)の下ひそかにも破れた傘の花白く咲く    大場ヤス子
大輪の牡丹の花に差しかけしパラソル雨に少しかたむく        反町光子
核の傘展げる先に彼岸花絵柄の傘の展げおりたり          みたけもも
「破れ傘」その名の知りて木隠れの気取らぬ小さき白い花観る     宮崎 弘
HANI2017年11月号 NO246
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「〈ことば〉のちから」 森 たま江
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1977年第7号(秋季号)
作品Ⅰ    下記により抄出
時評 「歌会は人工知能と」 元井弘幸
山下和夫の歌連載49 小原起久子
ONE MORE ROOM 一点添削・囲いの中が添削箇所  山下和夫
ことばのページ twice「仮名遣いトレーニング(4)」青木晶子
11月集    大塚美奈・藤巻みや子・茂木惠二・秋山充利
作品Ⅱ    下記により抄出
特集 喩について
「歌の力」       池内紫萃
「若き歌」       石井恵美子
「直喩と隠喩」     矢島由美子
一首鑑賞        大場ヤス子・反町光子
「のづかさ」日々それぞれに 井上俊子
サークルにおける勉強風景その4 小原起久子
ブログより「こころに効く短歌」その1 小原起久子
題詠 穴
ESSAY  「吟行 」 矢島由美子
御裳濯河歌合(16) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(19) 山下和夫著
ばうんど
5月号作品評 
作品Ⅰ評     堀江良子
15首詠・月集評 若山節子 
作品Ⅱ・題詠評  宮崎 弘  
作品Ⅱ・寸感 森 たま江
ESSAY  「古希を越えて」 今井五郎
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当    若山節子

会員作品 11月号より

15首詠より 
目薬は的を外れて頬つたう夢のつづきの涙ではない          牧口靜江
揺れている車中の吊革に揺れながら身の量ほどの時をゆだねる     西村英子
まねきんとなりて棺(ひつぎ)の花のなか煙(けむ)らばましろき胡蝶となりなん 相良 峻

山下和夫の歌
花吹雪くまっただ中に立ちている襤褸の乞食もっとも潔し       山下和夫

作品Ⅰより  
一世(ひとよ)の途次のつまずきやすき暗がりに一夏(いっか)の蛍の小さきが点る 小原起久子
箒草 枯れたのだから嬉々として空飛ぶ夢を企てようよ        宮澤 燁
漱石の本より抜け出た黒猫が物怖じもせず吾が膝にのる        若山節子
放置田に生(あ)れし紫薊(しあざみ)全身に棘を残して絮(わた)とびゆけり 森 たま江
残雪の峠輝くバスの窓華やぐ声は明日を消しおり           宮崎 弘
くれないの闌(た)けて葉陰に花蘂や小野小町(こまち)も共に友と集いぬ 堀江良子
障害児教育にたずさわりきし娘の手足 その自由を神は奪いき     青木晶子
欲しい顔して寄ればたかんなは掘って掘ってと皮ふくらます      佐藤和子
黄昏の風景もまたよし沈む日に影絵となれる今生の映る         江原幸子
藤棚の老木のもと行きずりの友と語らう春うらら            石川ひろ
職辞して出かけぬ一日蜘蛛の巣をばらのアーチに張らせたまま過ぐ    元井弘幸
古代には尾があったヒト 汚(よご)しゆく地球に居座るホモ・サピエンス 茂木タケ
散り敷きし木蓮の花びら吹かれ来てわが下駄箱の白き靴ベラ      赤石美穂
わが背なを夏の日差しがちりちりと啄みており タチアオイ咲く    池内紫萃
軽やかに吹き来る風に汗ばんだつなぐ手を離しそよがせてゐる     石井恵美子
ライラックと知りしは遥か幾度の転居の末は花も木もなし       遠藤良子
たっぷりと樫と椎の木水かかえ気負いて尖る青葉の直立        菊池 葩
今日からはここが私の暮らす家一人掲げる青い鳥の絵         萩原教子
鎧いいしシャッター開ければ足下より五月の光さっと入りくる    みたけもも
竹の子の皮をむきつつ思い出す「竹の子生活」 父・母も居し     三越誧子
誰が墓とわからぬままに古き墳をちこちに見ゆ故郷の野に       天田勝元
知覧なる特攻隊の基地発ちて特攻兵は征きて帰らず          大場ヤス子
青空のしずくのようなネモフィラの俯く我に見せる青空        岡本達子
新緑のダム湖に下り来てきょろきょろと雪解けを飲む鹿 われと眼が合う 今井五郎
祭り囃子の去りたる街を帰りゆく少女ら浴衣の袖たくし上ぐ      板垣志津子
手術後の泣き笑顔まで艶やかな従姉のような紫陽花の青        菊池悦子
太古よりこころに宿る遺伝子が巡礼せよと旅をせかせる        小池心子
荒天にふり回されて日本列島山紫水明崩れゆくなり         小林モト子
真っ白き浅間を眺め往き帰路に雪解け水か一すじ走る         斎藤幸子
日溜まりに咲く水仙は婆(バーバ)のごとし日陰に耐えて咲くはおのこかや 﨑田ユミ
菜園に丈伸ばしゆく向日葵よゴッホの絵になる花見たきものを     佐藤香林
古書好きの伯父祀られいる靖国は骨董市の人にあふれる       佐藤真理子
近づけばまたほうほうと啼きはじむ頭上に鳩が卵抱きいる       反町光子
介護士らひがなもず忙(せわ)しげに言の葉少なく静盛り返る     坪井 功

よ 11月集より
子の為に捕えんとした蟹 指先に残る小さきハサミは二ミリ      大塚美奈
木の下にひとりいるとき朝雨は夏椿ひとつ落してきたり       藤巻みや子
あこがれて作りし家庭 一皿の采(さい)一人ずつ食べている今    茂木惠二
草の穂の早や彩れる秋にしてこのごろ吾も病みやすきなり       秋山充利

作品Ⅱより
絡みたる朝顔天に向かいつつ雨降る中に咲かす青色          石田春子
静かなる水面に映える杜若花寺回廊ゆうらり行く          江原由美子
手をあげて横断歩道をわたる児のとりどりのランドセル眩しく光る  大川紀美枝
蜩(ひぐらし)の声を持ちたる初夏に二声鳴いて夕闇迫る       櫛毛宣幸
足元に積もりし藤の花がらを踏みて春の憂いを越える         小澤嘉子
さまざまな絵から読みとる楽しさをあまたの本が子に運び来し    小曾根昌子
畑隅に紫苑を残し耕しぬ明日は大根の種を蒔こうか          田中理泉
梅雨晴れに草引く腕にバッタの子足をすりすりいずこへか消ゆ     井口邦子
英検をすんなり通る少女なり幼き仕草ひとつ消えおり         井出堯之
可憐なるナガミヒナゲシ道端に抜かれ棄てらるるただただ嫌われ   川西富佐子
焦げ付くのはいつも同じ鍋の底かなり根深いこの嫉妬心      久保田三重子
安政の薬師堂の梁になお張り付きしままいつの空蝉          清水静子
久々に来し天然温泉常連客とにこやかにあいさつを交わす      高橋眞砂江
五月の風に包まれていまかなうなら息も吾もあの若葉になりたし   牧野八重子

連載「のづかさ」昭和一桁生まれの歌人 より
枯菊の根を掘りにつつ昨夜落ちし星のかけらを探す          井上俊子

題詠「穴」
裁縫の時間に覚えし穴かがり七十年経てヴラウスに刺す       板垣志津子
電球を入れて繕う母ありき私があけた靴下の穴           大場ヤス子
しずしずと伸びし大根の底力ようやく抜ければ大穴深き        岡本達子
仕舞い忘れしセーターに穴三つ蟫の笑顔の見えくるような       菊地悦子
虫喰いの穴ありてなお枝先につながっている一葉とわれ       佐藤真理子
HANI2017年9月号 NO245
目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「苦悩・苦悶」 菊地 葩
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1977年第6号(夏季号)
作品Ⅰ    下記により抄出
山下和夫の歌連載48 小原起久子
ONE MORE ROOM 一点添削  山下和夫
ことばのページ twice「仮名遣いトレーニング(3)」青木晶子
9月集    矢島由美子 みたけもも 反町光子 小林モト子
作品Ⅱ    下記により抄出
一首鑑賞   板垣志津子 秋山充利
特集 火と炎について
「火は歌人のうちにある」元井弘幸
「情と思いを反映」   相良 峻 
「いのちの炎」     石川ひろ
御裳濯河歌合(15) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(18) 山下和夫著
題詠 地
ESSAY  「イメージトレーニング 」 宮崎 弘
ばうんど
5月号作品評 
作品Ⅰ評     江原幸子
15首詠・月集評 石井恵美子 
作品Ⅱ・題詠評  佐藤真理子  
ESSAY  「鳥」 小林龍子
編集後記
表紙絵担当    若山節子

会員作品 9月号より

15首詠より 
月も映さず身投げもさせず古井戸は時を充たして今を息づく      赤石美穂
ガラス戸の古びる学生寮に会い三人(みたり)と寝食ともにせし日々  佐藤和子

山下和夫の歌
丈よりも高き穂草を薙ぎてゆくわれを薙ぐべき鎌汝も持つ       山下和夫

作品Ⅰより  
波打ち来れば海へ回帰の尾を揺らす サーファーの海馬の一匹    小原起久子
われは今二百円のビニール傘骨折しても馴れて慣らされ        宮澤 燁
夕暮れに文字はかすみて引き寄せる百円ショップの天眼鏡       若山節子
やわらかに陽をこぼしいる雑木の道あてなき歩みの果てはみえざる   森 たま江
渡来して「オオイヌフグリ」の名を拝し春の城址の野面(のもせ)彩る 宮崎 弘
喧騒に寂しさ遺し紛れゆく亡父やも知れぬ山高帽子          牧口静江
風の橋 銀杏橋に煉瓦橋 多摩の丘陵結ぶ陸橋            青木晶子
幾たびも生死のドアをくぐり来し老いたるラクダに流砂はささやく   堀江良子
くるはずのメールは届かず秋暑き庭に蝉のなく声なだれる        江原幸子
自転車のギアを催促に入れかえて朝を我は鳥となりゆく         石川ひろ
「ストレー・シープ(迷える子羊)」とおのれを詠いし日の杳し徘徊する身と吾(あ)
もなりゆくや        茂木タケ
口のなかに融けしジェラート 果実の粒を去りし友のごとく数えたり  元井弘幸
首すぢに海風冷たい氷見の町清みたる汁ごとうどんを啜る       石井恵美子
雪の名を冠した花は青芝の公開空地に降り積もりおり         池内紫萃
忙しいと言うほどもなき日の暮に少なき髪をそそくさ洗う       遠藤良子
宣誓の右手は高く空をさし野太き声に鎮まるしずまる場内       菊池 葩
うすら陽をまとえるさくらの匂やかに湯浴みてあなた佇みおりき    相良 峻
久々に我が古団地賑わえどたった一匹鯉のぼり泳ぐ          坪井 功
錦繍も美食もいらぬ念願のアウトレットへ子に連れられて       萩原教子
立つことにつかれ果てたる大木がさざ波あびて湖(うみ)に横たう   西村英子
核無きを目指し祈れるオバマ氏の背後の鞄は核のボタンが       天田勝元
母の日に届きし品を重ねていうな母にならざる人もおるなりここには  伊藤由美子
遠き日の遠足の尾根をのぼりゆくエメラルド色の火口湖に逢いに    今井五郎
母となる海を満たしたその日より児はひとりでに進化をたどる     大塚美奈
九歳のわれひたすらに暗誦せり教育勅語世を騒がせる        大場ヤス子
花瓶の珠実赤味増しくるこの日頃庭の千両食べつくされし       岡本達子
初恋のひとの如くにわが眼引く古書店の隅「辻邦生」の名       菊地悦子
英霊の追悼式に献花する遺児の白頭 桜花舞い散る          小池心子
適うなら魔法のポケット一つ欲しまず取り出そう不老の薬       小林達子
野菜を売る前に四五本置く苗木桜にひかれ買い来たれども       斎藤幸子
九十歳の姉のいれくれし緑茶呑むほろ苦く甘し 生きいるふるさと   﨑田ユミ
旅路より飼えりたるわれの足洗う立浪草の白き群落         佐藤真理子
寒き日に着てゐし上着置き忘れわが身に問へど訝しむばかり      佐藤香林

よ 9月集より
満開の桜の花房手に触るる わが三十一(みそひと)文字は満開ならず 矢島由美子
クロースに付着している猫の毛を飛ばせば宇宙に積もりゆく混沌    みたけもも
薄曇りて花びら閉じるにほんたんぽぽ開いたままの西洋タンポポ    反町光子
穂の出でし麦の田続く夕まぐれ老犬連れて行く人もまた        小林モト子

作品Ⅱより
豚はみな上には向かず鼻先を下向に向けて生きているかも        秋山充利
家持の詠みし堅香子足元にゆれいる紫地に這い見上ぐ          石田春子
丘に建つ校舎の窓を額にして牛伏山(うしぶせ)の緑写生する子等   江原由美子
さんざめき群れいる子等のごとくにも黄の香をはなつ金木犀は     大川紀美枝
おきざりの干柿ふたつ 核心を語らぬ友の座りし椅子に         小澤嘉子
真紅あり絞りもありてひと冬を一樹につけし椿花咲きつぐ       小曾根昌子
金色のショールはおりしマッターホルンに見惚れておりぬバラの香の部屋 田中理泉
ひともとの山桜映す峡の田の静かなる水に黄砂ふる昼         藤巻みや子
早咲きのさくら一本ほっとりとごみの溜りに咲きいだしたり       茂木惠二
こきうすき緑の中の白き花「生きよ」と叫ぶ亡夫(つま)の声あり    井口邦子
南北の松明揃い門松はサイレイサイリョ鞍馬に響く           井出堯之
購える桜小鉢に草餅を載せて供えし祖母の命日            川西富佐子
糸でんわのピーンと張った向こうから耳をくすぐる春のうぶ声    久保田三重子
振り向けば猫と目が合う見上げれば雀が見ている 野生のわたし     清水静子
「早春賦」歌い春待つ母なりし 七十四才の冬に逝きたり 高橋眞砂江
むつ、ななつ。やっつ目だけが芽を出さぬ地上の善悪見たくないのか  牧野八重子

題詠より 「地」
芝焼きの煙あびおれば聞こえくる地に湧き満ちる春のうぶごえ      若山節子
紅茶の色は五月号兼題の「地」滴滴のブランデーを慈雨として      今井五郎
地中海・カリブ海・ドナウ・ナイル川豪華なる旅 クルーズ船     大場ヤス子
百年ぶりとほめられどっさり青き雪ようやく消えて地表に芥      小原起久子
下駄箱の隅に緋靴(シューズ)を閉じ込めて地平線を行く日企つ     宮澤 燁
HANI2017年7月号 NO244
 目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC「夢と現実と」 池内紫萃
15首詠     下記により抄出    
山下和夫の歌 下記により抄出  1977年第5号
作品Ⅰ    下記により抄出
時評    「あしたのこと」   石井恵美子
山下和夫の歌連載47 小原起久子
特集 香について
「心の余裕」  牧口静江 
「匂いを感じる」宮崎 弘 
「香と匂い」  佐藤真理子
ONE MORE ROOM一点添削 山下和夫
7月集     下記により抄出
作品Ⅱ     下記により抄出
ことばのページ 「詠みながら学ぶ文語文法」森たま江
のづかさ~昭和一桁生まれの歌人 「ろうばい」遠藤良子
御裳濯河歌合(14) 時緒翔子
『炎の女たち』古代編(17) 山下和夫著
一首鑑賞  佐藤香林 久保田三重子
題詠 雷
ESSAY  「国民学校の時代」板垣志津子 
     「短歌との縁」  藤巻みや子
ばうんど
3月号作品評 
作品Ⅰ評     小原起久子
15首詠・月集評  相良 峻 
作品Ⅱ・題詠評  佐藤和子  
作品Ⅱ・寸感   森たま江
新刊紹介
編集後記
表紙絵担当    若山節子

会員作品 7月号より
15首詠より 
満天の星の雫がこぼれおりあなたのいない北の窓辺に   若山節子
15首詠より  
福寿草咲き初む庭の片隅に山茶花が散らす紅き花ビラ   小池心子
山下和夫の歌
枯れたる原に向かいて椅子一ついつよりかわれを待つごとくあり山下和夫
作品Ⅰより  
河鹿蛙のただひたすらを聴きましょう 涼しき筆に誘いくれたり小原起久子 
母の足裏おろかに美し土割りて芽吹きたる麦を三度も踏みつけ  宮澤 燁
川底の朽葉に届くいやおいの光に捜す確かなる明日       森 たま江
痙攣の右足おさえときを待つ泣くも笑うもわが待ち時間    宮崎 弘
柔き草踏みつけ歩き悔残る一世なりしか石に躓く       牧口静江
難病の診断下りし娘(こ)のもとへ湘南ラインに揺られつつ行く 青木晶子
白月の透みて蒼天輝きぬそらみつ倭(やまと)に雁卵(かりこ)を生まず 堀江良子
聞こえるはせせらぎと我が踏みしめる枯草の音          石川ひろ
葉牡丹に水掛けながら聞きし愚痴色鮮やかな渦に投げ込む   佐藤和子
理由なく今宵の集会欠席しみるともなしのサッカー試合    江原幸子
梢より雪の散りぼう参道を真青な空まで昇りつつあり     相良 峻
庭先の越前水潜咲き初めて卒寿のわれの春のさきがけ     茂木タケ
振り払うもの多き右(め)手が朝あさを菜箸まろばせ玉子を解 赤石美穂
風花は羽毛となりて上がりゆきやがてわたしも消えさる身です 池内紫萃
ジャージからジーンズに替へたり夫は 息子夫婦が蟹食ひにくる 石井恵美子
落したる鉛筆拾う手と影が同時に伸びて重なり掴む      遠藤良子
鉦うちてまた打ち恨みの言の葉の笑いも供えり月の命日    菊地 葩 
「福は内」の声流れこぬ家並に「鬼は外」と 小声に蒔けり  斎藤幸子
夕暮の淋しきかたち鴉一羽水を飲みゐる道の窪みに      佐藤香林  
うすべにの山茶花開きはじめたる家への露路 はほのかに温し 佐藤真理子
自転車に坂道くだる少年は背中にみどりの風を生みたり    反町光子
清々しき色とりどりの吊し雛が飾られしサロン笑顔のはじける 坪井 功
虎刈りの芝生も褒めやる職退きし夫はシュールな新人庭師  萩原敦子
夕暮れのすとんと秋の落ちてきて足早に過ぎる筋トレの脛  みたけもも
ひなの夜のお寿司そなえる静寂に五人囃子が聞こえたような 三越誧子
美丈夫の如き通じのありしこと年の初めの手帳に記さん   伊藤由美子
真冬日の朝の背徳ノンアルコールビール冷たく喉を過ぎゆく 大塚美奈
梅りんご杏すいみつ花の色きそふ季節の遠しふるさと    大場ヤス子
屋根と壁塗りかえるらしホースにて丸ごと洗われている四角な家 岡本達子
この年に訪ね来しひとの声の色聴きたる客間の障子を洗う  今井五郎
年末のなづなに莟ふくらみて地上五センチに春が来てゐる  板垣志津子
数多ある瑕持ちながら四十年仄温き肌素焼きの湯飲み    菊池悦子
ヒュールルル聞こえ来る音は木枯しに追われ去りゆく秋の足音 小林龍子
白銀に輝く上州山々のやがて霞に消えるを憂う        小林モト子
7月集    
雪庇より落ちる滴の奥に棲む岩魚ゆらりとわれを待ちおり    元井弘幸
7月集     
明滅蛍にあが歓声を追えば暗闇にあまたの踵         西村英子
7月集    
弾きがたる切れんばかりの弦の音に光秀攻めゆく本能寺へと  﨑田ユミ
7月集
家々に屋号のつきて土産物並べてをれり大内宿は       天田勝元 
作品Ⅱより 
うらがれて白くなりたる庭草に小草が顔を覗かせている    秋山充利
木守柿鴨に食べられ高きより揺らす木枯らし顔に冷たし    石田春子
精進は今年の抱負青空へ書き初めの文字浮かばせてみる     江原由美子
ネモヒイラの花のブルーに染まる丘空の無限に冴え冴え吸わる 大川妃美枝
鍵盤の波間に揺らぐピアニシモ透明の滴ころがるように    小澤嘉子
若きらの声のはずみが香を揺らすカサブランカか百合かといいつつ 小曾根昌子
枯枝を潜(もぐ)り潜(くぐ)りて小雀の色照り映える南天の赤 櫻井冨美惠
大利根より細き氷に上りきし鮎を焼く香の風にのりくる     田中理泉
ぼんやりと薄色の月上りくる一度だけでも音立ててみよ    藤巻みや子
納戸には歴史流れる息(こ)の本にわが本たなより追い落されて 茂木惠二
大利根の速き流れに花筏(はないかだ)かさなえりあいて浮き沈みゆく 井口邦子
梅の枝に神霊移り願人(がんじ)打つ太鼓高らに鳳輩動く    井出尭之
欄干にダルマ一対薄汚れペンキ剥がれて泣顔に見ゆ      川西冨佐子
若者が一心不乱に塗る壁の技を育む左官の親方       久保田三重子
ゆったりと目だけ動かし歌を詠む十年ぶりの電車の遠出     清水静子
寝ぼうしていつもと違う時間帯いつもは会わぬ少年と会う   高橋眞砂江
リビングにあかい絨毯撫でながらペルシャの織子の指先思う  牧野八重子
のづかさ  
あしなえの夫に向き咲くろうばいの昨日一輪今日の一輪     遠藤良子
HANI2017年5月号 NO243  目次
MICROSCOOPIC &MACROSCOOPIC  言葉の常備薬 若山節子
15首詠     下記により抄出
山下和夫の歌 下記により抄出
作品Ⅰ    下記により抄出
時評「短歌の力」石川ひろ
山下和夫の歌連載46 小原起久子
ONE MORE ROOM 一点添削・囲いの中が添削箇所 山下和夫
ことばのページ Twice  仮名遣いトレーニング 青木晶子
5月集     下記により抄出
題詠 神
受贈書紹介 歌集幻想家族 笠原真由美   堀江良子
作品Ⅱ   下記により抄出
特集色彩について 色彩の力      江原幸子
色は情感を刺激する 相良 峻
第17回プログレス賞発表
受賞作品 赤石美穂
評 宮澤 燁  石川ひろ
のづかさ~昭和一桁生まれの歌人 耳腺30首 斎藤幸子
御裳濯河歌合(13) 時緒翔子
「炎の女たち」古代編16 山下和夫
一首鑑賞  天田勝元 小原起久子
ESSAY 1月の私 大塚美奈
ばうんど
ESSAY 短歌に出会っていれば 茂木惠二
新刊紹介
11月号作品評
作品Ⅰ評      森たま江
15首詠・月集評  赤石美穂
作品Ⅱ・題詠評 西村英子
編集後記
表紙絵担当      若山節子
会員作品  5月号より
15首詠より  
原爆を投下するには理由(わけ)が要る知られざるわけテレビは暴く 宮崎 弘
15首詠より  
さよならを決めた朝はすこしだけホットミルクの甘くなり   池内紫萃
15首詠より  
まひるまをわがゆびさきに開かれた身のまままろきハニーバンタム 相良 峻
山下和夫の歌 
闇の道来し掌に握手かさねつつはるばるとわれの何か失せゆく  山下和夫
作品Ⅰより  
その母に肖てまた晩年を父に似る 鏡の中に余光さがせば    小原起久子
南スーダン弔慰金90000000増額増額す喇叭吹きいるこの黄水仙 宮澤 燁
人影が小さく消えゆく散歩道この世をあまる老いわれひとり   森 たま江
風紋の美しき砂丘をのぼりゆくたどりつけない春をたどりて   若山節子
朝の日が柔く瓦をすべり来る師走の街の静かなる明け      牧口静江
運命の出会いを恐れ早春のペットショップのドアーは押さず   堀江良子
人生の苦しみを歌に詠みきたる友の姿は梔子の花        佐藤和子
切ったはずのエアコンまだ低く唸るクールダウンまで大切な時間(とき) 江原幸子
鈍色の空にガンガン泣き交すV字戦隊組んで雁来る       菊地 葩
「すぐ逃げて」テレビが叫ぶ震源はまたもフクシマ 哀しフクシマ 茂木タケ
いしぶみのいわれ覚えず女性ガイドのマニキュアの赤思い出しおり 元井弘幸
ポイントの三点得るべくパンプスが鯛焼き売り場へ踵を返す   赤石美穂
白寿なる姑の作る黒豆のストーブの上に煮詰まりてゐる     石井恵美子
まだ呆けてなんぞいないの意気込みに受話器のむこうの娘と話す 遠藤良子
遠き日の運動会に見た空の群青を仰ぐひとり鳶を追い      菊池悦子
いつか逝くあの世への道照らし出すスーパームーンを中天に見る 小池心子
真冬日の昼間のぬくもり懐に子の帰り待ちつつ煮ぼうと作る   小林モト子
菜の花にもつれもつれて黄色蝶ゆめを忘れたわれときめかす   小林龍子
草取りをする手に湧きてオンブバッタ一瞬にして空に吸われる  斎藤幸子
見るたびに名の無かりけり短歌欄に気丈な兄にも 老妻の死は  﨑田ユミ
スーパームーンでありしは三日前騒がれぬ夜を輝きわたる    佐藤真理子
揺れやみて風露草いま白山の光の中に濃き影をおく       反町光子
高齢者と線引きされて自問する柱に寄りて背すじを伸ばす    西村英子
玄関に落葉の舞い込みて我を訪う今日の客とす         三越誧子
山の色は緑と批判したる人に今日の榛名の7青を見せたや     天田勝元
ロウバイの黄をきわだたせ図書館の窓に広がる空の水色     今井五郎
神楽殿におかめ・ひょっとこ田植ゑする神も笑ひて除き覗き見に来る 板垣志津子
青空に広がる真綿晩秋蚕終えたる妣は冬支度せん        岡本達子
5月集より
蕗の薹師走の庭に芽吹きたり 春知らぬまま摘まれしいのち   佐藤香林
右京太夫に我を重ねし日もありき 書架より引き出す古き家集を 青木晶子
馬頭尊冬日浴び現御座す秩父暴徒の逃れし旧道         大場ヤス子
父の笑顔母の笑顔の交わりて我は生まれたり雫となりて     石川ひろ
作品Ⅱより  頬笑める友の遺影に涙せり帰路に浮かび来る歌会の顔 石田春子
ソプラノに揺れる空気に瞬ける星も聴けるかこのアヴェマリア  大塚美奈
雲間より十五夜の月は出でにけり老いたる二人と一匹の影    岸田佳子
海原をゆく舟の生(な)す波映る白足袋の先摺り足に舞ふ    小曾根昌子
鈴生りの日に輝きしかりんの黄所在なさそに地球(てら)に転がる 菅谷喜至子
幼子らの喊声響きし古団地はや三が日静もり返る        坪井 功
北の部屋カーテン開け閉めする度にわれ裏窓のヒロインとなる  萩原教子
幸せを感じない日が続くのは枯葉を踏んで歩かないから?    藤巻みや子
かりがねは夕空たかく飛びゆけるかぎ型くずさず山の彼方へ   秋山充利
時間経た美味い硬さを競うならフランスバスケット日本の夫婦  井出尭之
広隆寺闇に座れる弥勒さまあふれる笑みに憂い覗ける      江原由美子
先立ちし息子(こ)の顔おおう白菊を老母(はは)は払いて頬を寄せおり 小澤嘉子
若沖の襖絵より抜け出たり 赤かぶ 我の五感目覚める     川西冨佐子
ゆず三つ湯船に放てばその軌跡三角形を無数につくる      久保田三重子
俯いてピカチュー捜す男の多し女は現に欲しいものあり      清水静子(新会員)
養蚕に栄えし農家の大欅昭和もともに伐られたり         高橋眞砂代
雲の上にまた雪の降り初生りの金柑ひとつまた一つ落つ      田中理泉
ほっこりのひざしの中で縫い物の母のわきには五歳のわたし    牧野八重子(新会員)
裸木となりたる道を走りゆくわが汗オーデコロンと交差す     茂木惠二
プログレス賞
「秋映え」の芯を見ようと仄黒き林檎一果にナイフを入れる   赤石美穂